スクエニのお家芸となりつつある四コマギャグ漫画の最先端
四コマギャグ漫画の最前線を走る作品
『月刊少女野崎くん(以降、野崎くん)』はスクウェア・エニックスのウェブコミック配信サイト「ガンガンonline」にて連載中の漫画だ。
月2回更新の四コマ漫画であるため、掲載ページは一般的な漫画より少なく、単行本になるスピードも遅い。現在(2016年4月)時点で連載期間は五年になるが、まだ既刊は7巻である(およそ半年に一度のペースだ)。
現在漫画業界は、ニッチなはずのweb掲載作品が人気を集めることが珍しくなくなっている。作者の自作のweb掲載から人気を集めた『WORKING!!』や、アニメ化が予定されている『ReLIFE』などはまさにその好例だろう。読者層の手に取りやすいメディアによって一旦無料公開し、やがてコミックス化して書店に並び、新規の読者を拡げるという手法を取る出版社も多くなってきた。
作者に相応の報酬が入るならばちょうどよく読者とwinーwinの関係となるのだろうが、そこら辺のインフラ整備が整っているかは不明である(無料公開の期間があることで、不利益が高じてなければいいのだが……)。
ともあれ、『野崎くん』は特殊な掲載体形でありながら人気作品となり、アニメ化までした作品として、世の注目を集めているのである。
『WORKING!!』を超えることは出来るのか
同じスクエニ作品、ゆるい四コマギャグ作品ということで、『野崎くん』はやはり『WORKING!!』を意識せざるを得ない。『WORKING!!』は北海道のレストランを舞台にしたギャグ四コマ漫画で、秀逸なギャグもさることながら高いキャラ人気と恋愛模様で有名になった作品だ。
『野崎くん』も同じようなゆるい日常的ギャグ漫画である。四コマという体裁も同じでありながら、もっとも共通している点は個性的なキャラを最大の武器としているところだろう。
『野崎くん』は主人公の少女漫画家・野崎と野崎に恋する佐倉を中心に、野崎が漫画の参考に(ひそかに)している高校の同級生や先輩たちとの日常が繰り広げられている。レストランでの仕事を中心に恋愛模様を混ぜてきた『WORKING!!』と似たような構成となっている。
しかし、先にも述べたように『野崎くん』はキャラクターが最大の武器であり、『WORKING!!』にも負けず劣らずの魅力を持っている。
『WORKING!!』は刀を持ったウエイトレスやロリコンの主人公といったケレン味溢れるキャラクターがいたが、『野崎くん』は全員高校生だからか外見上はさほど際立った個性はない。
だが、見た目がごつい少女漫画家だったり、少女漫画ヒロインのようなイケメンがいたりと、漫画家が主人公である『野崎くん』ならではのキャラが光っている。
野崎はいつも漫画について考えているため、ヒロインである佐倉の恋は空回り。バスケ部の若松は憧れのローレライが天敵の瀬尾であることに気づいていない。みんなどこか一つ「残念」なのが、『野崎くん』に出てくるキャラクターたちの魅力であろう。
『WORKING!!』と似た傾向でありながらも、『野崎くん』は確かな独自の魅力を持った作品だ。いずれ『WORKING!!』ほどの知名度を得る日も遠くはないだろう。
しかし、名作になるには何かが足りない気もする
日常系ギャグ漫画にありがちな展開として、キャラクターの飽和状態にある。登場人物の少ない初期のころは楽しめたが、連載が長引くにつれてキャラが増え、面白さも減っていく……というのはよくあることだ(これがどうした心理によるものか、残念ながら筆者には明確な答えを出せない。単に飽きるのだろうか?)。
『野崎くん』も連載が進むにつれ、徐々に面白さが減ってきている気がする。作品としての目新しさが減るのか、それともギャグ漫画を持続させること自体が難しいのか、答えは判然としないが、コミックスを買うまででもない……という考えに読者が陥るのは極めて危ういことだ。
なぜなら、面白いものが描き続けられないとweb掲載で読者は満足してしまい、コミックスの売り上げにもならない。これは出版社としても受け入れがたい事態であろう。web掲載でどれだけの利益が発生するのかは不明だが、出版業界の現状を顧みるにさほど作者に恩恵はないと筆者は予想している。
ギャグ漫画を持続させることは難しく、『野崎くん』もまた人気作の階段を上り続けることに息切れしているような気もする(筆者は正直『WORKING!!』でも同じことを思い、途中で読むのをやめてしまったのだが)。
アニメで売り上げを増すこともまた販売・宣伝の一つの方法であるのだろうが、『野崎くん』が漫画史に残る名作になるかと問われれば、首をひねってしまう作品であることは確かだ。
漫画として頭ひとつ抜き出るには、もう一つ進んだ見どころが欲しいところである。これだけの光る個性を持った作品だけに、『野崎くん』のこれからに期待したい。
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