人の心の難しさ
不器用なまでの真っ直ぐな愛
好きで好きでどうしようもない人って一生に一度誰しもが出会う可能性があります。それが高校生という多感な時期ならなおさら好きな相手に執着し追いかけ続ける事もあるでしょう。この作品は最初から最後までエミコの重すぎる一途な気持ちが描かれています。主役の市川由衣扮するエミコは高校の先輩である池松壮亮(ヨウ)に恋をします。きっかけはヨウからのキスでした。しかしヨウはエミコに君が好きな訳じゃなくただキスがしたかったと告げるのです。ただ女性に興味がありキスをしただけのヨウと、前から気になっていたヨウからキスをされたエミコでは気持ちに大きなズレが生まれていきます。何度も何度もアタックし続けるエミコと何度も何度も断り続けるヨウ。一度ハマってしまうと他の事には目もくれず半ばストーカーのようにヨウにつきまとう姿を見ているとなんだか切ない気持ちに。学業はそっちのけで友達も作らず残されたたった一人の家族である母とも対立し自ら世間と孤立していく姿は本当にリアルでした。しかも自ら服を脱ぎ捨ててヨウに抱かれようとする安い女を演じるのですから見ていてヒヤヒヤします。ですが恋は盲目というように一度好きになるともて遊ばれようとも必死に追いかけるものです。例え好きになった男性が自分に振り向く可能性がなくても、少しの可能性を感じて自分の思うがままに突き進むエミコはなんだか見ていて清々しい気持ちにもなります。市川由衣さんのような綺麗な方が一途に追いかけ続けるという話は現実味がないかもしれませんが好きってこうゆう事かもなと感じられる作品です。
強烈すぎるインパクト
私はこの作品を観るまで市川由衣とは清純派女優とばかり思っていました。ですがこの作品を観ると市川由衣のイメージが100%変わります。池松壮亮もそうですが普段は正統派なイメージが強いだけにさすが俳優さんなんだなと思わされると思います。なぜなら物語の大半がベッドシーンとなっていてその上市川由衣のヌード姿までが映し出されています。それもかなり過激な内容の作品になっておりヨウに自ら体を差し出し抱いてくださいと懇願し肉体関係を持ち続けます。それも綺麗なマンションの一室やホテルならまだしも、お世辞でも綺麗とは言えない古いアパートで何度も体を重ねる姿がとてもリアルに表現されています。時には校内で下着姿になりヨウに求めていくシーンは同じ女性としてすごくドキドキハラハラしてしまいました。ゆきずりの男性とのSMプレイを思わせる描写もよく役を引き受けたなと感じるシーンが多いです。もちろん過激なのはベッドシーンだけではなく暴力が混在しています。暴力は体の暴力だけではなく言葉の暴力でもあります。娘の大学進学を望み、男性とは清い交際を求める母。しかし現実は自分の描いていた娘の理想とは程遠く淫らな娘に育ってしまったエミコに正気の沙汰とは思えない程母親は激昂します。エミコの母親もまたエミコとは違う深い苦しみを抱えており、その苦しみをエミコで晴らすかのように暴言や暴力を浴びせるあたり見ていて苦しかったです。幸せな家庭とは世間に溢れているように見えますが一度歯車が狂うと壊れてしまうのだなと改めて感じます。
ラストシーンが意味すること
この映画はラストに明確な答えがあるわけではありません。ですから見ているこちらがエミコの言ったセリフや表情で読み取るように作られています。エミコは長年一途に思い続けていたヨウと同棲を始めます。長年思いを寄せていたエミコの気持ちを突き放し続けていたヨウですが、それは人を好きになる事が怖かったから。やっと自分の気持ちに正直になりエミコの気持ちに答える事が出来たのです。普通ならこれでハッピーエンドで終わるわけですがこの作品は一味も二味も違います。ヨウと同棲を始めて幸せの絶頂にいるはずのエミコなのですがヨウとは違う別の男性と関係を持ってしまいます。そしてエミコは自らヨウに別の男性と関係を持った事を告げるのです。その事を告げられたヨウは嫉妬に狂いエミコを引きづり怒りをぶつけるのですが既にエミコの心はありませんでした。エミコは長年ヨウに拒絶され続け心に大きな穴が開いていたんです。その穴はヨウと生活する事によって埋まると信じていたのですが決して埋まる事なく時間が経過していきます。同棲を始めて同じ屋根の下で寝起きを共にし食卓を囲むシーンは幸せそのものに見えます。ですがエミコにとっては何か物足らず自分が期待していた形ではない事に気付いていくのです。ヨウは人を好きになって傷つきたくないのであえてエミコにキツイ言葉を浴びせていました。それでもヨウの心に土足で踏み込んできたのはエミコで傷つけたのもエミコのように感じました。ラストシーンにエミコが生まれ育った故郷に帰り浜辺を歩くシーンがあります。もうそこには母親も好きだったヨウも居ません。ですが少し晴れやかになったエミコの表情があり、やっとスタートラインに立ったように思えました。
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