面白い映画、という点にかけては百点満点 - 遊びの時間は終らないの感想

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遊びの時間は終らない

5.005.00
映像
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脚本
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キャスト
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音楽
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演出
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面白い映画、という点にかけては百点満点

5.05.0
映像
4.0
脚本
5.0
キャスト
5.0
音楽
4.0
演出
4.0

目次

幻の原作

小説新潮の新人賞は、1983年~1992年の間、井上ひさし、筒井康隆の二人だけで選考するという異例の体制を組みました。この間、受賞作は6回しか出ていません。コンスタントに活躍する作家は一人も出ませんでした。将来性無視で作品の面白さに徹して選んだともいえます。中でも最も異色の存在が作品集「木村家の人びと」を出版し、収録3編のうち2つが映画化、1つがTVドラマ化されながら、その1冊で消えた谷俊彦。そして、この受賞作短編「遊びの時間は終わらない」のみで消えた都井邦彦でしょう。当然単行本化はされませんでしたが、北村薫が自身のアンソロジー『謎のギャラリー 謎の部屋』に収録、この映画化も含めて激賞しています。なお、本作以外に韓国でも映画化され、別にテレビドラマもあります。短い間に3回も映像化された、抜群に面白い物語です。

話は比較的単純です。アイディアマン気取りの警察署長が「リアルな防犯訓練」を企画。細かいシナリオは決めずに、犯人役の警官も含めて全員が臨機応変に動くよう指示して銀行強盗ショーを挙行します。ところが、犯人役が滅茶苦茶に凝り性で融通の利かない堅物警官で、人質を取って徹底抗戦に入ってしまいます。マスコミを集めてしまっているので、署長たちは合理的な「逮捕劇」にもちこまなければならず、偽の篭城線は海外報道陣まで呼び込んだ大騒ぎに発展していく、と、これだけです。

アイディアよし、脚本よし、演出よし

日本映画はいったいに、情を排した、面白さ徹底重視のエンタテインメントが苦手といわれます。ですが、この抜群に面白いアイディアを得て、脚本家も監督も、絶対にこれはぶち壊しちゃいけないという気迫がひしひしと感じられる仕事っぷりで、すばらしい映画に仕上げてくれました。面白い映画、という点にかけては百点満点といえるかも知れません。

まず、これはもちろん原作もなのですが、暴走する犯人役警官が、反逆児でも何でもなく、ひたすら職務に忠実なマジメ人間だという点をきっちり抑えています。でもミリタリー趣味もあって、一抹あやうい面も秘めている。本木雅弘、これ以上考えられないほどの適役です。彼はただ、仕事として犯人ならこうするであろうことを一生懸命考え、実行しているだけなのです。人質も全員「拘束中」と紙を貼って座らせておくだけで実際に縛ったりしません。ですから、警察はテレビカメラの前で「訓練中止」を宣言すれば済むのですが、それは模擬強盗で犯人を逮捕できなかったことになってどうしても許されないというジレンマが生じる。対峙する警察上司が、署長石橋蓮司以下、斉藤晴彦、赤塚真人、松澤一之という面々で、ぞくぞくするほどの芸達者ぞろいです。さらに県警から乗り込んできた本部次長原田大二郎が対応指揮を取り、メリハリの利いた芝居でどんどん場を盛り上げます。

オリジナルキャラクターが皆すばらしい

原作は短編ですから、オリジナル要素をある程度入れないと時間が持ちません。この映画のクレバーなところは、あくまでキャラクターとして面白いオリジナル人物を増やし、原作を忠実に守ったストーリーに奉仕させているところです。たとえば主人公の両親も登場するのですが、絶対に余計な家族関係のドラマなんか追加しません。彼らがこの騒動にどう反応し、悪乗りしていく様を追うだけです。

県警本部次長も良いのですが、オリジナルキャラクターの白眉は、地元放送局のはぐれキャスターを演じる萩原流行でしょう。「国民の声を代表して」を連発してどんどんゲームのルールを宣言し、警察の打つ手を封じていく。脚本演出演技三拍子そろった、快哉を叫びたくなるほどのぶっ飛んだ怪人物です。その部下のリポーターに扮する七瀬なつみのチャーミングさも抜群です。テレビの「ぽっかぽか」で人気を得た彼女ですが、映画が少ないのは残念きわまりないところ。

襲われる銀行(この映画では信組。何と実名で出ています)は、防犯訓練のため日曜に開店のふりをし、行員は全員本物、客は全員警官です。女子行員たちも面白いのですが、主婦の客に扮する空手名人の婦人警官がまた傑作。隙をついて本木を叩きのめし、無事解決と思われた瞬間、「抱いている赤ん坊(の人形)で犯人を殴打した。そんな母親がいるか」と萩原に一喝されてノーカン扱い。実はこの直前に原田がマスコミ監視をかいくぐって本木に直通電話を入れることをに成功しているところが脚本の巧さです。彼は単に職務に忠実なだけなのですから、上司に幕引きを命じられては逆らうことができようもはず、適当なところで自滅して逮捕される心積もりだったはずなのです。わざと隙を見せたわけではないでしょうが、とにかく婦警の暴走で台無し。やれやれ、まだ続くのかよとうんざり顔の人質たちに心なしか同調しているような表情を見せます。

瑕瑾もあるにはある

原作にはこんな描写もあります。銀行はわざわざこのため日曜に開けているのですから、騒動が日をまたぐと翌日の営業ができなくなります。だから銀行から中止要請してもらったらどうか、とは当然出るべくして出る意見。結果は、本部からお断り。世界中で注目されているこのショーを当行が中断させたらあちこちの恨みを買う、警察は我々を悪者にするつもりですか、仮店舗も用意したし、人質たちには残業手当を出すのでご心配なく、というわけです。この面白いやりとりが映画ではなぜかカットされていて、ここは聊か残念に思いました。(そのかわり、現場の周りにどんどん屋台が増えていくなどの面白い描写はありましたが)

逆に、最後まで反抗的なハイミスの女子行員に対する「制裁」が、これは原作通りなのですが、ちょっと今となっては時代を感じさせてしまいます。笑えないギャグになってしまいました。

遊びの時間は「終わらない」

映画や原作を半ば過ぎまで観たり読んだりした人が必ず抱くであろう疑問があります。

この話、どうやって収拾をつけるつもりなんだ? 

犯人は一人きりです。映画では覚せい剤を打って体力を維持している(という設定を自ら作っている)ことになっていますが、何十時間も続くものではありません。そもそも扮する警官の体力も持ちません。

結論を申し上げますと、原作にも映画にも「オチ」はありません。To be continuedというか、「さてさて騒ぎはまだまだ続きますが、お時間もまいりましたので、一席これまでとさせていただきます」みたいなエンディングとなっています。ただ、これで腹をたてたり失望したりする人はまずいないでしょう。そもそも題名でこれは予告されているようなものですし、この物語はどんな結末をつけても白けることは間違いないからです。また、締めくくり方も原作はちょっと工夫不足だったのに対し、映画は野球中継とか逮捕済み共犯者をうまく絡め、オチなしの中にも高揚感を醸し出すことに成功しています。

最後に、この映画は原作も不遇でしたが、現在に至っても今ひとつ知名度が高くない嫌いがあります。日本テレビが製作に名を連ねていながら、放映は1回しかされていない模様です。警察とともにマスコミが徹底的にバカにされている内容でもあり、難しいものがあるのでしょう。ただ、そうした毒の部分も含めて面白さは無類であり、21世紀に至ってもあいもかわらずドタバタを続ける権力者とマスコミの姿を普遍的に切り取った名作として評価されるべきではないでしょうか。

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