少年漫画における推理ミステリの金字塔 - 金田一少年の事件簿の感想

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金田一少年の事件簿

3.753.75
画力
3.63
ストーリー
3.50
キャラクター
3.63
設定
3.88
演出
4.13
感想数
4
読んだ人
27

少年漫画における推理ミステリの金字塔

3.53.5
画力
3.0
ストーリー
3.5
キャラクター
3.0
設定
3.0
演出
4.0

目次

推理ミステリの礎となった作品

90年代までの漫画において、推理ミステリは決して一般的ではなかった。

それを変えたのが、『名探偵コナン』と『金田一少年の事件簿』である。

共に殺人事件を取り扱った推理ミステリでありながら、両者の作品性は異なっている。

『名探偵コナン』が一話完結型の殺人事件が多いのに対し、『金田一少年の事件簿』は一箇所で行われる連続殺人事件がメインとなり、一エピソードも数話にまたがって続いていくことがほとんどだ。

他にも、『金田一少年の事件簿(以下、金田一)』はミステリ用語でクローズドサークルといわれる、閉じられた空間(たとえば無人島や雪山)が舞台として多用されること。

また、伝奇・伝説をモチーフにした殺人鬼が現れ、一見ホラーのようなテイストになっている話が多いことも『名探偵コナン』との違いである。

更に、数話にまたがる一エピソードを利用し、雑誌掲載時に読者に犯人を予想させるクイズも、『金田一』の特徴だ。

このように、『金田一少年の事件簿』はそれまで土壌がなかった少年誌における推理ミステリにおいて、数々の功績を残した作品なのである。

また、セリフ中で重要なキーワードを太くする仕組みも、『金田一』が初めてだと言われている。

不気味な舞台設定・舞台装置の数々が最大の見せどころ

上記に挙げたように、すでに推理ミステリのパイオニアとしての風格を放っている『金田一』であるが、もう少し詳しく言及していこう。

『金田一』の見どころといえば、やはりおどろおどろしい舞台設定の数々である。

オペラ座館をはじめ、タロット山荘、魔術列車、異人館、上海魚人伝説…と、言葉を聞くだけで恐ろしくなるような舞台が登場する。数々の舞台装置も実に見事で、たとえばタロットの見立て殺人だったり、謎めいた仕組みの洋館だったりと、よく練られ、しかも無駄がない。舞台装置は主に殺人のアイテムとなってしまうが、それが逆にミスを生み出し、金田一にトリックを見破られる(=犯人と確証を得られる)原因にもなる。

また、犯人の動機が複雑で悲しく、いずれも連続殺人犯ながら同情してしまう、という声も多い。

ここも『名探偵コナン』との決定的な違いで、『コナン』が身勝手な理由で殺人に及ぶ犯人が多いなか、『金田一』は犯人のバックボーンをしっかりと描く。金銭的な恨みが原因になっていることはほとんどなく、家族が捨てられた恨みや、故郷を奪われた恨み、めちゃくちゃにされた自分の人生の報復…と、殺人犯でありながら、読者の共感を呼ぶ同期になっている。

卓越したネーミングセンス

また、『金田一』もう一つの大きな特徴が、犯人の通称やタイトルなど、卓越したネーミングセンスにある。

犯人の通称は舞台設定(伝奇・伝承)から引用されて名付けられることが多い。たとえば雪夜叉伝説殺人事件は当地の民間伝承から雪夜叉、異人館ホテル殺人事件は赤ひげのサンタクロース、悲恋湖伝説殺人事件はジェイソンなどと呼ばれる。

主に名付け親となっているのは金田一であるが、犯人が自ら予告状で名乗るケースも多い。

普通のミステリにおいて、犯人はそのまま”犯人”と関係者に呼ばれることが多いが、そこに工夫を凝らしたのも『金田一』の功績だ。あくまで少年漫画である『金田一』に、読者に犯人の特徴と恐ろしさを印象付けるためにあえて通称をつけている、と筆者は推測する。

これはタイトルにも同じことがいえるだろう。

蝋人形城殺人事件、墓場島殺人事件、怪盗紳士の殺人など、非常に語呂がよく覚えやすいネーミングがなされている。『金田一』が連載され、同時期にドラマが放送していた時代。『金田一』を見ていた人は、このタイトルと犯人の名前、トリックをセットで記憶し、今でも話のタネとしているほどだ。人によっては子供時代のトラウマだったと語る人もいるほどで、それだけ『金田一』の影響力が多かったといえよう(ちなみに、筆者はドラマスペシャルの蝋人形城殺人事件のアイアンメイデンが本当にトラウマになった)。

伝説はいまだに続く

一度は「速水玲香誘拐殺人事件」で連載が一区切りつき、コミックスも27巻でストップする。だが、これはFILEシリーズと銘打たれ、以降のCaseシリーズに続いていくことになる。

Caseシリーズ最大の特徴は、シリーズが一冊(あるいは上下巻)に収まっていることにある。それまで、コミックスの制約上、前のエピソードと新エピソードが一つの単行本に収録され、エピソードごとを追うには始まりも終わりもわかりにくく少々不便だった。それが改善される形でのCaseシリーズという訳だ。

しかしながら、コミックスで『金田一』を追っていった読者からすれば、『金田一』は完結したのか新シリーズが始まったのか判別がつきにくく、てっきり完結したと思って手に取らなかった時期がある。これは筆者の怠慢というだけでは決してなく、FILEシリーズを境に『金田一』を読まなくなった(=卒業した)という人が続出したのだ。『金田一』は映画や小説など派生があまりにも多いので、そういった意味でシリーズが複雑化し、ついていけなくなったということだろう。

しかしながら推理ミステリの金字塔である『金田一』の人気は衰えることなく、現在は『金田一少年の事件簿R(リターンズ)』が連載。アニメ化もしており、相も変わらず推理ミステリ漫画の第一線を走り続けている。

筆者としては、そろそろ金田一”青年”になってもいいんじゃないかなぁ…と思う次第だ。行動範囲広がるし、面白そうだが、どうなんでしょう?

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あの頃のみゆきちゃん

高遠とはじめちゃんは似ている?「常に隣にありながらも、決して交わることのない平行線」・・・漫画「光と陰」「コインの表と裏」・・・ドラマこれらは、地獄の魔術師高遠が金田一に言っている言葉である。お互いを永遠の宿敵と認めてはいるものの、殺人を行う高遠と事件を解決する金田一、信念は真逆のように感じるが、高遠は更に自身と金田一を比べ「双子のように」と表現をしているほど。一見似た者同士だと言っているように捉えられる。ただ、金田一側からのこういった発言はない。私は正直、似ていると断言はしにくいものの、根本的な【人間の軸】となる部分は似ているのではないかと思っている。まず、金田一はじっちゃんの血を受け継いでか、異様なまでに”正義感”が強いと言える。私なら、身の回りで起こった事件には関わりたくないだろうし、ましてや「ここがおかしい?」とあれこれ詮索したのちに(それくらいはするだろう)、わざわざ担当の警...この感想を読む

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