ベテランの安定作 - エンバーミング-THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-の感想

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エンバーミング-THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
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ベテランの安定作

3.03.0
画力
2.5
ストーリー
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キャラクター
2.5
設定
3.0
演出
3.0

目次

『るろうに剣心』『武装錬金』の作者の次なる手

『るろうに剣心』では明治時代、『GUN BLAZE WEST』では西部劇風の世界観、『武装錬金』は錬金術をモチーフにしたバトル。

それまで漫画では取り上げられにくかったテーマを武器に、週刊少年ジャンプの連載枠を勝ち取った和月伸宏。連載作はいずれも評価が高く、打ち切られた『GUN BLAZE WEST』でさえも、もう少し読みたかったという声が高い。

オリジナルの世界観、独特のキャラクターとシナリオは、他の漫画家の追随を許さない。厳密にいえば、明治時代も、西部劇を取り扱った作品も少なからずあるが、和月伸宏は設定の密度が全く違う。登場人物の名前やシナリオの精度に至るまで、数多くの資料と確かな知識を基に、確実な世界観を構築している(ここは、妻であり小説家である黒碕薫女士の協力が大きいのかもしれない)。

その和月伸宏が、またしても独自の世界観で連載を始めた。それが『エンバーミング-THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-(以下、エンバーミング)』である。

19世紀のヨーロッパを舞台に、フランケンシュタインたちを主人公とする新たな物語を構築した。全10巻で完結したこの作品の可否はいかなるものか。

悪くはないが、一度パターンに入ると飽きてしまうか

まず、和月伸宏のお家芸である世界観であるが、これは流石という仕上がりになっている。

19世紀のヨーロッパ社会、特に霧煙るイギリス・ロンドンの怪しげな魅力が、作中で十二分に発揮されている。特に貧民窟のリアルな描写などは読者を一気に世界へ引き込んでいく。

『ジャンプSQ』上において、『エンバーミング』本編後に掲載された”豆知識”も、世界観の補填に役立っている。当時の教育や下着、果てはプティングに至るまで、19世紀当時の設定がこまやかに説明され、読者はより『エンバーミング』の世界に浸ることが出来る。これはコミックスにも収録されているので、未読の人は改めて読んでいただきたい。

次に、ストーリー展開。『エンバーミング』三人のフランケンシュタインを主軸とする物語になっているが、どれも目的がはっきりしてわかりやすい。

ヒューリーは復讐、エルムとアシュヒトはフランケンシュタインから人間への転化、ジョン=ドゥは風来坊の如く享楽的に生きながら、自らの”なりたち”を知っていく。

複雑な設定に対しての明朗なストーリー展開は、読者にとって入り込みやすくありがたいものとなっている。さすがは激戦区・ジャンプで活躍していたベテランといえるだろう。

次に、重要な漫画構成。コマ割りやセリフ回し、一エピソードの動かし方や伏線の置き方だがーーこれは残念だが十分とは言い難い。というより、これが和月伸宏の難点というべきか。

まず、独特のセリフ回し。吹き出しを小分けにし、決め台詞を分割させる。また、韻を踏んだセリフを多用させることも”和月節”だが、これが少々鼻につく。

確かに小気味良いものにはなっているのだが、あまりにも多すぎると”作者のパターン”として認識され、目新しさも感慨もない。例えば、前菜からメインまで全て豚料理を提供されるかのようで、読者は飽きてしらけてしまう。時折挿入されるギャグもオーバー気味でパターンが読めてしまい、なんだかなぁ…と興ざめしてしまうのだ。

一エピソードの収め方も少年漫画らしく収まりすぎていて、結末が読めてしまう。『るろうに剣心』のように、王道でありながらも結末をしっかり読ませた作品と、同じ作者が描いているとは思えないほどだ。

また、絵の劣化も残念だ。もともと和月伸宏は「絵がうまくない」と自称しているようだが、それにしては『るろうに剣心』の頃の魅力が剥げきってしまっている。

原因の一つは主線の太さだろう。人物の線が総じて太く、身体の線や髪の毛まで一辺倒で、表情も大振りだ。アクションシーンならまだしも、非アクションパートは画面が雑に見えてしまう。

特に女性キャラの線が荒いのは致命的で、鋭角的な髪型といい、誰もかれもが可愛くも美人にも見えず華がない。これでは一般向けは難しいのではないか…と思ってしまう。

せっかく基礎がしっかりとしている漫画家なのに、線の太さと描きこみが少ないせいで画面映えしないのはもったいない話だ。これらは有能なアシスタントを雇えば解決する問題だとは思うのだが、さて、作者は今後どういった方針を取るのだろうか。

話のまとめ方が上手く、ベテランの実力が見える

結果として『エンバーミング』は10巻で終わってしまう。

終わるべきところで終わった、という感じもあるが、もう少し世界観を広げられた感じもあり、読者としては「もうワンステップあってもいい作品」という物足りなさを感じて終了という結果になった。話のまとめ方は申し分ないが、読者の記憶に残る作品かといわれれば首を振ってしまうだろう。

作者・和月伸宏は独自の世界観を構築するのが上手い作者だけあって、次の連載に期待したいところだ。

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