親は無くとも子は育つ・・・が
この作品では、主人公たちの悪の魔法使いとの激しい戦いが描かれていますが、その経過については、とても孤独な様子で描かれたものが多いのが特徴です。それまでのシリーズ作品での、学校での和気あいあいとした様子との対比もあり、寂しさがより際立っています。ストーリー上そうした展開にしなければいけない、という事情もあったのかもしれませんが、これはまるで子供の巣立ちのようです。巣立ったばかりの子供にとっての社会は、時に厳しく、危険で孤独なものなのです。
そうした社会では、親の保護もあまり役には立ちません。作品でも主人公の両親は他界し、よくしてくれる親友の両親とも離れなければなりません。もっともこれはシリーズ作品に共通した傾向であります。主な舞台が寄宿学校という性質を考えても、親の存在は薄めです。これは作者自身の体験を反映させたものではないでしょうか。作者はシングルマザーで、生活保護を受けながら子供を育てていたそうです。作者の子供にとっての明日をも知れぬ生活、そして父親の不在、これらと主人公たちに迫る危険と親の不在とは重なるものがあります。
しかしながら主人公たちは無事困難を切り抜け、悪を倒します。親などいなくとも彼らは立派に成長することができた、ということです。しかしそれは彼ら自身の能力以上に、学校に先生やライバル、そして親友の援護の賜物なのです。親がいなくても、社会が厳しくても、必ず誰かがあなたを助け、導いてくれる。作者はこうした希望を読者に、そして自らの子供へ伝えたかったのではないでしょうか。
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