十二人の怒れる男の感想一覧
映画「十二人の怒れる男」についての感想が4件掲載中です。実際に映画を観たレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
正しく考え、判断することの難しさ
少年の父親殺しの罪が死刑になるかの裁判。12人の陪審員たちがある部屋でその裁判について議論をする様子を描いている。1957年アメリカの映画。少年は有罪か無罪かを議論するため、ある部屋に集められた12人の陪審員。12人のうち11人が有罪を主張するが、ただ一人、無罪を主張する者がいた。それを聞いた有罪を主張した11人たちは…。この映画の見どころは、正しく物事を考え、判断することが、いかに人間にとって難しいか、というところだろう。裁判は、陪審員たちには実際には無関係な問題といえる。それゆえ私事、固定観念にとたわれた決定を、何度も下しそうになる姿が実に見苦しく、かつ人間らしい。過去に起こった、見てもいない事件を知ろうとすることは、困難で危険を伴う。そのストレスにさらされた12人の陪審員たちの逃げ出そうとする心理や、逆に立ち向かおうとする心理が丁寧に描かれていて、惹きつけられてしまう。この映画の...この感想を読む
ミステリーの傑作
法廷ミステリードラマの傑作です。12人の陪審員のうち、11人が有罪だと疑わなかった事件。証拠ははっきりとしていて、簡単な裁判と思われたものの、一人の反対者の指摘をきっかけとして、事件の真相が次々と暴かれていきます。なにより、この12人の陪審員たちが、全員そろいもそろって個性的。煙草の煙が充満する個室の中、各自の理由によって激昂した男たちが、無関係の人間の判決をかけて論争を繰り広げるさまは、昔の白黒映画でありながら非常に興奮させられ、また視聴後は善悪や責任についてなど考えさせらる映画です。白黒映画だと敬遠するのは大損。ぜひ見てほしい名作です。
人間は誰しも完璧ではない
裁判員制度の難しさを、この作品以上に的確に解りやすく描いている作品を知らない。評決は12人全員一致でないと提出できないのだが、11人が有罪であると判断する中、1人だけ無罪であると主張する。この場合における無罪というのは、被疑者の17歳の少年が罪を犯していない、とするものではなく、判断できない、という意味だ。もしかしたら罪を犯しているかもしれないし、犯していないかもしれない、しかしどちらにせよ、今法廷で聞いてきた話や提出された証拠、証人の話では、疑問の余地が残る、よってもう一度法定で議論する必要がある、というものだ。日本とアメリカでは裁判の仕組みが違うが、裁判員の判断によって一人の人間の人生が決まるのは同じだ。そのことを深く考えさせてくれる。一幕劇としても、弁論が戦う劇としても、一見の価値はある。派手なアクションシーはなくても思わず引き込まれて、あたかも自分も同じ部屋にいる錯覚に陥る。途中で降...この感想を読む
人間が人間を裁くことの難しさ
アメリカと日本は裁判制度が異なり、特に日本の裁判システムが批判される場合によくアメリカの陪審員制度が持ち出されます。市民が積極的に裁判に関わり、法と秩序の形成するなどと説明されるものの、本作を見ればそう簡単に理想化できるものではないことがよく分かります。簡単に言えば、陪審員制度をテーマとしていかに人間心理というものが危ういかということを証明しています。このように説明すると何やら難解で退屈な芸術映画と思われるかもしれませんが、本作はそうしたテーマを実に描写と議論のみによってわかりやすく物語に昇華しています。本作には殴り合いや銃撃戦、逃亡劇も登場しません。裁判の内容を十二人のそれぞれ個性ある男たちが討論するものです。そうしていく中で、話が大きく動き決着していきます。ドンパチがなくても面白くそして深い映画は作れる。それを証明してくれる一作です。