現代に蘇る、西部劇的ノワール映画 - ノーカントリーの感想

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現代に蘇る、西部劇的ノワール映画

3.53.5
映像
4.0
脚本
4.0
キャスト
4.5
音楽
3.5
演出
4.0

この作品の前半は、ウェイン・モスの視点によって描写される、現代麻薬カルテルのトラブルを中心に進行する。鹿狩りをしていたモスの前に突然銃撃戦がおこり、複数の死者が転がる荒野の風景が現れる。麻薬の取引でのトラブルなので、多額の現金があることを知っているモスは夜中に現金を奪うべく荒野に引き返す。

このモスを殺すべく追跡するのが殺し屋アントン・シガーである。おそらくこの作品ではウェイン・モスやトミー・リー・ジョーンズ演じる保安官以上に印象的な存在である。目的のためなら手段を選ばない。邪魔者もそうではない人も無慈悲に殺す。勿論、人の家に不法侵入する、車を爆破する。人の通話記録を見る(個人情報)。やりたい放題である。でも、何故か謎めいた存在でもある。常に1958年(この作品の時間軸でいうと22年前)から持っているコインを投げて運命を決める(決められる方は殺される危険があるから、やめてほしいのだが)。

この映画はモスをはじめ出てくる人々すべて西武劇的ないでたちである。特に先の尖ったブーツはその象徴とも言えるだろう。場所もメキシコ国境に近い街。ロケーションも砂漠地帯である。検問ではアメリカ側からメキシコ側へは簡単に出国できるのに、逆は難しい実態が浮き彫りになる。シガーから逃れるべくメキシコに入国する際は酔っ払ったふりで難なく行けたのに、帰りは呼び止められ、ベトナムからの帰還兵ということで許されるというシーンがある。

おそらくこの映画はブレイキングバッドなどのここ最近の麻薬カルテルがらみの作品に影響を与えていると思われるが、その辺りの迫力というか残虐性がちょっと弱い気がする。ボスがシガーの暴走を止めるべく雇ったカーソンという殺し屋もあっさりシガーによって殺されるし、ボス自身も殺される。もうちょっとはセキュリティーのことを考えた方がいいのではないだろうか。

しかし終盤は意外な方向に物語は進んでいく。定年間近な保安官(トミー・リー・ジョーンズ)が話の中心になり、なんと神までが物語に侵入してくる。彼と引退した保安官補の会話や、妻との会話にその端々が見える。アントン・シガーも重症を負うがどうにか生き延びそうなかんじだし、その辺りは見終わってもやもやするものがないともいえないが、その辺がこの映画の魅力にもなっているような気がする。

冒頭、保安官のプロローグではじまるこの映画は、最後は保安官の夢の話で終わる。そして劇中まったくなかった音楽がエンドロールではじめて流れる。これだけで静かな感動にひたれる。おすすめです。

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他のレビュアーの感想・評価

主人公がはまりまくっている傑作

かつてない緊張感・恐怖感麻薬にからむ撃ち合い事件で、金をせしめた男とこれを追う殺し屋、そして平穏な警官という三者の話を描いていくというのが作品の筋ですが、とにかく、主人公の殺し屋が信じれないくらいに怖かった。無表情で無敵で、一直線で、微動だにせず。大げさな話、今にも自分のところに来そうなくらいのすべてを超越した怖さがあった。もちろん、映画全体の構成が功を奏しているのかもしれません。とにかく、いつ、この主人公が画面に出てきて、どんな殺しをするのかと思うだけで、ハラハラドキドキした。思えば、これまでにない緊張感というか、恐怖感だった。これまでにない恐怖映画冷静になって考えるとコーエン兄弟は何を言いたかったのだろうかと思います。もし勝手に考えるなら、これまでになかった恐怖を描きたかったんでしょうか。私たちが想定内で考える恐怖の映像、動画、ストーリーという部分にはない映画である気がしてしょうが...この感想を読む

4.54.5
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