カルバニア物語
女王さまはお仕事なんです
ファンタジーコメディという体裁を取ったこの作品は、架空の王国カルバニアの若くて可愛いタニア・カルバニア女王と、その親友で男勝り(というかほぼ男)の侯爵令嬢エキュー・タンタロットを中心に描かれたショートエピソード形式の物語です。カルバニア他、諸外国との外交関係や、王室を取り巻く人々との人間模様が、軽妙な会話と共に時にコミカルに、時にハートフルに展開していきます。
作中でも触れられてますが、タニアは女王職を現代的な「お仕事」と捉えているのが、この作品のユニークなところです。カルバニアの世界ではただ一人、初の女王であるタニアは、周囲から軽んじられることに憤ったり泣いてしまったり。それでも信頼できる友人たちに支えられながら、彼女の職務に真摯な態度が徐々に周囲からの信頼を得て行く過程には、いち読者としてとても共感を覚えるのですよ。
一方のエキューは見た目も性格も真っ平らな胸も(^^;)男ながら、装えば絶世の美女に化けるというとても美味しい役どころ。ちゃんと恋に仕事に趣味の暴力にと、ある意味作中で一番人生を謳歌しているキャラですが、のちにすったもんだの大騒動の末、父の退任を受けて初の女侯爵に就任するエピソードはとても心揺さぶられます。しかし傍若無人で性同一性障害か?と思われる気性ながら、可愛いもの綺麗なもの好きで、ちゃっかりハンサムなやり手の恋人までゲットするとはなんという人生勝ち組(コノヤロー)
他にも宮廷デザイナーの矜持のお話、バスクの領主の家庭事情、意外にちょくちょく挟まれる女性の生理にまつわるエピソードなど、シニカルながらも女性作家ならではの暖かい視点が心地よいのですが、時どき独特の死生観が顔を覗かせるので、読み手はハッとさせられるんですよね。バスク領主の息子フランが生母と死別するエピソードは、なんとも言いようのない感動に打たれました。女王さまだって悩むんです
そもそも「カルバニア物語」はファンタジーなんでしょうか? 妖精や魔法使いは登場しないのに?(騙りのペテン師は登場しましたが) そのかわり幽霊は結構登場しており、タニア自身宮廷やココアタワーで遭遇してるんですが、妙に達観した女の子なので動じないんですよね(その分エキューがいいリアクションしてくれてますが)
「宮廷にはいっぱいいるのに」 見た目優し気な容姿のタニアですが、やはり取り巻くその環境から、むしろ生きてる人間の方がやっかいだったんでしょうね。父を早くに亡くし後継者争いに巻き込まれる中で、幼いながら女王としての資質を育てていくことになります。そうしなければ、彼女は居場所を失うから。
美しいけれど浪費家で浅慮な母親に手を焼き、とうとう大事件を引き起こした彼女を極刑から救うため、タニアは母を追放します。皮肉にもその行動が評価され、タニアは16歳にしてカルバニア国の女王になったのでした。……文章にするだけでも重苦しい話ですが、このエピソードを綺麗にまとめた力量には唸らされます。
エキューを挟んでタニアをライバル視するアナベルも、やはり幽霊に動じない女の子です。貧乏貴族の娘である彼女は、タニアの夫候補のナジャル・フラコスと利害が一致し、愛人関係を結びます。当初はタニアを嫌っていたアナベルですが、タニアの人となりに触れて、次第に態度が軟化して行くんですよね。
最新刊16巻では、ナジャルのライバルのコンラッド王子を牽制しつつ、エキューの父の再婚騒動で尽力してくれたので、個人的に一番好感度がupした子なんですよ。 割り切った関係でありながら、それでもナジャルの素っ気ない態度に傷つくのは、きっとアナベル自身が愛情に飢えているからでしょう。
アナベルには、何かと悩みが多く孤立しがちなタニアのいい友人となって欲しいところですが、彼女自身も幸せになって欲しいですね。似た者同士、ナジャル・フラコスとはお似合いだと思うんですけどねぇ?
女王さまだって女の子なんです
1993年に世界観を同一にする短編が発表され、翌1994年に連載がスタートして20年以上続くこの作品、作者のTONOさんは重い話は苦手だそうですが、どうしてどうして読ませてくれます。
可愛いながら手抜き風とまで言えるシンプルな絵柄で、基本はコメディラインで物語が進むなか、時折展開するシリアスエピソードこそがこの作品の真骨頂なのでしょう。愛する父親の死と幼少時より宮廷で受けた圧力の数々、散々タニアを苦しめた母親との別れと和解。軽いタッチながら、そういったお話がしっかり描かれるからこそ、単純なファンタジーコメディとは一線を画する作品になっていると思うんですよ。
それにしても気になるのはタニア女王のお相手役。パーマー国のコンラッド王子とその弟、性格に難ありの従妹ナジャルが今のところ有力候補かしら? 決着つけて欲しくもあるんですけど、タニア本人の結婚観がもの凄く醒めてるいることもあって有耶無耶になっちゃうのかなぁ…? 作者さんは過去、家族のことや愛猫のこと、その他が綴られたエッセイ漫画も何本か出されており、縁談が破談になった経験では、実はご自身も結婚の意志が薄かったことが描かれているんですよね…。
ともあれパワーダウンすることなく物語が進行する「カルバニア物語」。もしも最終話を手にする日が来るのなら、やはりタニアには好もしい相手と幸せになって欲しいんですよ。だからお願いしますよ作者さんっm(__)m
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