女性であることを誇りに、力強い生き様
女性に視点を変えて、日本人が好む幕末を読む
日本人は戦国時代と幕末のストーリーをより好む。多くの混乱の中で権力者たちが自らの命や使命を守って戦い続ける様が、動きのある物語として語りやすいからだろう。武将や将軍、大名といった男たちの生き様がドラマティックに描かれる。大河ドラマを見るとき、私は登場する女性たちの着物に注目する。なかなか着る機会がないため、着物を着ている人への憧れもあるが、どんな着物を着ているかで、その人の身分や年齢を把握することができるからだ。何より、それがどんな戦のような男くさい場面でも、着物を着た女性が登場するだけで華やかに感じる。篤姫は、そんな幕末の女性を主人公として描いた初めての大河である。正直、初めてであるとは意外だったが、大河を演じる時代はどうしても男性がメインで女性が脇を固めていたということだろう。着目する視点を変えた画期的なドラマだった。
女性の力強さを表情で物語る演技力
その時代、強い意志を持って男性とも対等に権力を握る女性は、見た目からしても力強い、押しても押されないようなイメージを私は持っていた。しかし、演じた役者は華奢に見える。その雰囲気は、分家で育つ娘を演じるならまだしも、御台所としてはどこか頼りなく、物足りない感じがした。どんな人が演じるかでそのドラマの先入観は決まる。私はドラマを見るときは誰が主役を演じるのかを最初に見て決めている。だが、ストーリーが進むに従って、彼女のさまざまな表情を見ることができた。特に、自らの意志を語るときなどの重要な局面での厳しい表情は、篤姫の貫禄を示すのに十分だったし、どんどんドラマに引き込まれていった。また、大河ドラマ篤姫は、主人公のみ女性に重点を置いたわけではない。彼女を育て、支えてきた4人の女性の生き様が描かれる。ただ一人の方にお仕えする。では自分の生活はどうなっているのだろうと歴史ものを見る度思うのだが、それが彼女たちの生活であり、誇れる生き方なのである。特に、幼少期を育てた女性の「女の道は一本道にございます。さだめに背き、引き返すは恥にございます」という言葉と、その言葉通りの生き様を見せる姿は、男顔負けの一途な生き方であり、その力強さは思わず息をのんでしまった。
嫁いだからには、守るものはひたすら守り抜く女の強さ
次期将軍の擁立、また幕政の改革などの思惑で、分家から本家江戸の将軍家へと迎えられた篤姫は、その自身の政略結婚をどのように感じていたのであろうか。他家に嫁ぐことはすべての環境が変わり、今まで信じてきたことが覆されることもある。今は人と人の結婚だが、少し前は家と家の結婚であり、思い通りにならず苦労を重ねて今を生きる女性も多いはずだ。篤姫は大事な局面で「自分は徳川家の人間」であることを優先して決断を下す。それは自分にそう言い聞かせているようにも感じるが、最後まで大奥を守り抜くことを誓った力強さを物語るための演出にも感じられ、それは心の奥に響くものがある。特に印象に残った場面は、慶喜が薩長との戦に破れ、逃げ帰ってきたときの篤姫の対応だ。個人の感情ではなく、徳川を守る御台所としての役割を深みのある声と言葉で語って聞かせ、さらに家族であることを強調している。成り上がりで御台所となったとして篤姫を冷めた目で見ていた慶喜を説き伏せ、心を開かせたのだ。その瞬間が忘れることができず、何度も再生を繰り返して見ていたことを思い出す。「自分は徳川家の人間」として、その責任や重圧に屈することなく、ひたすら守りとおした女性の姿は圧巻だった。
歴史が語る、今にも通じる生き方
先に述べたように、大河ドラマのような時代ものは女性の着物がその身分や年齢を物語り、ドラマを華やかに色づける。少女時代の庶民的な衣装は、おてんばで好奇心旺盛な姿を見ることができるし、御台所となると豪華としかいえないような打ち掛けを日に5回も着替えるという生活ぶりも見ることができる。そして話し方もまったく違う。その細かい演出が篤姫という人物をさらに色づけていく。その技術や演出も見所のひとつだ。時代の変化とともに支える女性も変わり、篤姫がより高い身分へとのぼっていくのが見て取れる。その生き様は多種多様だが、一貫して共通するのは、ただただお仕えする人をどんな人にも屈指ない、力強さを与えようとしているところだ。幕末という時代背景のみを見るのではなく、影で支える人にも焦点を当てたことで深みのあるドラマに仕上げている。歴史は教科書だけで読むものではない。上に立つ人間がなぜそのような決断をくだすことができたのか。それは上を取り巻く縁の下の力持ちがいたからだ。そんなことを感じさせられる。歴史を正しく知ることで、今にも通じる生き方がある。人間として、ひとつの筋を通し、まっすぐに生きていく事をこのドラマを通じて実感し、またより多くの人にも見てもらいたい。
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