超豪華絢爛なゼフィレッリ映像を堪能 - トラヴィアータ/1985・椿姫の感想

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超豪華絢爛なゼフィレッリ映像を堪能

5.05.0
映像
4.5
脚本
4.0
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
4.5

目次

オペラ映画としての極北

オペラ映像には、舞台公演をライブ収録したものと、映画形式の二種類があることは、多くの方がご存知だと思います。ただ、この二つが必ずしも明確に区分できないことは、意外と知られていません。

プレスコで音声を収録し、これにあわせてロケやらスタジオ撮影やらで絵を自由に撮影編集していくのがオペラ映画で、劇場に多数の観客を入れ、拍手も含めてリアルタイムに収録していくのが(事後に編集は加えるとしても)ライブ映像。では、観客を入れずにゲネプロを撮影したら? そこに舞台のフレームが一切映っていなかったら? 微妙ですよね。ここまで微妙でなくても、いったん舞台公演を行い、その演出をもとに、場合によっては装置や衣装を一部流用して映画撮影するケースもあります。これははっきりオペラ映画と呼んでいいでしょう。フランコ・ゼフィレッリの作品としてはカラヤン指揮の「ラ・ボエーム」が代表例です。

この「ラ・トラヴィアータ」は、それとは異なり、ほぼ映画オリジナルの演出です。ゼフィレッリはもちろん舞台でこの演目をずっと手がけてはいるのですが、いったんそれは忘れて映画として新たな演出を組み立てています。オペラ映画として極北の形といえるでしょう。

緩急自在の演出

なぜか、イタリアを舞台にしたイタリアオペラ、ドイツを舞台にしたドイツオペラは少数派で、この「トラヴィアータ」の舞台もパリです。映画は、たっぷりと冒頭に時間をとって冬のパリの町並みを映し出します。前奏曲があるにもかかわらず、その前に鴎の声や川の音をバックにタイトル表示されるのです。冬の陰鬱な風景。イタリア人にとってパリは歴然とした「北の都」であることを痛感させられるような映像です。

前奏曲が始まると、カメラはヴィオレッタの屋敷に入っていきます。廃屋同然の状態で、業者が家財を運び出す場面です。つまり、第3幕冒頭の、零落した状態をオープニングに持ってきたわけです。業者の少年がふと掲げられた肖像に見惚れる場面で主題曲が高鳴り、ズームアップしていく映像は息を呑むほどの美しさで、これは映画ならではの演出といえるでしょう。奥の寝室には死が迫ったヴィオレッタが臥せっているのですが、鏡に映る衰えた自分の顔に、元気なころの姿がインサートされていくところで激しい音楽とともに第1幕が開始されます。時間をぐっと巻き戻す演出としては、ここも実に鮮やか。

ゴージャスきわまるセットに一驚

華やかなりしころのヴィオレッタの生活が描かれます。一応、ホームパーティということになるのでしょうが、日本人の感覚からいうと宮廷の宴席を思わせるほどの豪華さで、セットのゴージャスさに驚かされます。上流階級専門とはいえ、娼婦の私邸とはとても思えないスケールです。美術家出身でもあるゼフィレッリが腕によりをかけたセットで、衣装も含め、金色を強調した華美さは、上品とはとてもいえないのですが、主人公が娼婦であることを考えるとこれで正解なのでしょう。

主役を演じるテレサ・ストラータスは、ギリシャ系カナダ人のソプラノで、容姿が美しいこともあってオペラ映像が非常に多く残っている人です。どちらかというとドイツオペラの方が得意だったようですが、イタリアオペラにも長け、この映画はその代表作でしょう。歌唱だけならより優れたヴィオレッタは何人か挙げられるでしょうが、これだけの美貌と演技力を見せられると文句はいえません。

相手役プラシド・ドミンゴはさすがの貫禄で、優れた唄と演技を示してくれますが、純情青年アルフレードとしては適役かどうかという疑問も残ります。ほっそりしたストラータスと並ぶとなおのことで、実際は彼のほうが年下なのですが。

ジェームズ・レヴァインの指揮は、このドミンゴの個性に相応した感じで、たっぷりと汁気の多い響きを聴かせながらメリハリ豊かに音楽を進めます。昔はメトロポリタン歌劇場管弦楽団といえばお粗末な水準でしたが、この時期にはまったく申し分ないレベルで、音だけを聴いても十分に楽しめるレベルに達しています。

ヴィオレッタは一人で死んだのか

このオペラで問題になるのは、ラスト、ヴィオレッタの死のシーンです。急遽かけつけたアルフレードとジェルモンが悔悟の言葉を述べ、彼らに見取られて息を引き取るというのが台本で、事実、医師と女中を含めた五重唱が最後の曲です。これが実は死の間際の幻影で、彼女は一人きりで死んでいったのではないかという説が古くからあるのです。これを演出やセリフで説明したり、見せたりする演出はかなり盛んに行われています。

この映画もその立場を取りました。愛する人々から見守られ死んでいくヴィオレッタ。そのクローズアップからカメラがどーんとズームアウトすると、一瞬のうちに室内は無人となっており、一人きりの遺体が取り残されています。短いのでわかりやすいとはいえませんが、それだけに衝撃的なラストシーンとなっています。

「ラ・トラヴィアータ」は、アメリカ資本の傘下を得たこともあって、オペラ映画としては破格の高予算をかけた豪華版となりました。その方向性に賛否はあるでしょうが、今もなおオペラファンにとっての贅沢なご馳走であることは確かです。

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