エネルギッシュでパワフル!愛すべきイタリア家族
目次
濃いキャラ満載、イタリア人ってこんなにおもしろいの!?
イタリア人だからなのか、それともこの家族が特殊なのか…。本書はヤマザキマリさんがイタリアで夫の家族と同居していたときのエピソードが描かれたエッセイ漫画だが、『テルマエ・ロマエ』の作者と知らずにこの作品を読んでいたため、後に同一著者と知ったときは絵柄があまりに違うので驚いた覚えがある。
『テルマエ』では本格的に絵の勉強をしたヤマザキマリさんらしく、風景や建物、そしてローマ人と平たい顔族(日本人)の描き分けもきちんとされているが、このエッセイ漫画では絵柄はシンプル、背景もほとんどなく、言ってはなんだがかなり手抜きで描かれた感はある。だが、出てくる家族のキャラクターがみな濃く、途中で明らかにされるヤマザキマリさんの経歴もあり得ないようなぶっ飛んだもので、笑いながらどんどん読み進んでしまう。
濃いキャラの中でも特に秀逸なのは、ヤマザキマリさんの夫・ベッピーノの母親に間違いないだろう。パワフルで息子を溺愛し、息子が結婚することを報告したときは息子をとられるのが嫌で号泣したという…。二人の結婚式のとき、嫁が赤いドレスを着るという情報を事前に入手し、新婦よりも鮮やかな赤い服で結婚式に参列したというエピソードもすごい。
このお姑さん、なんと親戚や友人総勢11名で日本にも観光に来たことがあったとか。あまりのパワフルさにガイド役を務めたヤマザキマリさんと夫は満身創痍・疲労困憊になったという、大変な日本ツアーだったらしい。
そしてその姑の尻に敷かれる舅のキャラもまたいい。
エンジニアで自宅さえも自分で作り上げた舅はなんでも作ってしまう。韓国風の焼肉コーナーに、簡易携帯シャワー。簡易シャワーを出してきたときの舅がドラ〇もんになっているのが笑えるひとコマだ。
日本は彼女には窮屈すぎた。狭い島国には収まりきらなかったヤマザキマリさんのエネルギー
イタリアの家族の面々も個性的であるが、ヤマザキマリさん本人も日本という枠組には収まりきらない個性とパワーを持った人だ。彼女が日本を出てからの経歴は本作以外にもいろんなインタビューなどで知られていることなので省略するが、10年近く同棲したイタリア人の子どもを妊娠し、ここで普通なら、「とりあえず結婚して…」となりそうなところ、「自分がこれから面倒をみるのはこの子だけ」とヒモ同然の同棲相手ときっぱり別れたというのがすごい。ヤマザキマリさんの母親は札幌交響楽団に所属するヴィオラ奏者だったため、少しは母親からの仕送りを期待できる部分もあったのかもしれないが、自身の収入もなく、「世界の果てでも漫画描き」などでも描かれていたが、いかにもという貧乏学生生活を送っていた人がよくこんな決断をしたなと感心する。
『テルマエ・ロマエ』の連載中に描かれた『PIL』という漫画はヤマザキマリさんの日本での学生時代をベースに創作されたもので、『テルマエ』の大ヒットに隠れてほとんど評価がない作品だが、そのあとがきでヤマザキマリさんは「日本という限定的な空間で」ブリティッシュ・パンクにはまり行き場のないエネルギーを持て余していた少女時代を回想している。
ヤマザキマリさんの世界中を駆け巡るバイタリティや情熱は、日本という枠から外れることを嫌う国民性の国にはつくづくむいていなかったのだなと思う。
ヤマザキマリさんもすごいが、14歳の娘を単身ヨーロッパに旅立たせる母親もすごいと常々思っていたが、娘のありあまるエネルギーを正しい方向に持っていくためには、日本ではだめだとの判断があったのかもしれない。このヤマザキマリさんの母親は、エッセイ漫画においてはバサバサの長髪で顔を隠した男か女かわからないいでたちで描かれているのだが、彼女もまた規格外の人物であったようだ。
ヤマザキマリさんが以前ライブドア創始者である堀江貴文氏とのインタビューで語っていたことだが、彼女の祖父は長く外国に暮らしていたため、マリさんの母親である娘にも当時としては前衛的とも言える教育をほどこしていたとか。そのため母親自身日本社会になじめず苦労したこともあったそうで、娘に合った環境を与えることに躊躇はなかったのだろう。
気の抜けない渾身の作品の合間に、ぜひギャグが冴えるエッセイ漫画も
最近ではとり・みき氏との共作である「プリニウス」や「スティーブ・ジョブズ」など、実在の人物を元にした伝記作品も手掛けており、ギャグ要素の見られない写実的な作品が多くなっている。
だが、この作品から入ったものとして、ギャグ満載で簡潔な絵柄のエッセイ漫画も彼女の大きな持ち味だと思う。AGARU ITALIAというWEBマガジンで時々ヤマザキマリさんのエッセイが掲載されており、そこで相変わらずのイタリア家族の様子を見ることもあるが、イラストがひとコマだけ、というのが物足りない。現在は再び生活の基盤をイタリアに置いているというヤマザキマリさん。濃い~キャラのイタリア家族に会う機会も多いと思うので、エピソードが溜まったらぜひまた続編を描いてもらいたい。
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