殺しと流血の暴力描写で全世界で一大ブームを巻き起こした、マカロニ・ウエスタンの痛快娯楽作 「五人の軍隊」 - 五人の軍隊の感想

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殺しと流血の暴力描写で全世界で一大ブームを巻き起こした、マカロニ・ウエスタンの痛快娯楽作 「五人の軍隊」

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映像
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脚本
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キャスト
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音楽
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演出
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イタリア製西部劇の"マカロニ・ウエスタン"は、まがいもの、殺しと流血の暴力礼讃映画だと言われながら、本場のアメリカ映画界において、正当派の西部劇が衰退していく中で、その存在価値を全世界に広めていったのです。

映画は娯楽で、ましてや、それが西部劇ならば、派手なドンパチに残酷のスパイスをたっぷりふりかけたマカロニ・ウエスタンは、イタリア映画の重要な海外マーケットである中近東や南米、アフリカ諸国の他、本場のアメリカにまで拡散し、この国の貴重な外貨獲得の手段になったのだった。そして、商売になるとわかったら、なりふりかまわず突き進む、イタリア通俗娯楽映画の真骨頂がここにあるのだと思います。

アメリカで言うところの、"スパゲッティ・ウエスタン"という言葉には、もの珍しさと蔑称のニュアンスが込められている気がしてならないのだが、アメリカも、その存在をもはや無視できなくなってきたことは時代の流れ、趨勢でもあったのだろう。

「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」などのマカロニ・ウスタンを撮った、セルジオ・レオーネという世界的に通用するマカロニ・ウエスタンの監督が誕生し、この監督がクリント・イーストウッドやロッド・スタイガーやチャールズ・ブロンソンといった本場アメリカの有名俳優たちを次々と起用し、作品も興行的に成功したことから、このイタリア製西部劇のマカロニ・ウエスタンは、単なるイミテーションから、それ自体のものとして認められたとも言えるのだ。

こうして、1960年代後半から1970年代初期にかけて、アメリカは進んでマカロニ・ウエスタンを買い付け、その英語版を世界に配給し、あるいは資本を投下して製作に関わっていくことになる。ロケ地は、スペインの荒野や山岳丘陵地帯、スタッフ、キャストにイタリア人やスペイン人を使うという按配だ。

これは、日本におけるマカロニ・ウエスタンの配給が、それまでもっぱら、東宝東和や日本ヘラルドといった邦人系の配給業者によっていたものが、1970年を境にアメリカのメジャー会社にとって代わられていくことでも如実にうかがえる。もちろん、もうひとつの背景としては、日本側が香港映画の活劇、カンフー映画などへ、その買い付け方針を変更していったということもあるが、1970年代以降の日本公開のマカロニ・ウエスタンは、その大半がアメリカのメジャーの配給会社によるものであることは注目していいように思われます。

アメリカは過去にもすでに、やはりイタリア映画に資本投下をして、史劇を送り出したことがあるが、かくて歴史は繰り返されていくのだ。そして、出演者たちも、もうハリウッドで食いっぱぐれたセコハン・スターたちではなくなり、現役の人気も知名度もあるスターが駆り出され、作品のセールス・ポイントになっていく。こうして、マカロニ・ウエスタンのアメリカ化、国際化が始まっていったのだ。

さて、この「五人の軍隊」は、「サスペリア」などのイタリアの鬼才監督・ダリオ・アルジェントが脚本に参加している一編だが、MGMの配給で監督はアメリカの俳優出身で「荒野の愚連隊」や「第十七捕虜収容所」などに出演し、その後、監督に転じて「新・猿の惑星」や「オーメン2/ダミアン」や「ファイナル・カウントダウン」を監督したドン・テイラー。

そして、出演俳優は、TVの人気ドラマ「スパイ大作戦」のリーダー、フェルプス役で有名なピーター・グレイブス、ジェームズ・ダリー、バッド・スペンサー、ニーノ・カステルヌオーボ、そしてわが日本の丹波哲郎。丹波哲郎の外国映画への出演は「太陽にかける橋」「第七の暁」「007は二度死ぬ」に次いで4本目の出演作になる。

物語は、この五人が、メキシコに列車で運ばれてくる砂金を奪い、革命軍に寄与するというもので、リーダーのダッチマン(ピーター・グレイブス)に報酬1,000ドルで雇われる"サムライ"(丹波哲郎)は、剣と手裏剣の名手、ジェームズ・ダリーは、爆薬専門の脱走兵、バッド・スペンサーは、牛泥棒にして鉄道の線路の操作がうまく、ニーノ・カステルヌオーボは、身の軽さが身上というプロたち。各々がそれぞれ特技を持っているのは、「荒野の七人」にもみられるように、この種の映画のお約束のパターンになっている。

五人は革命の闘士を処刑しようとしていた兵隊たちを皆殺しにしたり、いったんは捕まるものの、村娘の機転で脱走に成功し、列車を奇襲して目的を達するのだ。ここで、四人は砂金を分けようとするが、ダッチマンの阻止と彼らを革命の英雄と持ち上げる村人の歓呼に、あっさりと砂金はおろか報酬金まで彼らに提供してしまうのだ。

これはいかにも"アメリカ映画"的で、こんなことは初期から黄金期のマカロニ・ウエスタンでは考えられない行為である。この作品の公開が、1969年であることから、マカロニ・ウエスタンの変質がうかがえると思います。

尚、メキシコの将校役として、ジャコモ・ロッシ・スツアルトが顔を出しているのは拾いもので、丹波哲郎は「野獣暁に死す」の仲代達矢に続いて、イタリア西部劇に出演した二番目の日本人スターということになり、"サムライ"という役名で、無口な役柄で刀を振りかざしての活躍はまさに、"日本人ここに在り"を示していたと思います。

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