世間の名声とは裏腹に財産も愛情も希薄になっていくエスタブリッシュたちの没落と、虐げられた階層の優しさにスポットを当てた「ペイパー・ドール」 - ペイパー・ドールの感想

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ペイパー・ドール

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世間の名声とは裏腹に財産も愛情も希薄になっていくエスタブリッシュたちの没落と、虐げられた階層の優しさにスポットを当てた「ペイパー・ドール」

3.53.5
文章力
4.0
ストーリー
3.5
キャラクター
4.0
設定
3.5
演出
3.5

このロバート・B・パーカーの私立探偵"スペンサー・シリーズ"の20作目に当たる作品「ペーパー・ドール」は、スペンサー物としては異色の出来栄えの作品だと思います。

スペンサーのオフィスにボストンの名士、ラウドン・トリップが訪れてきた。二か月前に通り魔に殺されたラウドンの妻、オリヴイアの殺害犯人を捜して罰してもらいたいとの依頼だった。ラウドンの話によると、警察は経験の浅いゲイのファレル刑事に事件を担当させ、犯人逮捕に力を入れていないと不満を洩らしていた。

依頼を受けたスペンサーは、ルイスバーグ・スクエアにある依頼主、ラウドンの豪邸を訪れる。ラウドンの22歳の息子は、スペンサーに敵意を示し、18歳の娘は、母親に無関心であった。表面的には幸せそうに見えるラウドン家は、生活感が希薄で、家庭内に何かが欠けているようであった。

スペンサーは、手掛かりを求めて被害者オリヴィアの出身地、サウスカロライナ州オールトンに赴くのだった。オリヴィアの父ジャック・ネルソンは、かつて競走馬の生産を中心に手広く事業を拡張していた当地の大物だったが、今は隠居の身で酒浸りの日々を送っていて、身の回りの面倒をみる黒人の執事との二人暮らしであった。

現地の情報では、殺されたはずのオリヴィアは、黒人と結婚したために親に勘当され、現在ケニアのナイロビで診療所に勤めているとのことだ。では、ボストンの名士と結婚し、通り魔に殺害されたラウドン・トリップの妻の正体は誰なのか? -------。

オリヴイアの出生に何か秘密があるらしい。調査を進めるスペンサーは、地元の警察に妨害を受け、逮捕されたうえに暴行をうけてしまうのだった。どうやら、マサチューセッツ州選出の上院議員の差し金であるらしい。

なぜ、政界の大物が通り魔殺人事件に関与してくるのか?  思いのほか優秀であるゲイの担当刑事、ファレルとともにスペンサーは、事件の背後を探っていくが、地の利のないサウスカロライナでの調査はなかなかはかどらない。だが、この"スペンサー・シリーズ"ではすでにお馴染みのボストン市警察殺人課のクワーク警部補、ホーク、グロウブ紙のコズグロゥヴ記者の協力を得て、スペンサーは徐々に事件の核心へと迫っていくのだった-------。

シリーズ20作目のこの作品では、アメリカ東海岸の名家の内情に触れ、世間の名声とは裏腹に財産も愛情も希薄になっていくエスタブリッシュたちの没落と、これに相反し、虐げられた階層の優しさにスポットを当てているのだと思います。

ただ、残念なことに、このシリーズが多くのファンを獲得した、スペンサーと恋人スーザンの絡みもこの作品では希薄で、スペンサーに「私がスーザンを尊敬しているいろいろな点の一つは、絶対に無意味な会話をしないことだ」と語らせておきながら、この作品では会話にいつものような冴えが見られないように思えます。また、ホークとの関係も必然性がなくなってきているような気もします。

スペンサーの特徴であった饒舌が影を潜めているのも気になった点です。思うに、著者のロバート・B・パーカーはさまざまな紆余曲折を経て、その作風を人間の内面に焦点を当て、寡黙に自分自身を表現するロス・マクドナルドのスタイルに傾斜していっているように思われるのです。

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