ありきたりだが面白い作品
ありきたりな印象がぬぐえない
全体通して「ありきたり」だという感想でした。
まず犯行声明をネットに出す殺人鬼、その殺人鬼が殺すのは現実世界で罪を犯しているなどの同情されにくい人間たちであること、犯人が、自分が警察になれなかったことを逆恨みした結果の犯行であったこと。などなど、すべてがどこかで見たことあるような・・と思えるような展開だったと思います。ちなみに解説にも「どうしようもない悪党、悪人を殺戮していく連続殺人犯という設定は珍しくない」とありました。珍しくない設定自体は問題ではないのですね。
さらに、細かいですが明日香のいじめられ方に関してもトイレの上から水をかけるなんて昔の漫画を読んでいるような感覚でした。明日香が城之内を誘い出し、逆にピンチになるが城之内が明日香を連れていったところはもともと明日香たちが城之内を誘い出そうとした場所だった場面なども、漫画でもこうはうまくいかないよなあ・・と思いました。
しかしそこまで完璧にありきたりだったからこそとても読みやすく、さらさらと読み終わることができました。想像しにくい場面だったり、難しく考えなければいけない事象だったりがまったくなかったのでここまで読みやすかったのでしょうね。
エスケイ化粧品の関連は?
この作品を通しての一番の疑問はエスケイ化粧品の皮膚障害の問題は本筋にどれほど関係あったのか?という点です。ひよりの母であるかおりが勤めている会社であるエスケイ化粧品ですがひよりのいじめをきっかけにかおりが水商売からエスケイ化粧品に転職した話であるとか、かおりが顧客にとても信頼されているマネージャーであるとかいうことは理解できましたが、だから何?という印象でしたね。
唯一関係したところといえば、森のくまさんを名乗る暴漢に母が襲われたことくらいでしたが、言ってしまえばそれだけですよね。
最初に、まったく関係ないと思われるエスケイ化粧品の問題が出てきたときに、これはどのような伏線なのだろうかとわくわくしながら読みましたが正直期待外れでした。
かおりが森のくまさんの標的になってしまい、事件が展開していくのか?など想像しましたがまったく違いました・・。
明日香の豹変ぶりについていけない
最後の最後の明日香の豹変ぶりに関してですが戸惑いが隠せません。
今まで守ってくれた琴乃に対しての暴言だったり、琴乃と正則を馬鹿にした態度だったりには驚きました。こんなに豹変するものでしょうか。もともとはいじめを苦に琴乃と自殺しようとしていた少女だったよね?と。
そしてこの腹黒さや冷酷さがあれば城之内のいじめくらい軽くはじきとばせたのでは?という疑問が出てきます。あとは、最後の明日香と琴乃のやりとりやネットの書き込みを見ると続編が想像されますね。実際に「公開処刑人 森のくまさん お嬢さん、お逃げなさい」に続いているのですね。ありきたりな内容と書きましたが、最後まで読むと続編も読みたくなりますね。明日香がどのような森のくまさんとして事件を起こしていくのでしょうか。展開が気になるところです。
九門正則の人物像に関して
この話の中に出てきた「森のくまさん」である「九門正則」に関して。
「くもんまさのり」を並び替えたら「もりのくまさん」になりますよね。この設定は勇気があるなあと感じました。
話の流れでは九門が若林を名乗っていることから若林が森のくまさんであるというミスリードをされそうですが、犯罪者のネット上での名前を「森のくまさん」に決めたその瞬間に気づく人は気づいてしまうにもかかわらず安易な並べ替えを名前にしている点、感動しました。気づいていなければ最後のほうに「なるほどー!!」となりますもんね。これが作者が勝負に出た命名なのか、そんなにたくさんの人が気づくわけがないという自信からなのか気になりますね。
九門正則のようなサイコパスな人間も小説の中には往々にして出てきますよね。『能力低いのにプライド高い』人間は、犯人にするにはもってこいですもんね。
警察官になりたいのになれず、自分はなる素質があると思い込み、受け入れられないと受け入れなかった側が悪いと信じて疑わない。犯罪者以外になるものがないですね。
このような点も最初に述べた「ありきたり」な犯人像にあてはまりますね。
菜々美とひよりのキャラクターが区別しにくい。
キャラクターの特徴が明確でない点もかなり気になりました。小説を読んでいく中でその人物の映像というのが自然と浮かんでくるのですがこの2名に関してはまったく同じ印象しかなかったために名前と、人物としての役割の違いくらいしか区別できるものがありませんでしたね。片方が明るく片方がおとなしいという印象もないですし片方が行動派で片方が慎重派という印象もなく。ふたりとも正義感に溢れていましたし。どちらも彼氏に迷惑をかけない、ものわかりのいい良い子です。
話の流れとしてこの2人のキャラクターを明確に分ける必要は確かにないのですが、このような小説を読むにあたってはそのキャラクターを思い浮かべながら読むのも楽しみのひとつなのでもう少し性格なり行動なりに明確な区別があればもっと楽しく読めただろうと思いました。
こうやってまとめると、大きな話の流れ、細部、キャラクター設定、犯人像などやはり統一しての「ありきたり」感にあふれています。ただありきたりなのに、面白くないという印象がなかった点がすごい点だと感じています。ありきたりだが面白く読める、というのがこの作品の魅力なのだと思います。
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