敵とは、人はどう生きるか
この世代で有名な作家で、乙一、西尾維新、佐藤友哉等がいますが、僕の中で小説の概念を大きく変えたのが滝本竜彦の「ネガティブハッピーチェンソーエッヂ」でした。
この作品において、焦点が当てられているのは、『敵という概念』ということにあります。
『敵』ってなんだ?彼らはほんとに排除すべき存在なのか?
その疑問について書かれています。
敵とは『逆デウス・エクス・マキナ』
ここで書かれる「敵」は、ものすごく象徴的で現実にはいない存在です。
正体はわからないしいつも武器は違うし強さもまちまち。まるで一貫性が無いが、とにかく少女は毎日戦っています。
敵の正体は?目的は…?と言うのが気になるところですが、この作品における焦点は『敵』という概念そのものに当てられます。
ここで、通常のドラマやマンガでの展開を考えてみましょう。
通常の作品では、登場人物の関係や事態が拗れると、事件が起きたり敵が現れます。
そして、それらに向き合うことで、お互いを見つめ直すきっかけとなります。
しかし、現実にはそんなうまく行きません。
そんな好機は訪れないし、しかし時間は無情にすぎていく…。
この作品ではそんな『逆デウス・エクス・マキナ』的な存在として敵が書かれます。
通常、『デウス・エクス・マキナ』とは、作劇等で神様が急速なオチなどをつけるために、都合よく全ての事に終止符を打つ為に現れます。突然のハッピーエンド等でよく使われます。
この作品での『敵』は、ある意味様々な創作物に対する壮大なアンチテーゼとも言えなくはない。
敵とは!人との出会いのきっかけであり、関係進展の一助を担い、時には壮大な人生の幕引きをも担う存在である。
何も刺激のない人生に、幸せも進展訪れない。敵というスパイスが、人生を豊かにしていくのだ。
ある意味、主人公達にとっては非常に都合のいい現実逃避の目的として存在しています。
もしも漠然と生きている中で、かっこいいバトルに可愛い女の子がいれば、それだけで事件に飛び込むには充分かもしれませんね(笑)。
荒々しく、むき出しの感情
この作品で書かれているのは、作者独特の感性によるむき出しの感情と人生観です。
敵とはなにか?何をもって生きる、死ぬのかということを書いています。
そこに明確な回答は無いし、なにも始まりもしない、ただ生きているということに対する結果のみを書いています。
生きることは挑戦と挫折の繰り返しで、時になぁなぁになりながらもまた肩を組んで歩いていく事なのだと思います。
滝本竜彦の書くものは、常に変わった価値観と彼自身の人生観が大きく投影されている様に思います。
作家は皆、何かしらの技巧を凝らして書くものですが、むき出しの感情を文章にぶつける様な書き方が非常に魅力的です。
そこには嘘がなく、純粋な感性だけを感じると思います。
人生の終わりはドラマティックに
敵とのテーマの中に隠れている「何故人は生きるのか」というテーマ。
人が生きるのは、なにも明確な目的を持ってばかりではありません。しかし、人は漠然と死を恐れて生を強く求めます。
でも、それはある意味皆「相応しい死」を求めているのかもしれません。
例えば主人公は、死んでしまった親友の幻影を求めて、彼のようなドラマティックな死に様を求めます。
それは『敵』と相打ちになって、ヒロインを救う事。無自覚に死に魅入られた主人公は、迷走の果てにその結論を出します。
しかし、結果としてそれは叶いませんでした。
残った結果は泥まみれになって泣くじゃくってみっともない姿をした自分だけでした。ヒロインの少女もそうです。お互いみっともなく、情けない姿でボロボロでした。
主人公は天にいる親友に向かって叫びます。それはまるで負け犬の遠吠えとも、勝利の咆哮とも言えるシーンでした。
人が死を選ぶのはよくあることですが、いざ死ぬとなるとなかなかそうは行きません。
彼が感じたのは、死ぬのは勇気では無いということでしょう。
私の持論も混じりますが、自殺するのは勇気ではなく、生きる事と天秤にかけても死に傾く程の絶望感です。より深い絶望が無ければ死ぬことは難しいでしょう。
彼が選んだ道は「死ぬまでは必死になって生きる」事でした。
生きることを受け入れ決断することは、ある意味死を選ぶより厳しいことです。ましてや、今の彼には今までいた『敵』もいない。現実的な困難ばかりが立ち塞がります。
それこそがある意味真の敵とも言えなくはない。
人生、皆自分が可愛いので、できるだけドラマティックに、仰々しく死にたいと思ったり、静かに大切な人に看取られながら死にたいと思うことがあると思います。
そんな相応しい死に場所を見つけるまでは、生きていることを自慢していればいいのかしれません。
滝本竜彦の魅力
この作品に限らず、滝本竜彦の作品魅力で溢れています。
あらすじとしては、大抵下記の通り。
初めは計画をたてておっかなびっくり行動していくのに、気づけば破綻。
結局お互い罵倒しあって離縁するのに、なんだかんだでまた出会う。
メンヘラあるあるですね(笑)。
今では小説を書いていないようですが、また作品を見たいものですね。
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