人間の基本的なご飯を食べるということの大事さが伝わる作品 - 空の食欲魔人の感想

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空の食欲魔人

4.504.50
画力
3.00
ストーリー
5.00
キャラクター
5.00
設定
4.00
演出
5.00
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人間の基本的なご飯を食べるということの大事さが伝わる作品

4.54.5
画力
3.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
4.0
演出
5.0

目次

おにぎりできれいにまとまっている物語

「空の食欲魔人」何かを食べているシーンが多く目立ちます。弘文は、おやつを食べながら、プロポーズ!なんて緊張感のなさ。バラの花ジャムより、イチゴジャムがいいとかどうでもいいことをしゃべる。食欲魔人というくらいだから、食に関してはうるさいのである。友人たちの名前が出版社なのも笑えます。喧嘩の内容も争点がずれまくって、お菓子のことで怒る。夢も巨大なケーキが出てきて、縁談がまとまるきっかけになった出来事にもおにぎりが出てくる。最初のきっかけになったのもおにぎり、頬を叩かれ怒られたときもおにぎり、縁談がまとまるときもおにぎり。ちゃんとまとめるところは、おにぎりでまとめてあります。これをおもしろいと思わせる川原先生節のようなものが全体に流れているので、物語を壊さないで活き活きと描かれているのがわかります。指輪を見て、みすずが「やっぱり指輪はダイヤモンドねえ・・・きれい」とため息をついている横で、弘文が「もっときれーなもの見してやろうか?」と言って、照れ隠しもあったのだろうか。美しいものがカンロ飴の8個並び!美的感覚が少しずれているのがわかります。幼馴染のみすずがプロポーズを考えなおそうか考えているのが共感できます。でも、ジングルベルが鳴る季節。ひとりでいるのも身にしみる季節です。リアルに考えているけど、別れないだろうなということを感じさせて終わります。

このお見合いは個性の違う二人だから破談で正解なのです。

「進駐軍に言うからねっ!」おじさんは仕事が生きがいの男。仕事をしているときが一番楽しいとまでいう人。だから、今の生活を誰にも邪魔されたくなかった。掃除のおばさんだった松浦七緒さんは、倒れてしまい、利害関係が一致したおじさん、志貴正和さんと暮らすことになる。「理性は死んだ・・・。女の子はおじさんのハウス・キーパー兼雇われ婚約者になった」その理性は死んだという一文が川原先生らしくていい。内容的には、ハーレクインばりの展開ではないか!と思うのですが、男と女の駆け引きがない。とにかく明日の生活にも困る生活の七緒さん。会長の美人孫、玲子を断るために、偽物でもいいから、婚約者を据えなければいけないおじさん。切羽詰まっています。その後、ロマンティックな展開でもと思いますが、そこが川原泉さん、高校生に「扱いにくい中年だ」と思わせるほどに陰気なおじさん。そのおじさんの顔を見ると、念仏のように「敗戦と戦後の日本」を唱えてしまう同級生の佐藤くん。玲子さんはおじさんに合うと嫌味を言う人なのだが、毎回楽しみにしてしまうほど、玲子さんとおじさんの力差関係がおもしろい。たぶん玲子さんと結婚してもおもしろい家庭だったのではないかと思うのですが、そうなると「サン・サーンスの死の舞踏」「チャイコフスキーの悲愴」なんて曲はかけられない気がします。もっと明るい曲を玲子さんは好みそうです。玲子さんの趣味の家具がヨーロッパ家具だから、そこもおじさんとの好みの差を現しています。おじさんはもっとシンプルな家具を家に置いています。ごちゃごちゃした物は嫌いな気がします。この二人は一緒になっても家具の趣味も服も曲も何も合わなかっただろうなと思います。ここで破談になってよかったのです。それをこっそりと暗示させてくれるこの作品、個性的なメンバーが周りを固めています。

仕事中も食事を楽しもう

「アンドロイドはミスティー・ブルーの夢を見るか?」キラ・ナルセ、限りなく完璧に近い宇宙飛行士。休暇中のキラは社長に呼びだされ、超1級アンドロイドを1体、惑星ミグダリオンまで輸送する命令を受ける。メカニズムに狂いが起きたのは、社長のアンドロイド。ちょうちょの自分流の歌を歌っているのがなんともかわいらしいと感じます。本当にこのアンドロイドを修理するのかもったいない気がしてきます。キラが宇宙食を食べているときに「おいしい?」「おいしいも何も・・・適度なカロリー、バランスのとれた各種栄養素、そーゆーもんさ。宇宙食ってのは」「・・・人間は食事というものをもっと楽しむものだと思っていました」キラは仕事中です。私達も仕事中はこんな感じで適当にお腹に食べ物を詰め込んでいないかなと思い、ぎくりとなったシーンでした。もっと楽しむものだ。確かにそうです。仕事中ももっと楽しんで、ご飯を食べるということをしなくてはいけないと考えさせられました。でも、なかなか目の前の仕事が詰まっていて、ご飯を食べるのがおざなりになってしまうというのが、今の現状の日本ではないでしょうか。それを鋭くアンドロイドのふりをしている人間の言葉として伝えてきます。ご飯を食べるということは、活力になります。人間を動かす基本的なことなのに、それを栄養ドリンクに頼ったり、時間がないからカロリーのあるものをひとつ食べたりして終わりにしている。今の日本の食べ物の現状を鋭く追及し、警鐘を鳴らしているのではないでしょうか。食は人にとって大事なもの。それをおざなりにしてはいけないと物語全体を通して伝えているそんな気がします。

きれいという心を伝える

「フロリナは花の惑星、新婚旅行の星」「あ…ほんとーに来てよかった。きれいね。きれい…」きれいという心を子どもにも伝えないと子どもは果たしてきれいだという心が育つだろうか。「梅がきれいね」とか伝えないと、梅という存在。きれいという存在に気がつかないのではないでしょうか。子どもは心が真っ白で何でも吸収します。でも、そこにある花の名前も教えないとわからない人間になってしまうのでは?と思います。基本的なものは学校でも知ることができますが、木蓮、ボケなどになると、興味がない限り覚えないのではないかなと思います。日頃からきれいという心と日常で知ることができる言葉はできる限り、伝えてあげたいとこの作品を見て強く強く感じました。ナッシュ・人間ありがとう!

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