依存を超えて自分を生きる
「依存」という関係性をリアルに描く
この世界にはいろんな人間関係があるけれど
個人の自立を阻む「依存」関係が
とてもリアルに描かれている作品だと思った。
過干渉の親のコントロールなどによって
自己愛や自己肯定感が育たず
そのかわり
「頑張って成果を出さなければ自分には価値がない」
という観念が育ってしまい
親や他人に認めてもらうために
自分の本来の意志とは違う動機で頑張ってしまう人は
現代社会にはとても多いのではないだろうか。
主人公のリサはその典型だった。
「あなたは私がいないと何もできないんだから」
というのが口癖で、娘であるリサの人生すべてを操縦しようとする母親。
その母親に認めてもらいたくて
その母親の支配から自由になりたくて
頑張って
頑張って
身を削りながら
彼女は文壇の女王にまでのし上がった。
はたから見てたら人もうらやむような地位や名誉を
自分の力で築き上げた人生。
それは確かに素晴らしいことだし
ある意味幸せでもあるかもしれない。
でも、
「自分自身の無価値感」と引き換えに得た成果は
無意識であろうが常に「失う恐れ」と共にある。
「成果」を失うわけにはいかない。
なぜなら自分自身が消滅してしまうから。
だからリサは
あるとき小説が書けなくなっても
「文壇の女王」という、身を削って築いてきたその地位を
捨てることは出来なかった。
罪悪感を感じながらも
担当編集者の野望や出版業界の現実としがらみもあいまって
自分のアシスタントをゴーストライターへと導いていき
どんどんと深みにハマり
相手の人生を壊し
どんどんと破滅の道を歩んでいくことになる。
その心の葛藤と
雪だるまのように破滅の道が膨れ上がっていく描写が
とても秀逸だと思った。
人生におけるどんな大きなトラブルや障害も
きっと最初はほんの些細な気の迷いとか心の弱さなのだろう。
ただ、それがどこまで肥大していくかは、
自分の心と魂にどれだけ背いているか、
そのズレと歪みに比例するのではないかと思う。
依存は連鎖する
自己肯定感が十分でないと
常に自分自身に「足りていない」から、
自分以外のもので満たそうとする。
そのためには依存対象としての他者をどうしても必要とする。
そうやって、他者に依存していき、
その依存は立場を変えて連鎖していく。
リサは、自分の母親にされてきたことと同じことを
自分のアシスタントでもあり
後に自分のゴーストライターとなる川原由樹と
自分の息子に対して
していくのだ。
そして、因果応報。
その描き方も見事だなと思った。
リサが母に支配されたように息子を支配するリサ。
そんなリサから自由になるために家を出る息子。
リサが母に対して抱く感情はそっくりそのまま息子から向けられる。
そして
母から口癖のように言われ続けてきたセリフは
ゴーストライターである川原由樹から突きつけられる。
「私がいないと何にもできないくせに」と。
リサにとっては一番聞きたくないセリフだろう。
結局、
すべては自分自身が生み出しているのだ
ということや
自分が放ったものは自分自身に返ってくる
ということが
こんな描写からも見てとれる。
良くも悪くもすべてはめぐる。
ならば何をめぐらせたいか。
人との関わりの中で
この世界との関わりの中で
何をめぐらせ
何を生み出したいか。
それはすべて自分の心が決めること。
改めて自分自身を見なおさせてくれるドラマだった。
感動のラスト
まるで、天国から地獄へというジェットコースターのような転落人生を
リサと由樹は憎み合い、対立しながら味わうことになるのだけれど、
その壮絶な体験を経て、二人協力し合うことで自分の人生を取り戻す。
二人とも、自分自身の足で立ち、文壇の世界に返り咲くのだ。
それも感動的だったけれど
個人的に心に沁みたのはリサと母のラストシーンだった。
娘のことも分からなくなってしまっている痴呆の母に、
それまでどれだけリサが自分の小説を読んでもらおうとしても
「あんな三文小説はダメだ」
と見向きもしてくれなかったのが、
生まれ変わったリサが
おそらく母とのことを描き下ろしたであろう新しい小説を
リサが寝ている間に読み終えて涙しながらリサを見つめ
ほほえんでいるシーン。
一時的にでも、痴呆の症状が融けて
リサのことを娘だと分かったのか・・・
そこまでは分からないけれど
リサの一番大切なものが、母と通じ合ったような気がして・・・。
リサが自分の足で立ったから、
母の呪縛から自分を解放して
自分を生きるようになったから、
きっと、本来の親子の信頼が結びなおされたんだろうと思った。
それまでのリサの葛藤を思うと・・・
胸が熱くなる思いだった。
そして一番ラストのリサの独白が沁みた。
偽りの人生をずっと悔いてきた。
偽りのない、本当の私の人生を生きたいと思った。
でも、偽りのない人生なんてどこにもない。
偽りの私も、本当の私だ。
愚かで愛すべき、私だ。
私はリサとはまったく異なる人生を送っているけど
リサと重なる部分がとてもあるからすごく共感した。
まるで私自身の独白のように感じた。
愚かで愛すべき
私の人生を生きたいと
改めて思った。
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