原作にはない貴重な中1時代の翼たちの物語
既視感が強い作品
この作品は約1時間の尺でよく色々なエピソードを織り交ぜて充実した内容になっていると感心する一方、公開された当時どういうわけか前作のヨーロッパ大決戦に比較すると物足りなさを感じた。
それはなぜか?理由は、詰め込まれたエピソードに斬新さがなく、既視感を感じたからだろう。
危うしというタイトル通り、今回はヨーロッパ選抜がわざわざ日本に遠征に来てくれたというのに、万全のメンバーで試合に臨めないという問題が発生する。
しかし、その理由はほとんど原作のエピソードの焼き直しで、観たことがあるエピソードばかりなのである。
若林が所属の問題からそく全日本のメンバーとして受け入れられないという展開は、原作の全日本ユース編のトラブルとほぼ同じである。
また、日向が疾走して沖縄に勝手に修行に行ってしまうのも、中学生編の失踪と重複する。しかも驚くべきは、日向が半年も沖縄にいたらしいが、私学で半年も欠席して、進級が危ぶまれないのだろうか?3年の時に少しの間失踪しただけでもまずいだろうと思ったのに、1年の時にも失踪歴があったとは、よく二年後に二度目の失踪を北詰監督が許したものだと思う。
その他、定番の若島津の負傷、代わりに出た森崎は小学生の頃と同様、顔面にボールを食らって恐怖心が芽生えるということをまた繰り返す。
ミラージュボールというシュナイダーの恐るべき必殺技を阻止する方法として起用された若林のテレパシーセービングも、ヨーロッパ大決戦でも使用された技で、目新しい対応策ではなかった。
確かにチームが危うい条件は山ほど出てくるのだが、すべて原作のトラブルの使いまわしのため、斬新さや新鮮味に欠け、物足りなさを感じてしまった。
石崎と浦辺がツッコミ役に
この作品では、石崎と浦辺が色々突っ込んでいる点が面白い。
ドイツに住んでいる若林はともかく、翼がシュナイダーの言葉を理解しているという謎があるのに対し、石崎と浦辺は、なんて言っているのかわからないと意味不明な英語で応戦する(みごとにシュナイダー達には無視されるが)
また、どういうわけかこの作品では、選手登録を決定する権限に翼が深く関与しているようで、疾走している日向や、当時心臓病治療でサッカーを退いていた三杉を選手登録したのは、翼の意見であることを翼自ら説明している。一般的には、キャプテンとはいえ選手を選抜する権限は、サッカー協会なり、大人にあるのではないだろうか。招待選手扱いの様な若林はともかく、半年も学校を休んでいる日向や全国大会はおろかサッカーから一時離れている三杉を選んでしまうのは、他の選手からも不満があって当然ではないか。
石崎が、「日向を登録するくらいなら俺を登録しろよ」と愚痴るシーンがあるが、あれは一般的な選手の心理を代弁していると言える。
なお、小学生のタケシが選抜チームに入っており、2年以上の中学生の選手がいない点もややご都合主義っぽい。小学生編のヨーロッパ大決戦は、翼たちが6年生だったのでわかる気がしたが、中学生であれば3年生や2年生にだってすごい選手はいるだろうし、タケシはタケシで小学生の選抜として選ばれるべきなのではないか。黒子のバスケのキセキの世代じゃないが、よくよく考えるとこのジュニア選抜は翼の世代に良選手が集中しているとはいえ、非現実的なえこひいき選抜なのだ。
漫画なのでそれもありだが、大人になって観ると、どうしてもそういうところが気になってしまう。
短時間のアニメでも、凄い選手が凄いと分かる
ヨーロッパ大決戦を始め、元々テレビ版のアニメでおなじみのキャラとはいえ、ドリブルやその技術から、凄い選手の実力が存分に描かれている。この作品だけでも期待されている選手が凄い選手なのだとはっきりわかるようになっている。
後に放映されるジュニアワールドカップでは、内容自体は既視感はない分充実しているとはいえ、やや選手の実力を描き切れていないと感じる部分もあった。その点では過去の作品の方が、評判や雰囲気だけではなく試合中のプレーの描写でスター性を表現している点は素晴らしい。特にシュナイダーとピエールは、原作よりアニメ映画の方が登場が先だったため、当時のファンは劇場版で二人の凄さを知った上で原作を観ることになったという、原作を追いかけて制作されることが多いアニメとしては珍しい展開であった。
東映まんが祭りは他の漫画アニメも放映するため、一作ばかりを長丁場でやれない分どうしても尺が短くなりがちであるが、原作にファンを取り込む力があったことは否めない。
黒歴史になった必殺技!?
この作品で唯一気になるのが、日向が修行先で編み出した「イーグルショット」である。
気づく人は気づくと思うが、まず名称が後の松山の必殺技「イーグルショット」に完全にかぶってしまっている。また、一見打ち上げてしまったボールが急降下してゴールをとらえるシュートは、翼のドライブシュートと同じなのでは?と思う人も多いはずだ。
原作はもちろんこの作品を意識して作られた作品ではないので、日向が一年の時にそのような技を編み出していた設定を前提に書かれていないが、アニメでもこのシュートを日向が使ってる気配もないし、もし使っていたら翼に大打撃を与えたことは間違いない。
やや「やっちゃった感」があるこの必殺技は、日向本人もこの作品以外では使用することがないため、黒歴史になってしまったようだ。
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