ある意味、フェミニンな物語
完結するかしないかは天のみぞ知る
穏健なBL誌に掲載されているのに、ホモでもレズでもない。しかし、普通の少女漫画ともいいきれない。なんとも、不思議な味わいのある漫画だ。
完結を心待ちにしている漫画は、いくつかあるが、カルバニア物語は、いつまでも完結してほしくない。といっても、どらえもんのように、主人公がいつまでも成長しない、同じ時間軸の中にとどまっている漫画と違って、カルバニアでは、歳月は流れ、子供は成長してゆく。
だからきっと、いつの日か終わりが来るのだろうけれど、刊行ペースがゆっくりなので、永遠といっていいほど、完結は先の話だという気がする。
そして、もし、私が死んだ後に完結したとしたら、非常に口惜しい。たぶん私は化けて出ると思う。作者のTONOさんは、心霊漫画もよく書かれるので、驚きはしないだろうけれど。
一人称「おれ」で絶世の美少女
ヒロインが男勝り、というのは少女漫画でも少年漫画でもよくある設定だ。でもそれは、彼女がただ男の子ぶってみたいだけだったり、あるいは男の子の気を惹くためにオテンバにふるまっているのだったりする。
さて、カルバニアには、二人のヒロインがいる。女王タニアと公爵令嬢エキューである。
タニアは、ちょっと巨乳ぎみで黒髪の、普通に可愛い娘だ。普通でないのは、女王という立場だけ。
エキューの方は、公爵令嬢という立場が霞んでしまうほど、普通じゃない。
金髪にサファイアのような青い目、小さいときは「神々しいほどの美幼女」と称されたものだが、そのころから普通じゃない片鱗はあった。
可愛い服を着せられていても、そのポケットにはウナギとセミが詰め込んであるのだ。まあ、男の子としては普通だったとも言える。
案の定、少し大きくなると、つねに男の子の格好をし、馬を乗り回し、男の子と殴り合いをして勝ってしまう。男勝りというより、ただの乱暴者、自称ケダモノである。
そんなエキューは、自分の正体を隠す気などさらさらなかったのに、男の子と思い込んで可愛がっていたライアン・ニックス公爵に、女の子だと知られ、なじられるのだが…。
そのときのエキューのセリフが、なんとも胸がすく爽快さだ。
『男のフリなんかしてない 男になろうとも思ってない おれはこのままでおれだ』
「元始、女性は太陽であった」という青踏派のスローガンより、よほど胸に響く。
抑圧され、タガをはめられてもがく全ての少女の叫びのようだ。…さすがに普通の少女は、「おれ」とは言わないが。
さて、1巻2巻では、まだ私はこの漫画をあまり評価していなかった。面白くないことはないけど、ありがちな話だと軽く見ていた。
3巻で、がらりと見方が変わった。
それまでは1話完結方式で、収録されている話と話の間に脈絡がなかったのに、3巻は、1冊まるごとエキューの「生い立ちの記」になっていて、ぐいぐい引き込まれた。
そして絵柄も、3巻4巻から安定してきて、安心して読めるようになった。
私は、「カルバニア物語」は3巻から始まったと思っている。それまでは小手調べ、プロローグのようなものだったと。
恋とセックス、そしてメンス
筆がのってくるに従って、作者は身もフタもなくなってきた。
「恋ってそんなにいいもの?」というタニアに、エキューは、「セックスはよかろうと思う」と返すのだ。
最近の少女漫画は、エッチな描写もためらわないけれど、根底にあるのは恋愛至上主義。なのに、恋を飛ばしてセックスか。
そういえば、エキューがライアンと10巻にして結ばれたあたりで、こんなセリフがあった。
「猫は昨日まで普通にしてて急に発情する」。親友の変貌を目の当たりにしたタニアの感想だが、いかにも猫飼いの作者らしいコメントである。
そして、全篇にふんだんに登場する、メンスネタ。
なんと、女公爵に叙せられる儀式の日にも、エキューはメンス2日めという設定だ。白いドレスで、白い廊下を歩くという、女なら、ぞっとするシチュエーションである。
これは確かに女のための漫画には違いない。2日目がどうとかって、いくら仲が良くても、男友達とは盛り上がれないから。
この叙爵の儀式で、タニアは感極まって落涙する。「女同士の友情」と言ってしまえばそれまでだけど、血を分けた姉妹か盟友かという、熱いものが感じられた。
タニアの涙に心揺さぶられたエキューが、叙爵の挨拶で「がんばります」と小学生のような誓言をしたあたり、笑いながら泣ける名場面である。
メンス話といい、女王と女公爵の友情といい、堂々たるフェミニズム漫画ともいえるだろう。男がこれを読んだら、面白くないというより、居心地の悪い思いをするだろうな。
カルバニアよ、永遠なれ
カルバニア物語は現在、16巻まで刊行されている。
この後、物語はどう動くだろう。
タニア女王は、パーマー王国の第一王子コンラッドと結婚するだろうか。いや、しなくてもいいかもしれない。
だってエキューも、ライアンと結婚してはいないんだから。二人とも公爵家の当主だから、できない相談だ。
コンラッド王子も、パーマー国の王に即位するので、これまた、カルバニアの女王との結婚は難しそう。王子には何やら勝算がありそうだけど、無理しないで、遠距離・事実婚でいいじゃないかと思う。
ただ、タニアとコンラッド、エキューとライアンの子供たちは、ぜひ見てみたいものだ。
ライアンの若き日の隠し子に、タニアもエキューも興味津々だったのは、その子を通して幼いライアンを見たかったから。子供を通して、自分たちの子供時代を振り返る、ということもある。タニアもエキューも、そんな境地に至るといいな。
そうそう、それぞれ2人以上は産まないとね。両国および両公爵家が絶えてしまうから。
ネーミングの怪
それにしても気になるのは、「エキュー」という名の由来だ。いずこの国の名前かと、だいぶ調べてみたが、わからなかった。変な語感だし、国籍不明。
ほかの女子たちは、アナベル・タニア・ペネローペと、欧米では普通にある名前なので、よけい気になる。
男女の区別のつきにくい名前にしたかったとしても、もっとまともなのがありそうなもんだ。
いやいや、もっと変なのがいたっけ。姓も名も変な女。その名も「プラプープ・カッチャン」。
「フラフープ」ならまだわかる…と、コンタクトレンズをはずしてページに目をくっつけたけれど、やっぱり半濁音だった。
そういえば、この作者は他の漫画でも、名前に統一性がないというか、センスがおかしいというか。
チキタGUGUの「チキタ」はまだしも、「GUGU」ってどういう姓だ。強くてかっこいい悲劇の少女に「ニッケル」ってのも微妙。なぜ鉱物名?
たぶん、名前の響きなんか、作者は気にしちゃいないんだろう。そういうところがまた、少女漫画らしからぬ要素だと思う。
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