これを読めば、誰もイジメられないはず… - 死にぞこないの青の感想

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死にぞこないの青

4.104.10
文章力
4.00
ストーリー
3.88
キャラクター
3.75
設定
4.13
演出
4.00
感想数
4
読んだ人
9

これを読めば、誰もイジメられないはず…

3.93.9
文章力
3.5
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
3.5

目次

先生はイジメを救えるのか?

2001年に福岡県出身の乙一の書き下ろしたホラー的要素もある作品、映画にもなっています。
小学校のイジメをテーマにしているのですが、本来助けてあげる側の先生が発端となり、イジメが広がってきます。先生が生徒を苛めることは、権力のある人間が弱者をいじめる事です。小学校の先生という立場は、教室の中では王様的な存在、先生の発言でいかに生徒達の心が操れるかを描いています。先生の一言で、生徒を深く傷つける事がたくさんあると、思い知らされます。

そして、この中で出てくる、羽田先生のあまりにも幼い思考、自分を良く見せたいために誰かを犠牲にしてしまう弱さ、先生としての気質に腹を立てずにいられません。ここで思うのが、先生って、そもそもそれほど偉いのか?と言う事です。私は、普通の企業の中で働いているサラリーマンよりも、ある意味劣るのではないかと思っています。普通に就職をすれば、新入社員として、先輩の社員や営業先の人達から、何かしらの注意や指導を受けます。それは、社会人として新人、一年生と言う事なので、あたり前な試練ですが、先生は新しい担任の先生として扱われます。先生は、一般の社会人が味わうような、平社員的な仕打ちを受けず、いきなり教室の王様になってしまうのです。これでは、人間として、なにか欠けてしまうのでは、ないでしょうか?羽田先生を見ていて、そう感じずにいられませんでした。
「死にぞこないの青」を読むと、先生は学校の苛めを無くすことができるだろうか?と疑問を感じます。

家族の優しさをあらためて実感

この作品の中で、マサオ君の家族である母親、姉、弟が登場する場面は、少ししかありませんが、身内の温かい心をとっても感じる事ができます。例えば、お姉さんがどうした?とマサオを気にかける一言があるのですが、その言葉にとても愛情深い心を感じる事ができます。言葉とは、どんな長い言葉よりも心のこもった一言に勝る物はないのかも知れませんね。

その反対に、母親の気付いてあげられない鈍感さには驚きました。自分の息子があれほど、苦しい思いをしているのに、気が付いてあげられないのでしょうか?苛められている子供は、親の前では見事に演じ、マサオみたいな態度を取っているのかも知れません。しかも、苛めている羽田先生を尊敬し、いい先生だと褒めてあげるのですから、母親の鈍感さには呆れてしまいます。マサオが苛めにあっている事を、誰かに気が付いて欲しかったです。

本当は強い主人公だった

羽田先生が、なぜ10才ばかりのマサオ君を怖がるのか?本当のマサオは、強くてたくましい男の子だったのではないでしょうか?アオは、マサオの分身でマサオの本心だったのです。あのグロテスクで、奇妙な体は、実際に事故に遭ったマサオでした。とても大きな事故で、マサオの中から強い部分が奥に隠れて行き、表面上だけ弱い部分となっていたのだと思います。

人の持っている強さっていうのは、どういう事だと思いますか?私は、決して表面上が強いというのが、強さではない気がします。マサオのように、本当の強さとは自分自身の事を認め、向き合う事のできる人間だと思います。しかし、マサオのした事は、とても現実とは、かけ離れていました。いくら、先生にやられたからと言って、先生の部屋の中に入るのは、無謀ですね。しかも、羽田先生の本性があまりにも、情けなくてその部分でも驚きました。

大人で、立派な男、先生という職を預かっている人間が、マサオのような10才の人間を本気で怖がるのです。でも、マサオが先生を助けた行動からみても、先生よりもマサオの方が強く、大きな人間と言う事は明らかです。
人間って年を取れば大人になり、いい人間になれる訳ではない気がします。いかに、苦労して困難と向き合い乗り越える事に意義があるのではないでしょうか?

文章はわざと子供っぽく表現している?

マサオという主人公は10才、そのため文章の表現方法が、とても幼い感じにしています。普通の小説ならば感じで書くところを、ひらがなにしてあったり、子供の名前をカタカナにしてあるなど、子供らしさをさらに強調させて演出している文章だと感じました。そのせいか、小説としてはとても読みやすい本になっていて、思ったよりもあっという間に読み進めてしまう物語です。作品が、最後どうなるのか?どういう展開に進んで行くのか?思いながら読み進めていくと、あっという間に読めてしまう「死にぞこないの青」です。

ホラー的な要素は、多々ありますが、苛めとどう向き合えばいいのか?苛めている人がいたら、こういう気持ちを感じとってもらいたいと思います。

新しい担任の先生に希望を感じます

救いようのない、暗い苛めの話ですが、最後に出てきた新しい担任の先生に、とても温かい希望を感じました。人間ってこれでいいんだな、ありのままでも大丈夫、等身大でいる事がとても素敵で、優しい事なんだと感じます。

羽田先生は、自分自身の虚栄心や、人からどう見られるという事に、精一杯費やました。でも、それでも羽田先生はしあわせになりません。そう言う事を、心の片隅に思う事で、毎日を幸せに暮らせるかが違ってくるのではないでしょうか?心の持ち方、一つなのです。



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