小川哲『ユートロニカのこちら側』レビュー
ユートロニカとは当たり前のことではあるが、本を手に取るとき真っ先に目に飛び込んでくるものの一つがタイトルである。この本のタイトルには、多くの人が「何だろう」と興味をかき立てられるであろう言葉が使われている。それが「ユートロニカ」。この言葉は何を意味するのだろう。全六章からなるこの物語では、それぞれの章で異なる人物を通して「アガスティアリゾート」と呼ばれる特別地区の姿が描かれる。アガスティアリゾートは、住民が自分の視覚聴覚情報を含むすべての個人情報を提供する代わりに、働かずに暮らしていけるだけの基礎保険を受け取ることができる都市だ。働かなくていい夢のような世界! となると、ユートロニカの「ユート」は「ユートピア」のことに違いない。そして、このユートピアは実のところ、常にマイン社(アガスティアリゾートの産みの親)に監視・管理されるディストピアなのだ――そんな風に決めつけてかかりたくなるが、...この感想を読む
4.54.5
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