恋愛感情のリアル - それでも、生きてゆくの感想

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ドラマレビュー数 1,147件

それでも、生きてゆく

4.674.67
映像
4.67
脚本
4.50
キャスト
5.00
音楽
4.33
演出
4.17
感想数
3
観た人
5

恋愛感情のリアル

4.54.5
映像
5.0
脚本
4.5
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
4.5

目次

被害者側と加害者側と

この物語は被害者の兄である洋貴と加害者の妹である双葉を中心に展開されますが、二人が出会ってからしばらくは、被害者家族としての悲しみと、以前の友人だった加害者への憎しみを抱えながら生きている洋貴が、加害者家族としての懺悔の念は少なからず感じるものの、「お兄ちゃん!」と呼びながらあくまでも兄、文哉の味方でい続けようとする双葉に対して煮え切らない思いを感じ、時折それをぶつけたりしながら進みます。ですが次第にそれが一人の異性としての視点に変わっていったのは、双葉自身深い苦しみを抱えながら必死に生きているということが伝わってきたからではないでしょうか。洋貴の母親の響子も、自分達と同じ様に苦しみを抱える加害者家族に対して次第に許しの感情を抱く様になっていきます。
しかしどうやら、当の文哉本人だけはその苦しみを共有していないようです。それにより、洋貴の中で、vs加害者側から、vs文哉 に対象が変わっていきます。そして洋貴の気持ちが痛いほどわかるようになっている双葉も、最後には兄への一縷の望みも絶ち、蹴り、殴りかかるという行動で兄への失望感を爆発させます。それによって洋貴と双葉は、心理的にはほぼ同じ側に立つに至ったと言えるのではないでしょうか。
ちなみに、よくサイコパスの様な役は大袈裟な演技になってしまいがちですが、風間俊介さんは自然でよく演じていたと思います。洋貴の母親の響子が血相を変えて文哉に掴み掛かる際の、大竹しのぶさんの恐ろしいほどの迫力とリアリティに溢れた演技に対することができるほど、心の壊れっぷりをうまく表現できていました。

恋愛感情のリアル

被害者家族と加害者家族という、常識的、雰囲気的には恋愛など許されない間柄でありますが、恋愛は許されない状況ほど燃えるもの。お互いは次第に異性として惹かれていきます。学園ドラマの様に、お互い何の制約もない自由な状況で「つらい!」とか「悲しい!」とか言っているのを笑いたくなるほど、こちらは状況が状況なだけにシリアスです。「恋愛感情という本能は理性で抑えるのが難しい」というリアティティが彼らに残酷に襲い掛かります。そしてその許されぬ恋は、最後まで互いに感情を解放しきれないながらも小出しに愛情表現をしつつクライマックスを迎えます。双葉が理性を優先した決断をして結論を出すのです。ですが、お互いがお互いへのメッセージを書き続けるシーンによって、二人の恋は終わっていないという一筋の希望を我々に抱かせてくれます。二人、特に双葉には幸せになってもらいたいと願わずにはいられません。そう感情移入してしまうのも、ひとえに満島ひかりさんと瑛太さんの演技力によるものでしょう。瑛太さんの、草食系男子的なオクテな態度と、満島さんの、身の程わきまえすぎ、空気読みすぎな態度によって、時にはぎこちなく、時には軽快な掛け合いが生まれ、見るものをほのぼのとした気持ちにさせてくれるし、その恋愛慣れしていない様なぎこちなさによって、お互い気になる存在ではあるが積極的にアプローチできないという、状況に合ったリアリティを生むことに成功しているのだと思います。

タイトルは誰の心象か

この様な事件が起きた際は、被害者家族の心象や加害者本人の動機、精神状態のみがテーマになりがちですが、そこに加害者家族の心象という視点も加え、それが新たな実力派女優として注目を浴びている満島ひかりさんの演技によって表現されます。社会から理解も同情もされず弁明も許されない、だけど、加害者家族だって本当は、祭に行ったら楽しさを表現したいし、恋愛感情も解放させたい。しかしその感情、本能を必死に抑えているという切なさ、悲しさを見事に表現していて、涙を誘います。「それでも、生きてゆく」というタイトルも、一般的には被害者家族の心象を表していると考えるかも知れませんが、私は敢えて加害者家族、特にその代表的存在と言える双葉にこそ当て嵌めたいと思います。当然、家族を殺された悲しみ、苦しみというものは想像すらできないほど深いものでしょう。ですが、いつかはその感情を克服して前に進まなくてはいけません。側で応援してくれる人もきっといます。一方の加害者側は、誰にも同情されないどころか、誰も側に立ちたくないために、恋愛も仕事を続けることも困難であるというどうしようもない現実があります。しかしそれでも生きていかなければならないのです。被害者側ではなくて加害者側にスポットを当て、特に同情を誘うような表現は避けられがちです。加害者側は徹底的に否定することで犯罪の抑止力にするという意図もあるのかも知れません。でも、別の見方で、「犯罪を犯してしまったら残された人はこんなに苦しむことになるんだよ」という抑止力も可能ではないかと思います。その意味でもこのドラマは深い教育的価値を持つと言っても過言ではないと思います。

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他のレビュアーの感想・評価

社会問題

加害者と被害者家族の話です。昔起きた、子供を殺害した事件の犯人家族に満島ひかりさん。被害者家族に瑛太さん。被害者家族は、突然殺害された家族の無念を忘れず生きてきた。犯人は少年であったため、少年法に守られ、数年の少年院生活だけで既に社会復帰している。加害家族も事件の事がバレると引越しを繰り返して細細と生きてきた。偶然、お互いの境遇も分からないまま、2人は出会う。何もも知らない2人は、交流していくうちにお互いを意識し始めていく。遠く離れた土地で社会復帰して働いてたいた元少年。たまたま事件の事が、雇われる先の人達にバレてしまい新たな犠牲者が。。。キャスティングがいいです。実力派女優の満島ひかりさんはもちろん、犯人の元少年役の風間俊介さんの演技は素晴らしい。別ドラマで演じていた心が壊れたら年を思いだしました。風間さんは歳取るごとにいい俳優さんになってると思う。満島ひかりさんは、様々な映画やドラ...この感想を読む

4.54.5
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苦しんで生きている私達に、生きる意味を問う異色の名作ドラマ

ドラマ「それでも、生きてゆく」は、ドラマ上の架空のある少年事件の被害者家族と加害者家族の姿を描いたドラマである。少年Aの妹と、少年Aに自分の妹を殺された兄を中心に描かれていく。「少年A」が中学生時代に、小学生の女児を殺害した・・・という設定は、1990年代に神戸で起きた児童殺傷事件を彷彿とさせる。実際の少年Aには、男兄弟が2人いたそうだが、このドラマの設定では、男兄弟でなく、満島ひかり演じる妹を加害者家族の中心に描くことで、実際の事件から少し距離が取れていて、見ていてそれほど殺伐とした思いにはならなかった。このドラマの何が秀逸かというと、この重いテーマを取り上げてドラマ化してくれたフジテレビと協賛しているCMの会社に、まず賛辞を送りたい。テーマ自体が重すぎると、なかなかドラマ化が難しいところがあるが、よく許可を下してくれたなフジテレビ!といった思いである。そのテーマの重さに引きずられて沈むパ...この感想を読む

5.05.0
  • orangejuice2orangejuice2
  • 101view
  • 936文字

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