この世を去るとき、あなたなら何をしたい?
泣ける・・・只ただ、泣ける
もうそれだけだ。それ以上の説明は、野暮。なのだが、それではあんまりなので(笑)ちょっと説明する。描かれるのは、象の家族。ある日、象のお父さんのもとに死神があらわれ、「あんたの寿命はここまで」と宣告される。突然の予言に、呆然と家族を見やるお父さん。そこには妻と、可愛い二人の子供が・・・。その日から象のお父さんは、残された日々を精一杯、家族と過ごそうと決意する。いつもの調子で仕事を持ってくる上司。それを即座に断り、家族のもとへ。家族みんなで出かけ、子供たちと風呂に入り、一見何気ない小さな思い出を積み重ねてゆく。なごやかに過ぎてゆく時間。途中一度だけ、妻には旅立つ日の事を知らせる。静かに涙する象のお母さん。だが時間の流れは止められない。お父さんは穏やかに、何も知らない子供たちとの時間を過ごしてゆく。そして、旅立つ日。まだ眠っている家族に静かに別れを告げ、去ってゆく象のお父さん。たったこれだけ、わずか5分ほどの映像だ。せりふも、ひと言もない。ただゆったりと、歌が流れているだけ。なのにもう涙が止まらない。最初に見たときからぼろぼろ大泣きしたのだが、後日知人から「あの作品、タイトルなんだっけ?」とメールを受けて、うっかり検索したのが運の尽き。結局最後までまた見てしまったのであった。大の大人が電車の中で、滂沱の涙を流しながら。さぞや変人に見られたことだろう。
秋元康原作のスピンアウト
原作は秋元康の手になる小説である。が、まったくの別物と言っていいだろう。スピンアウトというよりは、インスパイアされた小作品、という方が合っている気がする。城井文のアニメーション。JULEPSの歌。本当に、ただそれだけの作品だ。なのに、切ない。本当に、切ない。ほのぼのした絵柄が余計にせつなく、歌も作品に合わせてあって、ゆったりしたギターのメロディがまた、せつない。ある日突然、自分の命が終わることを知らされる。誰にでも起こりうることだ。「なぜ自分が」まず最初に、誰もが思うことだろう。そして次に思うのは、愛する者を残していかねばならない無念さ、である。どれほど心残りであることか。どれほど残念であることか。だがそれでもその運命を変えられないと知った時、人は何を思い、残された時間をどう生き、そして去ってゆくのか。この作品には、そのすべてが込められている。ひと言のせりふもなく、すべてを語っているのだ。
深夜に大ブレイク
この作品はTBSの放送終了時に放映された小作品で、そんな時間帯でありながら大反響を巻き起こした、とは恥ずかしながら自分も後から知ったのだが、こういうことがあるから深夜のテレビは侮れない。JULEPSはこの曲でメジャーデビューし、十五万枚を売り上げたという。そりゃこんな映像つきで聴かされたら、もう絶対忘れられない(笑)人がこの世を去らねばならないとき、「死にたくない」「もっと生きたい」「なぜ自分だけが」とは誰しも思うことだろう(もちろん私は死んだことがないので憶測の域を出ないのだが)。ではその時、自分なら何をしたいか、と以前考えたことがあった。最後にしたいこと。今まで係わった人、係わってくれた人すべてに、お礼を述べてゆきたい。何故かはわからないけれど、そう思ったのであった。(その時間を神さまが許してくれるのであれば、本当にそうしたいと思っている)
ささやかな幸せとは
人は誰しも幸せになりたいと思う。もっとたくさんのお金がほしいと思う。あんなもの、こんな場所、楽しい人、楽しいこと・・・。
それは不確定な「あした」というものが、ちゃんとやってくるから、という漠然とした前提の上で成り立っている。だから「まあ明日でいいか」という思いが心をよぎる。
でもその前提が成り立たないとしたら?それも唐突に、ふっつりと止められてしまうとしたら?
その思いを、この作品は思い起こさせてくれる。なんとなく生きている今この瞬間が、じつはとてつもなく貴重で有り難いものであるということを私たちはつい忘れてしまう。この象のお父さんのように、命の残りを知らされるのは悲しいことかもしれないけれど、今生での思いを少しでも果たしていけたのであれば、それはとても恵まれたことなのかもしれない。
人の運命はわからない。一瞬ののちに、何のまえぶれもなくこの世を去ることになるかも知れない。もっとも、いつもそんなことを思っていては疲れてしまうけど(汗)
でもやはり、その瞬間を迎えたときに後悔はしたくない、と思うのである。もちろん前述した願いを叶えられたとしても、多分に心残りではあるだろう。その心残りが少しでも軽くなり、満足して旅立てるとしたら、自分は何をするだろう、何をしておきたいだろう、と思うのである。思いは人それぞれ。象のお父さんのように生きられたら、それはそれでとても幸せな人生だったと思うのである。
そう思いながら今日もまた、この作品を見ながら珈琲屋の片隅で大泣きしてしまうのだ(笑)
みんな、家族や友人には、優しくしようね。
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