ローラーブレードの進化版 エア・ギア
ローラーブレードをエア・トレック(A・T)としたアイテムに変換したところは非常にいいと思います。単純にローラーブレードなんちゃらというタイトルにしてしまうよりも、興味をそそります。ローラーブレードの絶頂期を迎えた2000年前半、小中学生が誕生日やクリスマスのプレゼントとしてお願いし、公園などでやっている光景が浮かびます。同じように漫画で一世風靡したアイテムとしてはミニ四駆やスーパーヨーヨーなどもありますね。こういったアイテムが漫画で描かれるようになると、実際にローラーブレードをエア・トレックとリンクさせて、トリックの真似をしたり、チームを作ったりいろんな遊びを楽しめるのも一つの楽しみです。本人にしてみれば、風になりトリックを決めている情景が頭に浮かんでいることでしょう。私も高校生時代にローラーブレードをしていました。スキーのモーグルをしていたので、シーズン以外はローラーブレードを履いて練習していました。エア・ギアと同じようにジャンプ台やコーンでコースを作り、トリックを決めたりスラロームをしたりと毎日練習していました。エア・ギアの漫画のようなトリックはもちろん出来ませんが、様々なトリックの練習で同じように怪我ばかりしていました。エア・ギアを読んだのはもう少し後になってからだったので、読んだときにその当時の練習を思い出してすごく懐かしくなりました。
エア・ギアの主となるストーリーはパーツ・ウォーというエア・トレックのパーツ(主にホイール)やエンブレムをかけた戦い。パーツ・ウォーは、F~Aクラスと特Aクラスに別れます。各クラスごとに対戦し、戦歴によって昇格・降格が決定。Aクラスを目指すと言うもの。特Aクラスはトロパイオンという塔で行われる特別なステージとして設定されている。
親がいなく、野山野家で育てられる主人公の南樹(イッキ)は喧嘩の仕返しにエア・トレックのチームにこてんぱんにやられてしまい、次第にエア・トレックに惹かれていく。実は野山野家はスリーピング・フォレストというチームの本拠地的な家だった。
イッキとリンゴの関係は、対戦系のストーリーではよくあるパターン。幼なじみで、お互い好意を持っているが成長し運命によって、敵対せざるおえない。本当は一緒にいたいのにお互いが戦うことに飲み込まれていく。私はこの手のストーリーは割りと好きです。パターンとしては良くあるが、それぞれの感情や設定があり、毎回感動してしまう。運命に流されながらも抗おうともがき続ける二人。やがて取り巻く環境が二人を認め始め奇跡を起こす。素敵だと思います。
非常に好きなシーンはレザ・ボア・ドッグス戦でイッキが犬山と闘いながら電車のトンネルを抜けた時に初めて翼の道(ウィング・ロード)を走った瞬間のところです。一瞬、「スン」と何も感じなくなるような加速する瞬間。あるんですよね。私もスキーやスノーボード、サーフィンをしているのですが、その「スン」ていう感覚を感じる時があります。特に多いのは、サーフィンをしている時で波にのる瞬間、波の力が板に伝わる瞬間があるんですが、その時波に押されて「スン」って急激にスピードが上がります。その時は重力とか摩擦とかを全く感じなくなります。本当に気持ちが良い瞬間です。ウィング・ロードに入った時も、きっとあの感じなんだろうなと思いました。シーンの絵のタッチはすごくその時の光景を掴んでいると思いました。
空、宙の関係について考えてみました。空はきっと優しい人。優しいからこその暗黒面に落ちてしまう。イッキを見て、かつての自分を照らし合わせてしまっているのかもしれない。スターウォーズでいうところのダースベイダーみたいな感じだと思います。悪いやつだけど、どこかに悲しみを抱えていてそんな自分が嫌で悪い方へ逃げてしまっている。一方、宙は空の悲しみを全面に受けてしまっている。空の悲しみを和らげるために自分を犠牲にして悪役を演じている。汚い仕事は自分が請け負うみたいな立場で、見ていて少しかわいそうな感じもした。二人はお互いが優しく、良い人間だからこそ暗黒面に落ちてしまった、可哀想な二人なのだ。イッキの存在が眩しく、正しいからこそ認められない。最終局面二人は敗れたことによって救われたのだと思います。ようやく自分たちが背負ってきた責任の荷を下ろすことが出来た。少し悲しい結果ではありましたが…。
総括として、この漫画はスポ根であり、少年漫画であり、SFであり、恋愛漫画でもある。ストーリーとして面白く、読んで欲しい人で言えば、今の25歳以上かなと私は思います。少年漫画なのに…と思いかもしれません。理由はやはりメインアイテムがローラーブレードが題材になっていることもあり、今の小中学生にはいまいち感情移入出来ないのではないかと思うからです。やはりこういった時事ネタや流行り物をメインに据えた漫画はターゲットがその世代のまま移行していってしまう傾向があります。私のように読んでみて、懐かしいな。こんなことやってたなと思えることは幸せな作品に出会えているのだと思います。
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