まるで古典本格ミステリを読んでいるような錯覚にとらわれる「皮膚の下の頭蓋骨」
私立探偵のコーデリア・グレイは、有名女優クラリッサの夫であるジョージ・ラルストン卿から仕事を依頼されることに。その内容は、妻のクラリッサが何者かから脅迫を受けており、彼女を守ってもらいたいというもの。ラリッサは知人が管理するコーシイ島へ行き、そこで芝居を上演するので、コーデリアに秘書として共についてきてほしいというのだ。そこでコーデリアは島へとわたり、クラリッサの警護を行いつつも、犯人の痕跡を探そうとするのであったが--------。
「女には向かない職業」に続いての私立探偵コーデリア・グレイが登場する作品。ただし、この作品にも「女には向かない職業」同様、ライトに読めるような作品ではなく、この作品ではさらに重苦しい雰囲気と描写の作品になっている。
この作品、まるで古典本格ミステリを読んでいるような錯覚にとらわれる。雰囲気的にはマイケル・イネスのような感触だろうか。故に、マイケル・イネスが好きであれば、この作品も読みこなせると思われるのだが、そうでなければ合わないという人も多いことであろう。
私立探偵コーデリア・グレイが女優の警護を依頼され、島へと渡るところから始まり、そこに住むもの、招待された者らと数日を過ごすことになる。事件が起こるまでの間、そこでの生活の描写となるのだが、この辺はなんとも地味で、作品の核心的な中身に本当に関連するのかと微妙に思えてならない。こういったところが、古典本格ミステリを感じさせるところかもしれない。そして登場人物らも暗めの人たちばかりで、作品の地味さをさらに増長させていく。
そして事件が起こり、警察が介入し、やがて真相へと迫ることになるのだが、この辺は面白く読むことができる。ただし、作品全体における歪さを強く感じさせるようなものとなっている。というのは、最終的に一介の私立探偵では手に負えないような事件となってしまっているのだ。
最初のコーデリア・グレイの登場場面は、いかにも市民的な町の探偵というところを表しているにもかかわらず、最後にはそれに反するような終わり方になっている。この辺は、物語のテーマとして、一般人には手に負えないような巨大な“悪”のようなものを示したかったということなのであろうか。
そういう感じで、なんとも一般的なミステリとかハードボイルド作品とかの範疇を超えた作品になっている。著者のP・D・ジェイムズはそうした奇抜なところが好まれて、一部の層に熱狂的に愛されている作家であるのかもしれない。
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