東京オアシスで心にオアシス
小林聡美のお芝居の安定感と周りを固める実力者俳優たちのお芝居
数多くの作品に出演し続けている小林聡美が主演の今作は東京で行きかう人々の触れ合いの様子を会話劇で進んでいく、とてもお芝居をしている人たちの技術がとても問われるこの作品。
小林聡美の安定感のある語り口調は皆さんもご存知かと思いますが、周りを固めている役者の喋りもなんとも軽快で面白い。普通にこんな人いるよなあっていう人を加瀬亮はじめ原田千世、今作が映画初出演になった黒木華などベテランから大女優まで参加している役者さんが上手に演じています。
『かもめ食堂』のプロジェクトチームが作っている今作には常連のもたいたまこを始め市川実日子、光石研といった名前のない脇役も豪華で、のんびりと、しかし有意義にお芝居出来ているのが画面から全力で伝わってきます。
とても東京とは思えない時間の流れ方に心が休まる
東京には夢を追いかけてきている人や仕事でこっちで住まなきゃいけない人が多く集まってきているからか、とても時間の流れが速く感じます。主人公のトウコも実際女優の役でした。作品の最初に出会うカガノとのシーンも撮影中に抜け出してきたというシーンが始まりでした。
もちろんカメラワークがゆったりと動いていること、そして固定されているシーンが多いというのもあるのかもしれませんが出ている人達がみんな東京の流れについていこうとせず自分の時間を過ごしていることが多く影響しているのかもしれません。
トウコとカガノがきつねうどんを食べているシーンは本当に長回しで撮影されていますがうどんをすすりながらどうでもいいバレーについて話しているシーンは本当に日常的で誰にもせかされないこの空間はとても大好きなシーンでした。ヤスコと動物園で餌の時間を待っているときもそうですね。そして結局出てこない残念感も実際にそういうことがある現実味を味わわせてくれるシーンです。そして映画館で話しているキクチとスタッフのシーンも少しの違和感と安心感を与えてくれます。
そんな少しのずれを感じつつ見るとより楽しく見れる映画です。
時間の流れがどうしても早く感じてしまう東京でゆっくり心を落ち着かせたい、少し疲れている人に癒しを与える映画です。
出会う人すべてが小さい悩みや不思議を抱えている
トウコは撮影現場から逃げてきたりカガノは結婚詐欺をしている人、ヤスコはなかなか大学が受からずバイトを始めようとしているがなかなか受かりそうにない人、キクチは脚本をしていて辞めたけど結局その仕事に近いところで働いてしまう人など、現実にありそうなちっちゃな障害を抱えた人が登場人物として出てきます。
それを人と出会うことで少しづつ解決したり一緒に悩んだりして、時にはその悩みをそのままにしてみたり人間が絶対に経験のしたことのある方法で解決していきます。問題としては解決していないこともありますが。
ですので、嫌いな人は嫌いでしょうね。なにが言いたいのか分からないなど思う人もいると思うので(^^;
面白いのは、映画館で森岡龍が演じるスタッフがどこかで見たことのある人が来ているとキクチに言っていてそでがトウコだということ。キクチはトウコだと分かっても教えないこと。それってなんでと思うけどきっとよくありますよね。自分で思い出すことも必要だし、知らなくていいこともある、そんな人間心理がうまく表現されているシーンだと思います。
そんな人の悩みや不思議がたくさんちりばめられている今作は結局最後も特にこれといったことがなく、いわゆる群像劇になっておりそれぞれの人生が描かれているのが分かります。
答えがない映画っていうのも私はとても好きなのですが、こういった映画が苦手な人はただただつまらない映画になってしまうかもしれません。
私はもともと『かもめ食堂』が大好きで観ていたのですが、やはりテイストは一緒でも設定は全然違うのでとても新しいものとして観ることが出来ました。(食堂で出会いう人との群像劇という点では同じですが)
同じプロジェクトチームで制作されているということもあり小林聡美さんが心を許しているのも画面からとても伝わってきて、あの悟っているような喋り口調は本当に大好きでいつまでも聞いていたい声の一人です。
個人的には一言も喋らないもたいたまこさんの役も好きで、電車が走る脇の道路を歩く森岡龍さんも普通で好きでした。
やはり私はこの映画は少し疲れているときに観るのが良いのだと思います。そうすることで少し疲れている心に余白を作ってくれたり、それでいいんだと自分を肯定してあげたくなったり、疑問が疑問のままでも問題がないんだと少し思わせてくれます。きっと“少し”というのがとても意味があると思っていて、沢山だと働かない人が増えてしまったり“焦る”ということが無くなってしまいますもんね。
焦ってばかりでもいけないのかもしれませんが。。。
でもそういった気持ちを少し軽くしてくれるこの映画はとても人間らしくて日常的で本当に大好きな作品に私はなりました。
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