金太郎は、日本人の理想のサラリーマンか? - サラリーマン金太郎の感想

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サラリーマン金太郎

4.104.10
映像
4.00
ストーリー
4.50
キャラクター
4.20
声優
4.00
音楽
3.80
感想数
1
観た人
2

金太郎は、日本人の理想のサラリーマンか?

4.14.1
映像
4.0
ストーリー
4.5
キャラクター
4.2
声優
4.0
音楽
3.8

目次

「失われた20年」の突入期に衝撃的な登場

「サラリーマン金太郎」は、1990年代半ばに週刊ヤングジャンプに連載がスタートし、何年か間を置きながらも同誌でシリーズ形式で連載を続けてきた。アニメとしては2001年にBS-iで20話だけ放送されたに過ぎなかったが、主人公矢島金太郎のインパクトのあるキャラクターから、多くのビジネスパーソンから愛されたキャラクターに違いない。

かくいう私も、サラリーマン金太郎を知ったのはまだ学生時代で、ストーリーに描かれているビジネス背景を詳しく知っていたわけではなかったが、そのキャラクターから大企業や権威者などに立ち向かう姿には憧れを抱いた。このような破天荒なサラリーマンは実際にはいないだろうと思いつつ、自分の将来のビジネスパーソン像を金太郎に重ね合わせていた。

同じような読者は多かったのではないだろうか。当時の日本の経済情勢、社会背景を振り返ると、バブルが崩壊し、連載がスタートした数年後には大手銀行や証券会社が破綻して、金融危機に見舞われた時代である。失われた20年に突入しようとし、日本が倒れかけているような時代に登場した金太郎は、架空の人物とはいえ、一種のカリスマリーダーや救世主のような存在であったと言える。


金太郎に憧れるも…

矢島金太郎は、確かに90年代半ば、そして今でも我々ビジネスパーソンの憧れであり、カリスマリーダーとして魅了し続けている。しかし、金太郎のような人物は必ずしも珍しい存在ではなく、戦後から1980年代までの高度経済成長期、政治、行政、産業の各分野において実際に存在していたのではないか、と推測できる。

終戦直後の日本というのは、経済的にも相当なダメージを受けており、占領国となったアメリカの報告によれば「回復には数十年の歳月がかかる」と書かれていたというほどである。それが、回復どころか、20年も経たずに世界有数の経済大国となり、80年代までには世界第2位の経済規模にまで発展した。これを成し遂げたのが他でもない日本の先人たちであるが、政治、行政、経済の各界に金太郎のようなリーダーが必ずいたはずであり、そうでなければ不可能と言われた経済復興・発展を実現できたはずがない。

つまり、サラリーマン金太郎というのは、終戦直後に活躍した日本のビジネスリーダーたちを重ね合わせるかのように、時代を超えて1990年代半ばに沈みかかっていた日本を救うべく登場した日本の先人たちの象徴と言える。と同時に、金太郎のようなキャラクターが実世界にはいなくってしまったことの表れでもあった。

金太郎は多くのビジネスパーソンの憧れではあるが、憧れである限り、彼のようなビジネスパーソン、リーダーは現れないことも意味している。先人たちのおかげで豊かな生活、暮らしやすい生活ができるようになったが、そのおかげで金太郎のようなリーダーが必要とされなくなった。中国の三国志時代に活躍した曹操は「乱世の奸雄」と謳われているが、曹操が中国王朝の平和期に生まれていたら、あのような歴史に残る人物にはならなかったと言われている。同じように、金太郎も混沌とした時代に旧態依然の仕組みをぶち壊す「乱世の奸雄」として描かれている。そして、ある程度仕組みが整った実際の現代社会においては、金太郎のような人物はしばらく登場してこないと思われる。


今のビジネスパーソンが金太郎に学べること

時代を騒がせた政治家や起業家がいたり、優秀な経営者はもちろん今でも少なからず存在しているが、我々一般のビジネスパーソンはどこか他人事のように感じており、今の日本の閉塞感や景気低迷に対して主体的に取り組もうという気概を持ったビジネスパーソンは少ないのではないだろうか。

かつては、多かれ少なかれほとんどのビジネスパーソンが「金太郎魂」のようなものを持っていたのかもしれない。しかし、一旦作り上げられた仕組みの中で生きてきた人々は、その仕組みの中に潜む問題や課題を自ら見つけ出し、解決に取り組もうとすることはほとんどない。なぜなら、その方が「楽だから」。

人間は元々楽を好む生き物であり、金太郎のような人間はそうそういない。戦後日本は混沌として、みんなが必死で生きなければならない時代だったからこそ、そこに多くの「金太郎魂」があったに違いない。しかし、今はある程度楽をしても生きていくことができる。今がそこそこ充実しているのであれば、さらなる改善や向上に目を向ける人がいなくて当然である。

一方で、21世紀に入って世界は加速して変化している。日本にいるとその変化に気付きづらいのかもしれないが、生き方、働き方が明らかに変わってきている。そこにアンテナを張っている人たちはすでに様々な形で警鐘を鳴らし、問題解決に取り組んでいるが、まだ少数派で大きなうねりとはなっていない。

ただ、そうした警鐘に反応し、変化を始めた人々も増えてきた。もし今、また「サラリーマン金太郎」を見る機会があるとすれば、そうした警鐘と重なる部分が多いことに気づくはずである。少しでも「金太郎魂」に触れた上で、改めて仕事への取り組み方を考えてみるのもいいかもしれない。

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