動乱の世に生きた、たくましい女性の姿
震災を経験して生まれた、新たな焦点としての大河
東日本大震災を経験したから生み出された大河ドラマ。未曾有の大震災に見舞われた東北を元気付けるにふさわしい内容だった。会津藩砲術師範の娘に生まれ、のちの新島襄の妻となる八重は、歴史上あまり表で出てこない。しかし、その生き方は一本道で男勝り、決して負けない力強さが、復興への道を進める被災者を勇気付けるものである。幕末を描いた大河のひとつに篤姫があるが、同じ幕府側としても、頂点からまとめ上げた篤姫とは違った視点の現場の目線で描かれたことが、幕末の動乱をリアルに写し、会津の思いを人々に共感させたように感じる。白虎隊や新撰組など、幕末を語るのに会津は欠かせない要素であるが、思えば会津に焦点を当てた物語はこれまでなかったと思える。敗者としての会津から、幕末をどう見るのか。そして、現場にいた女性が何を訴えられるのか。新たな視野を広げてくれ、東北をおおいに盛り上げてくれた作品である。
会津編に見る戦のむなしさと会津の強さ
会津の教訓のひとつ、「ならぬものはならぬのです」は頭に強く残っている。この教訓のために、会津は悲惨な戦場となってしまったようなものだ。徳川を最後まで裏切らず、頑固なまでにひとつの道を一丸となって貫いた。江戸城は無血開城を果たしたが、その反面で会津が犠牲となってしまった。大河ドラマ・篤姫を見ただけあって、この差がなんともむなしく、つらく感じる。八重は武器である鉄砲を手にとって、果敢に攻め、くじけない。「鉄砲をうちてぇ」と会津の方言で繰り返す幼少期からの八重が印象的だった。幼少に出会った藩主・松平容保とのやり取りが、鉄砲を持ち、前に出て国を守りぬく伏線として表現している。男も女もそれぞれのやり方で国を守る。足手まといにならぬよう自害する女もいる。この会津編では、ただ決めた道を「ならぬみものはならぬ」の教訓のもと、ひとつの迷いなく突き進む強さを現代に伝えている。それは、震災後つらい思いを抱える人がまだ多く残る今、会津の教訓を世に知らしめ、ただ信じて歩くことが道につながると励ましてくれているようでならない。そんな鬼気迫る場面を、1ヶ月という時間をかけて描いている。長い時間見せられているのに飽きない。戦争とは嫌なものだという印象を植え付け、敗戦後の生き方を見るのに強く影響を与えている。戦に対する描写は史実に忠実で、歴史の勉強・再認識にもなる大河だ。戦という現場から見て、敗戦を大きなテーマとして取り上げられることは、歴史上のことで周知の事実とはいえ、なんとなくすっきりはしない。だが、勝者からでは見えない幕末を、あえて敗者に焦点を当てて本当の歴史を知る必要性を考えさせられる構成となっていると感じる。
京都でも忘れない、会津に生きた誇りと自信
敗者としての会津は失ったものが大きく、喪失感をかもしだしていた。八重も鉄砲を置き、ずっと良き理解者であった夫との死別に見舞われる。会津は古臭い、逆賊のレッテルを張られ、その生きづらさを分かりやすく表現している。そこで会津は何を考え、どう生きるのか、それをを考えさせる演出だった。兄に呼ばれて京都に向かうことで京都編がスタートする。京都での八重の武器は知識だ。新島襄と結婚し、知識をつけ、戦の最前列に立っていた時代とは異なる生き方を始める。それでも根本的な会津の魂は変わらない。ただ人に左右されることなく、頑なに己に道を突き通す。それが、今度は夫を「ジョー」と呼んだりと当時の日本人らしからぬ行動に表れている。女がてらに鉄砲を持ったことと同じであり、「ならぬことはならぬ」の一本道を忘れていないという演出と感じる。これからのち、日清戦争が始まると、看護婦として働くことになる。また戦を経験し、その最中に立つことで、会津の誇り高さをこの京都編は表している。目の前のことから逃げることなく、ただ自分がこれまで信じてきたことを持ち続ける誇りが役者の表情や演出から伝わり、現実の人々の心を打つように思えるのである。
桜で表現する、会津の衰退と希望
最後の場面。会津の地を訪れた八重が見たのはきれいに咲く桜の木。八重が幼少の頃から登ってきた木で、そこから栄光も挫折も見てきた木だ。会津の仲間が命の花が燃え尽きたように散りゆく桜、これからの会津の希望を見出し咲き誇る桜。タイトルにもなっている桜の木で、時代背景を感じられるのがなんとも切ない。八重にとって会津を象徴する木であろう。動乱の時代、男性に混ざり、力強く行き抜いた女性であるが、決して男の上に立つのではなく、当時の価値観の中で、やれるべきことをやろうと奮闘している。男勝りではあるが、強い女性は八重だけではない。故郷の誇りや名誉のために命をも惜しまない女性たちがいたからこそ、鉄砲を撃つという姿が必要なまでに特異な姿には写らず、男と女、それぞれの役回りを上手に演出し、テーマを外さないよう表現しているところにも見所を感じている。
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