料理ものと思いきや、正統派の歴史もの
歴史モノは好き好みが分かれるが、見やすい作品になっている
読者諸兄は、「歴史モノ」「時代モノ」というジャンルが好きだろうか。
時代劇や大河ドラマといった歴史モノは、おそらく「見る人」と「見ない人」で二極化されるであろう。
見る人はとことん見るし、見ない人は全く見ない。好きな歴史上の人物が出るので見る、という人もいるだろうか。
筆者はどちらかといえば「見ない」派閥に入る。「時代モノ」「歴史モノ」で話の主役になるのは大体が戦や政治の駆け引きの話ばかりで、昔の戦なんぞを見ても、「ふーん」としか思えないのだ。ゲームの影響で戦国時代に傾倒していた時代もあったが、なにぶん近畿地方あたりになると戦も人物も多すぎて把握しきれないのである。
ともあれ、筆者のような人間は少なくはないだろう。「歴史モノ」は、好みが分かれるジャンルなのである。
しかし、そこに俗っぽい要素が絡んでくると話は別だ。「城」だの「戦」だの「姫」だの「殿」だの、「時代モノ」のメインに置かれがちなそれらを脇に置いて、「料理」や「庶民の生活」や「復讐」などに主軸を置いた話は、実に知的好奇心をそそられるものとなっている。
それら「復讐」や「料理」や「庶民の生活」といったテーマは、現代モノではそれほど新鮮みがないが、「時代モノ」という枠に収めることによって実に良い味を出してくるのだろう。
たとえば「復讐」でいうと、現代では銃やナイフや爆弾を使うのが相場だろうが、「時代モノ」の枠に収めると組紐や三味線や花の枝で戦ったりと予想もつかない方向で視聴者を楽しませてくれる。「料理」についても同じことが言え、どういった調理法をするのか、どういった食材を使うのか、などと興味深い要素となっている。
『武士の献立』も、「時代モノ」には珍しい「ごちそう映画」となっており、普段「時代モノ」を観ない層からも注目を集める作品となっている。
主演は上戸彩と高良健吾。脇を固めるのは西田敏行や余貴美子といった「時代モノ」に映えるベテラン勢だ。まだ演技の未熟な主役陣を、見事にサポートしている。
時代考証についても問題なしだが、テーマが隠れてしまうほど
しかしながら、料理モノと思われがちな『武士の献立』は、実際に観てみるとかなり「時代モノ」に近い作品といえる。
その理由については、実際にあった加賀騒動についてかなり詳細に描かれていることに依るだろう。
加賀騒動の主役であった大槻伝蔵やその一派の末路、また大槻との内通が疑われたお貞の方の物語まで、物語に濃厚に絡めているのだ。むしろ加賀騒動を話の主役に持っていこうとさえ感じられるほどである。映画の宣伝などで派手に掲げられた「ごちそうモノ」というテーマは、実はコテコテの時代モノに覆い隠されていた。
映画本編では、中盤に物語の重要な転換点となる「加賀騒動」が発生し、騒動は舟木家にも強く影響する。
前半は上戸彩演じる春を主役とした夫婦間の物語であったが、後半になると加賀騒動に巻き込まれ、夫婦の愛と絆が試されるシリアスな展開となる。
このように、『武士の献立』は前半と後半ではまるで違うテイストの展開になってしまうが、映画自体が2時間という長い尺を用意されているため、どちらも丁寧に描かれており、ぐだることなく最後まできちんとまとまっている。
だが、前半の展開が好きだと、後半の血なまぐさい展開はあまり好きになれないかもしれない。「料理」や「夫婦の絆」に期待してこの映画を観た人は、後半のいかにも時代モノらしい展開にちょっとがっかりしたことだろう。
言うならば、前半は女性向けの展開で、後半は男性が好む展開といえるだろうか。筆者も後半の展開はあまり好きになれない。
全体的によくまとまってはいるが、個性や見どころはない作品か
次は見どころや作品の魅力といった点に傾注していこう。
『武士の献立』は、まるで大河ドラマのように正統派の作り方をしており、最近の歴史モノにありがちなコメディ要素はない。
役者の演技も、構成も、音楽も、 全体的によくまとまっている優等生的作品ではあるのだが、少々堅苦しくなってしまうのが本音だ。
春と安信の恋愛物語も少々不器用が過ぎて、セリフ回しも古臭く、本当に古典じみている。刀を持って逃げた春が安信に釈明するシーンも、「どこかで見たことのあるセリフ」で心に響かない。まるで「昔の人」が書いた脚本のようだ。 若い人の観客を取りこむには、少々古臭い出来だったような気がしてならない。
また、二時間半という長さも人を選ぶだろう。先にも述べたが、『武士の献立』は前半と後半でかなりテイストが違う。どちらかに集中したほうが、はっきりと作品の個性や売りが出たと思う(また、エンディングテーマはどう考えても作品に合わない……)。
レンタルして観るにはいい作品だが、映画館で見るには印象に残らないし、DVDを買いたいとも思わない。どの分野もソツなくこなした優等生的作品というのも、難しいものだと痛感させられる。
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