名優に託した挑戦状 - ハイド・アンド・シーク/暗闇のかくれんぼの感想

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名優に託した挑戦状

4.04.0
映像
3.0
脚本
2.5
キャスト
4.5
音楽
3.0
演出
4.0

目次

わたしはこれを観客への挑戦だと受け取った。

この映画、初めに種明かしをすればいわゆる「二重人格」がキーとなっている作品。この「実は自分が犯人でした!」ってオチは…良くも悪くも非常にありきたりである。有名どころで言えばジョニー・デップの「シークレットウィンドウ」がいい例。若干方向は違えど似たような部類としてはレオナルド・ディカプリオの「シャッターアイランド」、「アイデンティティー」などなど。観客に「またか!」と思わせてしまう半面で、相当なことがなければ失敗もしないテーマ。そして独自性が認められれば「この作品は素晴らしい!」と評価される。安全策とも言えるが、わたしは敢えて勝負を仕掛けてきたと受け取っている。

しかし、ストーリーが進んでいく中できっと勘のいい人は3分の1もしない間に結末が読めただろう。わたしのように鈍感だと最後まで楽しめたかもしれない(自慢ではないがどれほどベタな映画でもほぼ騙されるわたしである)

作中の随所で「観客を騙すための意味深な描写」を散りばめていた脚本、少しばかり優しくなかったな…という印象。演出は悪くないのだが。

ロバート・デ・ニーロとダコダ・ファニングの共演は素晴らしい。

恐らく多くの人が思ったであろう、突っ込みを一つ。「どうみても祖父と孫だろ!」と、わたしも心から思いました。

それはさておき、やはりロバート・デ・ニーロの演技は素晴らしい。序盤の、冴えない疲れた父親像は完璧(悪い意味じゃなく) そして、心理学者として、苦悩し苛立つ父親としての顔、垣間見せる男としての顔、チャーリーとしての無邪気と残虐さを滲ませた顔。それぞれに深い感情があり、目の動きや眉の動き、ひきつる口元など顔だけでぐっとくるものがある。それに立ち振る舞いや、声、喋り方が乗算されてより引き立つものとなっているのだが。

ある意味、ありきたりすぎるテーマである「二重人格」も、彼が演じることによって楽しめたことは間違いない。

そしてもう一人の名優、天才子役と謳われたダコダ・ファニング。彼女の演技も本当に素晴らしい。

愛くるしい外見でありながら、少女特有の色気もある。そして何よりあの力強く大きな目は、子供ならざる力を秘めているようにも思えるし、子供特有の残虐さを秘めているようにも見える。あの瞳だけで無限の可能性を感じる(過大評価かもしれないが)しかし、ダコダ・ファニングは恐怖の演技がよく似合うこと!

無感情に虚ろを見つめる姿にも震えるが、大きな瞳を潤ませ泣きじゃくり震えている姿にぐっとくるものがある。そして一番得意なのは悲鳴かな…とも。あの耳を裂くような悲鳴と本気の表情は、子役とは思えないほどに魅力的である。

この設定で、このストーリーでここまで人を引き付けられたのは、この名優達あってのことだとわたしは思う。

エミリーは二重人格だったのか?

豹変した父親もといチャーリーから逃れ、エミリーはキャサリンと共に幸せな生活を手に入れた…かに見えた。が、彼女が最後に描いたイラストにははっきりと「もう一つの顔」が描かれている。(別のエンディングでは精神病院に入院させられている)

エミリーははじめから二重人格だったのか、それとも父親の凄惨な死を見たショックでそうなってしまったのか?

作中振り返ってみれば、引っ掛かる点はある。

例えば、はじめてチャーリーと会った(遊んだ)とき、エミリーはそれなりに楽しかったのだろう。チャーリーのことは好き!楽しい!と言っていたくらいだ。が、相手の姿は父親である。毎日一緒に過ごしている父親が「俺はパパじゃない、チャーリーだ」と言い出したら子供ながらに「パパ何言ってるの?どうしたの?」となるのが普通ではないか、とか。

あの時既に「パパとチャーリーは別物」とはっきり認識できていたのだとしたら、彼女の中に「二面性」についての理解や実感があったからではないか?そう考えれば、はじめからエミリーは「二重人格」だったのだろうと思う。

精神的に不安定だったエミリーは自分の感情をどんどん奥へと押し込めて身を守ろうとした結果、自我が分裂してしまったのだろうと考えられるが、ここで疑問なのが「彼女はそれを自覚していかどうか」である。

わたしの推察では、エミリーは作中…もとい作品としての現在、初めから自我が分裂していたこと自体に気付いていたのだろうと思う。しかし、それに対して制御や、解決しようとしなかったのではないか。一種の自暴自棄だったともとれるが、「自分の中に誰かがいるみたい」といった状態に疑問や恐怖を抱いていなかったのかもしれない。

(少なくともエンディングを見た時点では、上手に共存しているように見える。仄暗いイメージであるが、いつも傍にいてくれる友達のようなもの…と捉えているのではないか。精神病院に入院させられているエンディングに関しても、エミリーとしては同じだろう。早期の治療を望んだキャサリンが入院させたのではないかと思っている)

初めからエミリーも、デビット(父親)も、分裂していたのだ。かくれんぼをしていたのは、身体ではなく心だったのかもしれない。

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