ツール・ド・フランスを舞台にしたロードレースに引き込まれる
この世でいちばん過酷な楽園
「エデン」は自転車競技の一種であるロードレースというスポーツの魅力について熱く描かれていた前作「サクリファイス」の続編で、アシストとしてチームに尽くす白石誓を主人公に、舞台は一気にロードレースの最高峰であるツール・ド・フランスにうつる。それまで自転車競技に全く興味のなかったわたしも「サクリファイス」を読んでまんまと引き込まれてしまって、新刊コーナーに「エデン」を見つけたときは即座に買ってしまった。作者の術中にはまってしまったようで少し悔しい。
「サクリファイス」は「犠牲」がキーワードになっていたけれど、今作の「エデン」は「楽園」がキーワードだ。「楽園」は自転車選手なら誰もが目指す「ツール・ド・フランス」のことなのだけれど、その「楽園」で繰り広げられる男たちの熱いドラマが、読んでいて胸を高鳴らせた。
ルールや紳士協定について知るほどおもしろい
初め自転車競技は陸上のように個人で順位を競ったり、リレー形式でチームごとに競ったりするものかと思っていたら、全く違っていてルールも複雑で面白い。とくに白石誓はエースを優勝に導くために、自分の順位は気にせずアシストに徹するポジションで、ロードレースならではの戦略によるユニークな役割だ。
今作でもエースのミッコのアシストとして活躍しているのだけれど、プロチームの一員として続けていく上で避けて通れない問題や、人種差別などリアルな話題も出てくる。白石誓を通して随所で海外の地で活躍することの大変さを素直に感じさせてくれるのも良かった。
クリーンな主人公とクリーンでない世界
「サクリファイス」を読んですでに、ジャージの色がどれだけ名誉なことか知っているから、白石誓が山岳ジャージを獲得したときはとても嬉しかった。だけど注目を浴びたことでドラッグの売人に声をかけられてしまう。
「そうやって、自分だけが満足していればいい。だが、おまえの名は歴史には残らない。クリーンでなくともニコラの名は残る。そういうことだ。」
この話を読むまで、プロスポーツ選手のドーピング問題がニュースで出るたび「どうして」のところで思考が停止してしまっていた。だけどもし、どんなに努力しても勝てない相手がドーピングしていると知ってしまったらどうだろう。それがすごく苦しくて弱っているときならどうだろう。プロの世界で戦うということは命を賭けるということで、それならドーピングで命を縮めてしまうとしても、たった一度でも勝てる方を選ぶんじゃないかと思った。でも、その誘惑にも負けずに自分を持ち続ける白石誓に救われた。
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