珠玉の短編集、読み切りではなく連載にしてほしい
弱いわたしを認めることから始めよう
「水玉ファブリック」林みかせ先生、初めての短編集です。女の子の不安な気持ちが全部出ています。大好きな人に大好きなかわいいお洋服を変だと言われた瞬間、頼の世界が反転した。自信なんてないのに勇気を出して着てきた洋服が変だと言われたら、悲しい気持ちでいっぱいになります。それがコンプレックスになって胸につき刺さって取れないのもわかる気がします。頼は、日頃から私たちが不安に思ったりしていることそのものです。そんなときに洋服店のオーナーからモデルにならないかと言われた。20万円のディスプレイの椅子を壊したから、仕方がないと言えば仕方がなかったのかもしれませんが、自信なさげに参加するのが頼らしくていいです。傷つかないでいい方に自分を向かわせるのは、自己防衛力が働いていて自分を守る体制に入っているからだと思います。傷ついてまで勝ち取るものに意味を見いだせない。「きっとわたしは、どこへいっても打たれ弱い」頼はやっとで気がつきます。弱いわたしを認めることが大事だってことがわかるのです。弱いわたしを認めることによって、自分が強くなる瞬間があります。その瞬間なのです。殻を破るように彼女の内側から、しみ出した心です。「それでもここでがんばらないでどうするんだろう」頑張ることはしんどいことです。でも、ここで頑張らなかったら、一生頑張れない気がする瞬間というのが存在します。その瞬間、その瞬間を引き継ぎながら、生きているのが人間だと思います。
将来の自分のためにやれること
「杣木さん家の恋愛事情」住み込み家政婦トメさん(70)の代わりに来たのが16歳の女の子、海野鯨、断られそうになるが必死で自分の居場所を確保しようとする鯨のけなげさがいいです。父母がいなくて、頼るところがおばさん家しかなかった。だけど、住み込み家政婦というのを見て、家を出る決心をする。おばさんってそんなに冷たいものかなと思いましたが、自分の子以外は育てられないおばさんだったのでしょうね。血のつながりはあるけど、冷たいおばさんの家にいるよりは、血のつながりはないけど、必要としてくれる他人の方が幸せになれると思います。女の子とおばさんというのがダメだったのかもしれないです。小さくても大きくても女同士は結構ぶつかります。血を分けた自分の娘でもぶつかったりするので、おばさんとしては合わなかったのだろうと感じます。男の子だったら、少しは事情が違ってきたのかなとも感じます。前の事情が何となく想像できて、鯨がすごくいい子で、遠慮がちに生きているのもたまには辛く当たられたりしたのかなと思います。そんな子はすごくやさしくて、どこか人に対して遠慮がちです。欲しいものを欲しいと言えない子なんですよね。自分の家族を作ったときにすごく大事にしそうです。家政婦さんもできるくらいなので、料理、掃除、洗濯なんでもござれだと思います。高校生でばっちりできる子は、将来すごく楽です。それが日常のことなので、専業主婦になったとしても片手間ですぐにきれいにしちゃいそうです。やって来なかった子は、それはそれでつらいです。結婚したからって、すぐにできるものでもありません。だからといって、毎日レトルトでいいのかというと、健康のためにおすすめできないです。今の時代、買ったらすぐに食べれるものが用意されています。こっそり、帰ってから作ったんだよと言わんばかりにお惣菜をお皿に入れちゃう主婦だっています。でも、添加物とか心配だったら、体にいいものを野菜たっぷりのものを工夫して食べさせたいですよね。「余命3か月のガンが消えた、高遠智子著、幻冬舎」どれだけ人に野菜が必要なのかがよくわかる本です。鯨ちゃんみたいに将来の自分のためにできることを少しずつやる努力をやりたいなと思うこの頃です。
苦しいことだけではなかった人生
「導きの杖」「いろいろな事情で生死を選べずにさ迷う人間の魂を、あるべき扉に導く者たちを使者と呼んでいる」その使者二人、青と緑(リョク)のところに研修生、蛍がやってきた。小泉音羽の魂を生の扉か死の扉かへ三人が導きます。「名門といわれる音大付属に入学し、思い知らされる。評価され続ける日々。才能ある人達との歴然とした差に打ちのめされ、羨み、妬んで、誰かの優しい言葉すら、素直に聴けず。自分で勝手にいろいろなものに振り回された。じわりじわりと心は弱く醜くなっていった」怖くなる瞬間は誰にでもあります。林みかせ先生の漫画は、主人公に共感できるのがいいですね。才能ある人たちだと思っている人も努力の人なのだと必死にもがいている姿をありのまま描きだしています。一度捨ててしまった音楽、ピアノを弾きたいという気持ちがあふれる瞬間、生きていく目標を見出します。平気で「死のうと思ったから」と言っている音羽は、気持ちの感情の揺れがなさそうで一定しているように見えます。でも、生きるという瞬間の彼女は感情の揺れが強くなって泣き出してもいます。「音楽―戻っても優劣をつけられる世界は変わることなく、きっとまたささいな事ででも傷付いてしまう。でも、胸が震える程の喜びも倖せも数えきれないくらいあった。未来に希望も捨てきれない」苦しいときばかりでなかったことを、死の扉を前にした瞬間、今にまさにこの瞬間、気がつきます。彼女の人生、つらいことだけではなかったと気がついたということが大事です。新聞でも取り上げられるように自殺が問題になっています。休み明け一番自殺率があがるみたいです。是非、この物語を読んでみて、何かをつかめるきっかけになったらいいなと切に願います。
続きが読みたくなる読み切り
導きの杖からです。「いいか?規則は規則だ」「知っています。ふたりが規則違反が絶えなくておちこぼれって杖の間で呼ばれていることも。・・・でも、研修生の間では憧れの杖でした。(事務的に数をこなす事例レポートの中でふたりのは)さいごまで魂が最善の扉を選べる努力をするって」「規則の範囲を超えた行為は努力じゃない。ただの驕りだ」「はい。責任は自分一人で負いたいのですが、見習いなので、先に謝ります。ご迷惑をおかけします」杖見習いが言った言葉です。先に謝って規則を破るということを宣言しています。規則ってなんのためにあるのでしょうか?規則とは、社会の規律を守るためにあると思います。校則を守るということは、社会に出るための一瞬一瞬の勉強なのだなと思い知らされるこの頃です。ただの驕りだと言っているのも正論です。ただ、このシーンでは、規則を破ってまでもその人のために何かをやってあげたいという心が大事です。だからといって、むやみに破っていいものではないということを生と死にかかわるときには、やはり規則だけでは測れないものがあります。
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