素朴な大衆の料理こそ実は奥深い
料理バトルの先駆け、しかしメニューはいたって地味
最近では漫画の一つのジャンルとしてすっかり定着してしまった料理バトルという分野だが、そもそも最初は「包丁人味平」なのではないかと思う。
色んな作品がある中、比較的古いこの作品が、週刊少年ジャンプで連載を見ていた世代より若い世代にも支持されている理由に、味平が作った料理が単純においしそうだからという点がある。
近年出て来たグルメ系作品、味バトル系の作品は、料理も高級料理だったり、かなり珍しい料理で一般的になじみがないものなどで対決するものが多い。また、対決数が多く、一つの料理に長くこだわって極めるという漫画も少ない。
味平は、序盤の包丁試しなどは高級志向もあり、近年のバトル漫画に近い構成になっているものの、後半のカレーやラーメンなど身近なメニューの勝負の方がかなり有名でインパクトがある。
数百円で食べられるような料理を自分のポリシーに乗っ取って追求しながら対決するという手法が取られていて、カレーやラーメンに対する新たな気付きを読者に与えてくれる。
身近で食卓に上がるような料理での長丁場の勝負は、味平の味を実際に食べてみたいという読者の心をひきつける。同時にライバルも非常に魅力的で、ヤバそうなブラックカレーですら食べてみたくなるのが特徴的だ。
社会背景が勉強になるうんちくも
この作品のカレー勝負とラーメン勝負に出てくる、屋台の大吉のうんちくは、少年誌としては非常に社会勉強になる側面を持っている。
中卒で高校以上の高等教育は受けていないようだが、大吉は世間というものを屋台で人と接することで身に着けてきたのだろう。
カレー勝負では、単なる味の勝負ではなく、資金力が問題になったり、いわゆる顧客のニーズが問題になることも多かった。どうして今日は客が来ないのか?昨日よりおいしいカレーを作ったのにと悩む味平や他の面々に対し、曜日の問題による顧客の心理などから、いわゆるマーケティングの動向を冷静に分析していたのは大吉だけである。
デパートが資金力を駆使して地元商店街との客寄せに勝利する手法などの大吉の説明は、漫画故にわかりやすく、ちょっとした経済紙の記事のようであった。
カレー勝負のツッコミどころとして、そもそも小綺麗な店のインド屋と、見た目がヤバそうな暴走族が手伝っている立ち食い屋台では、その時点で客層や集客に差が出て仕方がない。何となくスルーされていたような(読み手も言われないと忘れがちな)その問題に、大吉がちょっと触れて集客への影響を語っているあたり、作者が全くそういう部分を全く無視して物語を作っていたわけではない、という姿勢を感じ、好感が持てる。
作ってみたくなる料理
味平の作る物には、真似して作ってみたくなる料理も多い。最近のグルメ系作品は料亭などがメイン舞台だったり、少々凝りすぎていて作るには相当な手間を要するものが多いが、味平の料理は誰でも作れそうなシンプルな大衆料理が多い。
どんぶりカレーやカレー雑煮、味平ライスなどは、全く味平と同じ味にできないまでも、残り物を工夫することで出来そうなものばかりだ。
カレー雑煮などは、実際に真似した人も多いのではないかと察する。ネット上で味平のことを調べると、実際自分で作中の料理を再現し、ブログ記事に過程をアップしているファンも多い。
同じ傾向にミスター味っ子があるが、味っ子の場合あまりに料理が奇抜なため、いわゆる怖い物見たさで作ってみて食べて仰天する(味的にハズレもあり)というパターンを感じるが、味平の場合は美味しく作ることができた人も多いようだ。
この作品は、家族の中で話題にできる作品のため、世代を超えて愛されているのではないだろうか。描写に古臭さや少々問題があってもファンが多いのは、強烈に「おいしそうだから」「ひょっとしたら自分にも作れるかも」という魅力の賜物だろう。
料理熱心がゆえに鈍感なところも
主人公味平は料理には並外れた熱心ぶりを見せるが、人情がないとは言わないものの人付き合いにはやや不器用なようである。
修行中の身とは言え、10代なのに親子関係も希薄で、あまり父親に連絡をしているそぶりもない。色々な料理を学ぶために場を変えていかなければならないとはいえ、あまり仲間に執着する人間ではないという感じがする。比較的長く付き合うことになったのが大吉だと言えるが、その大吉にも恋愛面ではやや無神経な対応をしてしまい、恋愛がどういうものかくらいはわかっているようだが自分の身に置き換えて考えることがどうもできないようである。
味平が人を好きになったり、家庭を持ったりした時に、また彼の味は変わってくるのではないか?大衆料理を極めたいのであれば、そんな気がしなくもない。
作中、ストイックがゆえに人を振り回してしまう描写がかなりあったが、料理は本来食べてくれる相手を思って作るもの。味平のやや利己的な部分が、大人になって変わっていくのを、もう少し見たい感じもする作品だ。
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