苦しんで生きている私達に、生きる意味を問う異色の名作ドラマ
ドラマ「それでも、生きてゆく」は、ドラマ上の架空のある少年事件の被害者家族と加害者家族の姿を描いたドラマである。少年Aの妹と、少年Aに自分の妹を殺された兄を中心に描かれていく。「少年A」が中学生時代に、小学生の女児を殺害した・・・という設定は、1990年代に神戸で起きた児童殺傷事件を彷彿とさせる。実際の少年Aには、男兄弟が2人いたそうだが、このドラマの設定では、男兄弟でなく、満島ひかり演じる妹を加害者家族の中心に描くことで、実際の事件から少し距離が取れていて、見ていてそれほど殺伐とした思いにはならなかった。
このドラマの何が秀逸かというと、この重いテーマを取り上げてドラマ化してくれたフジテレビと協賛しているCMの会社に、まず賛辞を送りたい。テーマ自体が重すぎると、なかなかドラマ化が難しいところがあるが、よく許可を下してくれたなフジテレビ!といった思いである。
そのテーマの重さに引きずられて沈むパターンもあるだろうが、そこは名脚本家・坂元裕二が、最後まで視聴者を引き付けて離さないドラマ構成がなされている。
そして、何といっても、主演の瑛太と満島ひかり、2人の本気の演技が、本当に良い。またその脇を固める役者も、いい役者を揃えてきている。被害者家族の父親に、時任三郎、母親に風吹ジュン、加害者家族の父親に柄本明、母親に大竹しのぶ。これだけ名わき役が揃ったことに対しても拍手を送りたい。そして少年A役の風間俊介も難しい役どころを、語りすぎることない演技で表現していて、違和感なく見ることができた。
最後は、結ばれることのない加害者家族の満島ひかりと、被害者家族の瑛太だが、被害者家族と加害者家族、周囲からの目線は全く違うものの、実は同じ船に乗っているようなもので、心境は似ているのではないか・・・という表現がされているところも、ハッとさせられるところがある。
私は、自分が苦しい状況に置かれているときに、このドラマを見たが、こんな風に苦しんでいる人も世の中にはいるのだ・・・と知ることで、何か、自分が生きていく支えになったことを思い出す。視聴者に、ただ単なる希望とか、そんなものではない、少しの生きる力を与えてくれる、そんな、不思議な魅力をもった、異色の名作ドラマだと思う。
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