運命によって出会った双子の生き方 - Wの悲劇の感想

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Wの悲劇

3.503.50
映像
3.00
脚本
3.50
キャスト
3.00
音楽
3.00
演出
3.00
感想数
1
観た人
1

運命によって出会った双子の生き方

3.53.5
映像
3.0
脚本
3.5
キャスト
3.0
音楽
3.0
演出
3.0

目次

双子というオリジナリティーを加えたこと

とても複雑な内容だった。キーワードは「W」で、和辻家という資産家一家と、女性と双子の悲劇を表している。原作の作者は推理小説家の夏樹静子だが、キーワードを暗号化することで読むものの想像を膨らませている。実際、私淑していたというエラリー・クイーンというアメリカの推理小説家の小説からとったものというが、そこからも勝手に価値観を拾うことができる。この双子という設定は、ドラマ化したときのオリジナルである。なぜ、わざわざ複雑な内容にしたのだろうか。役者が一人二役となり、入れ替わりもあって見ていて混乱してしまうこともあった。ただ見ているだけではつかめない、より考えさせるように作られている。この設定は、演出に自信を持っているように感じられるし、ミステリーを好む人にも見ごたえはあったと思う。この物語から感じるテーマは、双子が模索する自らの居場所と、母と子の絆である。双子として育つはずだった二人がまったく異なる人生を歩んでしまった。そしてお互いに自分探しに悩む頃、運命の再開を果たす。現実ではなかなかありえない設定を少し早いくらいのテンポで放送し、先の内容が気になる演出であった。

自分の立ち位置を模索する若者へ

一人二役という難しい役を、それぞれの立場に応じてよく演じ分けていたことが見所のひとつとなったと感じる。摩子の部分を残したさつき、完全にさつきの気持ちになりきって見間違うほどのさつき。事件によって入れ替わった二人が、自分なりの居場所を見つけようと必死だということが良く分かる。さまざまなコミュニティーの中で、人は自分の居場所を確立しようとする。隣の芝生は青く見える、ということわざもあるように、自分に置かれた環境に納得せず、他人をうらやましいと感じてばかりいる。その他人から、実は自分がうらやましがられているのだと知ったとき、自分の置かれた環境が必ずしも悪いわけじゃないと気づくきっかけになったりもするものだ。摩子はかごの中の鳥のような生活は飽き、自由になりたいと願うし、さつきは決して恵まれなかった人生をうらむ。それが入れ替わりとして露見していくことで、同じように居場所を探す若者の姿を映し出しているのである。もがいた結果、最後には自分の置かれた環境に納得し、そして自分が積んできた人生にも納得して、それぞれの家に帰って行く。居場所がないという人はいない。もがいてみれば必ず納得する答えが見つかることを教えてくれるとして、すっきりと最後を見ることができた。誰もが思いあたる節のあるテーマは、身近であって共感のしやすいものであった。

二人の母の愛を見つけて

資産家の和辻家では、双子が生まれたら片方は捨てられる運命にあるという。このとき母はどう思うか。この物語では、捨てた子も自分の子だと主張していることから、子供から切り離される母親の苦悩として描かれ、冷たい親ではなかったと安心した。近年、虐待も大きな社会問題となっている。せっかく生まれてきたわが子を、暴力やネグレクトで死なせてしまう。実際さつきも、引き取られた家で虐待を受け、後遺症の残る怪我を負った。摩子の部屋にいるさつきを見て、「もしや・・・」と気づく母、さつきに「ごめんなさい」と抱きつく母の姿は印象的だった。壮絶な過去を背負ったさつきには初めて感じた本当の母親のぬくもりだっただろう。これ以来、少し心を緩和させた感じがする。だが、この物語にはもう一人の母親がいる。もともとのさつきが働いていたショーパブのママだ。パブにいるのが摩子だと知ったとき、「あなたはさつきのなれない」と冷たく解雇する場面は、同じ顔やその境遇を知ってもなおさつきの身を案じ続け、自分の手元からさつきが去ってしまった喪失感を表している。さつきにとっての母親だったと印象を受けた。この二つの親子の関係が、母と子の絆としてのテーマに気づかせてくれたのである。

ひとつの命を捨てたことで生まれた悲劇

映像としては、全体的に暗く、単調に感じたため、盛り上がりに欠けた気がした。内容が重いものだったからそれはそれで持ち味となったのかもしれない。物語が進むにしたがって、双子が入れ替わった事実を知る周囲の人間が増えてくる。その反応はさまざまであり、でもとまどいながらも心配し、助言をする姿がそこにあった。遺産をめぐり、身内に疑いの目を向け醜い争いが起こる中で、そこだけはあたたかく、愛を感じる。自分の母親のもとへそれぞれ帰って行く二人の姿は、ひとつ皮がむけたような、成長した姿であった。命をひとつ捨て去った和辻家は報いを受けた。それぞれの暮らしを知ったときはかなりの衝撃を受けただろう。そして自分を悲観しただろう。自分の片割れを通じて違う世界を見せられたことで負った傷が、ますます強くお互いになり変わらせていく。捨てられたさつきの運命は悲惨なものだが、和辻に残った摩子の運命もつらいものであったはずである。摩子はさつきとして、さつきは摩子として生きようとする二人を引き止めたのは母親の愛に違いない。単純に、犯人を見つけるだけでなく、そこに人間ドラマを織り込んだ物語であった。

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