あなたは私を好きになる。
『海を感じる時』
恵美子が洋を好きになったように、私も、好きになった人がいた。肉体を求められても、拒まない。だって嫌じゃないから。私も、あなたを、求めているの。欲しいんだ。だけど、「海を感じる時」その時は、もう、あなたを求めない。きっと、あなたは私を好きになる。
少ない言葉を交わす洋と恵美子
洋「初めてだったんだ」
恵美子「高野さん、私ね、前から好きだったんです。」
洋「僕はねえ、女の人の体に興味があったんだ。君じゃなくてもよかったんだ。」
洋「もう出よ。遅いよ。」
恵美子「正直なのね。」
洋「苦しいだけさ。」
洋が言う、「苦しいだけさ。」と。
洋「俺はよくても君はだめになっちまうよ。」
恵美子「でも、あなたが私に求めるのって、体しかないんでしょ。それ以外はなんの興味もないし、好きな女の子のタイプじゃないって。」
洋「だから、こんなこと続けるとますます気持ちが離れていっちゃうんだよ。でも、いつも求めるのあなたの方なのよ。最初の時から。」
洋「だから、あんなことの相手はやめるんだ。」
恵美子「私、あなたが欲しいと言うのなら、それでいいんです。少しでも私を必要としてくれるなら、体だけでも。」
洋「やっぱり帰れよ。」
洋「俺は4時の電車で帰る。」
恵美子「嫌。」
洋「どうしてもか。」
洋「もう俺に会わないかい。」
恵美子「うん。」
恵美子が洋を図書室で待ちぶせする。
恵美子「話したいことがあるの。」
洋「こんなとこで待ちぶせすんなよ。だって今日当番じゃないだろ。」
恵美子「そうじゃないの。交代してもらったの。」
恵美子の母は、「海を感じる時」を知っているだろうか。
娘が、娘を愛していない男の人に体を差しだしていると知った恵美子の母。恵美子と母の心はぶつかっていた。娘は、「体を許して何が悪いの」と言う。「あなたは若いから、何も分からないんだ」と母は思っているのだろうか。娘が、少女から女になることを拒んでいるわけではないだろうか。母は、ここを通らなければ知ることができない「海を感じる時」を知っているだろうか。
洋に甘える恵美子
冒頭のシーンで、動物園に行く時に、恵美子が「く〜ま、く〜ま、く〜ま」と言う。かわいい。
好きな人に甘えることができるのはなぜだろう。親には、その姿を絶対に見せることができない。
恵美子の家で、2人、ご飯を食べている時。恵美子が、行儀悪く、箸で机を太鼓のように叩く。
洋も、恵美子の真似をして、箸で机を叩く。
この時の、洋の表情。洋の微笑んだ顔が、恵美子を愛おしく思っているようだった。洋のこんな表情は初めてみた。
「海を感じる時」とは
この作品を観た人、それぞれの解釈があると思う。
私は、「海を感じる時」とは、少女から女になった時、少女だった時のことを思い出す時だと思う。
洋は、恵美子に、「こんなこと続けるとますます気持ちが離れていっちゃうんだよ。」と言った。
理由は、分からない。だけど、洋が言っていることは真実だなと思う。
私が好きだった人は、少女だった私のことを、好きになってはくれなかった。その人は、洋のように苦しいと思ったことはあるのかな。好きではない、だけど、したい。私は、洋の「苦しい」という気持ちは分からない。私が好きだった人が、苦しいと思う人であってほしい。
恵美子は、洋を、喫茶店に呼び出したり、朝の新聞部の教室に呼び出したり、図書室で待ちぶせをする。洋を追いかけるような、その行動は、ストーカーのように見えるけれど、全く違う。だって、洋は最後には必ず恵美子を求めるから。恵美子はそれを知っている。洋は、嫌がっているように見えるけど、嫌がってないことぐらい、洋自身が分かってる。恵美子も分かってる。
恵美子が少女から女へ変化していく。洋は、恵美子を好きになっていた。子供と大人の両方を持っている恵美子を離したくなくなった。
高校生の時、洋が「僕は、女の人の体に興味があったんだ。君じゃなくてもよかったんだ。」と言ったことを、恵美子は覚えている。そして、そのことを覚えていることは、恵美子を女にする。
原作者の中沢けいさんが、どんな意味で、「海を感じる時」と表したのかは私には分からないけれど、
「海を感じる時」という表現は私の血液に、死ぬまで流れ続ける影響を与えた。
誰か、好きな人ができて、その人のことを少女の時のように追いかけた時、「あ、海を感じる時だ。」となる。だから、少女の時のように、誰かを好きになることはもうない。
私がまだ小さい頃に映画化された作品で、その時は、この映画を観ることはないと思っていた。だけど、今まで、いろんな本や、人や、言葉、経験、をしてきて、この作品に出会えた。実らなかった恋は、すぐにでも忘れたいと思っていたけれど、忘れる必要はないなと思った。その経験がなかったら、この作品を観た時に、こういう風に感じる自分はいないだろうから。誰かに、まっすぐになったことがなければ、恵美子の気持ちは分からない。
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