限りなくアダルトアニメに近いノーマルアニメ
高校生がエロゲーの声優に
エロゲー、つまり主に男性が性欲を満足させるために遊ぶ性的表現のあるゲームのことである。もちろんこれをプレイできるのは18歳以上という制限がある。やる側に制限がある以上、作る側にも制限があるはずである。当然、制作にかかわる側も18歳以上でなければならないはずである。本作はそこに目を付けて、18歳未満の女子高校生が、それも声優という、ユーザーからある意味見える部分を担当することになるというとんでもない設定で話を展開している。しかもこの原作が一般誌での掲載というのだから、これまた驚きである。よくこの企画が一般誌で通ったものである。法律違反になることに関しては、重要な設定であっても変更されることが多い(一例をあげると、「苺ましまろ」で主人公の姉の原作での設定は高校生であったが、喫煙者であるため、アニメの設定が20歳の大学生となっている)が、本作ではストーリーの根幹をなす部分でもあるからか、変更はされていない。原作者、紺野あずれ氏はもともと成年雑誌に掲載する作品を描いていたが、この「こえでおしごと!」が一般誌に掲載する初めての作品である。もちろん、アニメの本作も18禁の指定を受けておらず、一般の作品扱いとなっている。ここではこの点について、アニメや原作での表現方法を見ていきながら、なぜこの作品が一般扱いにできるのか、一般と18禁との境はどこにあるのか、について考察していきたい。
性器の呼称に関する表現
これについては男性器、女性器、その俗称などに関わらず、また、書いてあるのかセリフとしてしゃべるのかに関わらずNGである。書いてある場合は一部に×として伏せられているし、セリフの場合はP音が入る。ただ、これに関しては18禁作品も同様の扱いになっており、一般と18禁の境について語るという話にはならない。
性器の表現
性行為で男性器と女性器が結合していると思われるシーンやフェラシーンでの男性器は「NG」や「KEEP OUT」という表現で隠されている。これは18禁作品でも同じである。ただ、一部の男性器表現が虹色の半透明になっていて形としてははっきり分かるような表現がされている。これも、18禁作品と同じではあるが、あからさまにグロテスクな表現はされていないとは言っても、この表現が一般作品で許されていることに“制限というのはこんなに緩いものなのだろうか”と驚きを感じる。
性行為に関する表現
男性器を口で愛撫する「フェラ」は隠されていない。これが規制されないのにも驚きを感じる。この時に発する音であるいわゆる「チュパ音」という言葉も規制がない。「精液」という言葉、精液の画像表現も隠さずに表現されている。ただし、“ザ”で始まるその俗称はNGであり、P音がかけられている。俗称は18禁扱いになるようである。また、アニメでは登場しなかったが、原作においては、女性の胸で男性器を刺激する「パイズリ」もOKである。これもOKなのは不思議な感じを受ける。このあたりはかなり制限が緩い印象を受ける。線引きはどこなのだろうか?特別にプレイとして、ということではなく、普通のカップルが行いそうなことはOKということなのであろうか?「フェラ」や「パイズリ」は果たして世間一般的にそういう認識なのだろうか?本当に不思議である。
許されている表現
その他の男性と女性の性行為とは直接関係のない言葉について見ていく。まず、女性が性的に絶頂に達することを意味する「イく」。これもOKである。しかも作中、柑奈ちゃんは自慰行為などをしないまま想像力だけでイってしまい、その描写もしっかりされている。この場面はかなりの迫力があり、見方によってはエロスも感じさせる。そして作中、柑奈ちゃんがエロシーンを演じるために陶酔状態(作中ではこれを「トランス状態」と呼んでいる)に入るために行う指フェラもP音なしでセリフがあり、実際に指を舐めまわす描写もある。指に舌を絡ませてよだれも滴り落ちる、かなりエロい表現になっている。このように見ていくと、一般作品であってもかなりの表現が許されているとみなすことができる。日本国憲法でも謳われている「表現の自由」ということが大きいのだろうか。
許されていないと考えられる表現
ただ、これは一般向けには許されていないのだろうな、と考えられる行為もある。それはSMに関する表現である。エロゲーにはつきもののSMものの描写が、原作全10巻60話を通して全くないのである。原作にないから当然アニメでも出てこない。作中に出てくるゲーム会社はいくつか存在するが、そういう作品を扱っている可能性は非常に高い。特に海津の親の会社「スタジオカイザー」の作品は過激なものが多いということも作中で語られているからだ。実際、この会社の作品に声を当てることになった柑奈の役の女の子が縛られているらしき描写がある。そういうスチュエーションの話を作る会社の作品にSMものがないわけがないのである。SMもののシナリオを読んだ柑奈ちゃんが「縛られて気持ちいいって言っているけど、あれって本当に気持ちいいの?」と興味を持って、実際に緊縛体験をしてみる、という展開を期待していた読者も多かったのではないだろうか?フェラにも「精液おいしいって言っているけど、あれって本当においしいの?」と興味を持つ柑奈ちゃんのことだから、SMにも興味を持つということは十分に考えられたはずである。もっとも、この作品のコンセプトがエロゲーの声優を通して成長していく柑奈ちゃんたちの姿を描きながら、それ同時にラブコメも展開していくというところにあるわけで、そう考えるとSMの方面に話を進ませない原作者の意図も分かる。SMの話にしてしまうと、途端にエロ要素が前面に出てきてしまうからだ。とはいえ、実際にかなりエロい描写が多いのだから、SMの方向の話が多少なりとも出てきてもいいのでは、とも感じてしまう。そこで考えられるのが、一般向け作品ではSM的な表現がNGになっているのではないか、ということである。他作品においても、悪者に捕まって縛られるなどの軽い描写は一般作品でも存在する。そこに性行為を絡ませると一般作品としてはNGになってしまうのではないだろうか。このように考えていけば、この作品にSMの要素を全く出さないのも頷ける。ただ、作中に表現が出てこない以上、今のことは想像の域を出ないことは付け加えておく。
まとめ
このように考えてくると、一般作品とはいえども表現できることが意外に多く、制限がかなり緩いと判断できる。だからこそ、エロ要素がかなり高めの本作品も一般向け作品として制作できたものと思われる。しかし、ある一定のラインは存在するようで、そこを越えないように考えながら構成されていることも窺える。こういった見方をしながら本作品を見ていくのも面白いのではないだろうか。18禁作品であれば、出演声優は通常名乗っている名義とは別名義で表記されることがほとんどである。しかし、一般向けである本作品に出演している声優陣はすべて、通常通りの名義で出演している。これもなかなか勇気のいることであったに違いない。だが、主役・柑奈役のMAKOさんは当時のOVA発売イベントで「役者生命をかけて本気で演じた」とおっしゃっており、プロ意識の高さが感じ取れる。それでこそプロの声優だと思う。
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