大正ドロドロ群像劇の魅力
大正の時代ってなんで素敵なのか
大正時代って、何回ドラマになるんですか?ってほどドラマに漫画に映画に…取り上げられる時代だよね。あの頃は、きっと時代が変わるまさにその時、いろんな新しいものが日本に入ってきて、徐々に何かが変わっていく気がする時代。先進的な人たちはどんどん進んで、変わらざるを得ない状況がつくり上げられていく不思議。見たことないものにあふれて、好奇心をくすぐられる気持ちや、女だからと引くのでなく、女だからと前に出る。そんな強さが日本人に芽生えた時代なんだよね。大正時代のころの女性の「かわいい」の気持ち・感じ方って、100年経とうと変わってない気がするよ。今でもずっと、そのときの時代の動いた感動とか、激動を忘れられないんだろうね、日本人って。何かが大きく動く。そんなものに憧れすらあると思う。なのに、あの時ほどの強い変化がないから、飢えてもいるのかもしれないね。
主人公の純は、貧乏で和装のおさげ髪の女だった。そこから、社交界へと羽ばたくレディへと変身して、教養も、礼儀も、お金も覚えていく。いまだに日本人の女の人って、レディになる夢捨てられないっていうか、自分には関係のない話と思いつつ、期待もしているというか。何しろまだまだ日本人女性は大和なでしこのまま、異世界にあこがれを抱いてても動かない性質があるから、こういう激動の物語がすごい刺激になるんだ。どんな生き方も正解だって理解はするのに、魂的に純和風な人間がここで生きていくにはふさわしいとか、そうあるべきとか、めんどくさいこと考えてるから、「裸足でバラを踏め」はそういう人への応援漫画でもあるよね。
美しく天真爛漫な純
純の設定は実においしかった。めっちゃ美人だけど超貧乏。まだ15歳で、これからどんどん女になるって時。貧乏だって泣かずに、兄が放蕩野郎でも文句言わず、押し付けられた子どもをちゃんと育て抜こうとする…ザ・耐える女。
そんな女性が今度はお金持ちにお金で買われて、愛のない結婚も誰かのためで、本当の想い人は別の人で…そこをぶっ壊さずに、お金のためとはいえ自分で決めた約束を守り抜こうとする。純は義理堅い女だった。貧乏だからこそ、自由な側面もあって、物を知らないだけで、考え方はずっと自由そのもの。そんな天真爛漫で一人で羽ばたくところに、頭が凝り固まった男たちは惚れていく。そして、純は目の前にいる男を愛し抜こうと決める…。
これさ、実際、目の前にいる男がすげーイケメンなうえ、お金も持っていて、実はかわいいとこもあるってわかったら、誰でも惚れる可能性はあるよね…だってさ、見知らぬ人だろうが、玉の輿には変わりなくて、最高の状況を手に入れるわけじゃん?もし、純みたいな義理堅い女じゃなくて、今どきな経済力求める女の人がこの状況を手に入れたら、めっちゃ謳歌するよね。純みたいに、愛いっぱいな人だったからこそ、望と蒼一郎の間でめんどくさいことになったし、単純ではいられなくなったとも言える。愛って手に入れるのは大変な労力で、一度知ったら失うのも難しいものなんだなー…。
若干納得できないのは、昔の日本を舞台にするとき、いい子ちゃんが主人公だけで、他の女はたいてい意地の悪いやつばっかりってところ。確かにスパイスにはなるけど、やりすぎる女ばかりでげんなりする。
望の狂気が見もの
この漫画の見ものは、純に恋してしまった望だ。あの狂いっぷりが最高…いや、実際本当に存在したら怖すぎるし、純になりたいとは思わないのだけれど…愛に狂う強烈なキャラクターって、絶対金持ち漫画には必須の要素だ。
蒼一郎も望も、同じ御曹司という立場にありながら、蒼一郎は妾の子。望もどこかで彼の事を見下しているところがあったのかなって思う。お金も家もなんだってあるけれど、欲しいと思ったモノは手に入らない。望だって悲しい奴だったが、あいつは不幸を知らなさ過ぎて、残念な人間だった。柔らかな笑顔の下で、いつも欲しいもの探してて、見つけたら執着して…終盤の斧でホテルのドア順番に壊しまくる望は、もはや人間じゃねー…と思わせるほど、怖かった。その分、読者ももはや楽しくなってしまったことだろう。「こいつどこまでやるんだ…?」ってワクワク感が感じられてしまったのも否定できない。
望は純がほしすぎて、根回しして蒼一郎を貶めるんだけど、蒼一郎も純ももはやお互いを手放す気はなかったから、外からどんだけ圧力かけても仲を引き裂けない。どうにか地上げをやめてやるって条件で純を手に入れたけど、純の心は全然手に入らないし…どこまでいっても純は望のものにはならなかった。これもまた、タイミングの問題でもあるんだけどね。あの救ってあげた第1話の段階で関係性が進展していたら…望は全部を捨ててでも純と一緒に生きる道を選んだかもしれない。まぁ、蒼一郎が逆に純を手に入れようとあれこれ画策したところで、純に惚れて手を引いてしまうのがオチだろう。やっぱり望だったからこそ、これほどまでに粘着質で、怖くて、若干ワクワクさせる展開になったんだと思う。
ラストの純の秘密にびっくり
全然予想していないポイントだった…望と写真に写る子どもがどこかで登場するのだろうとは思っていたが…びっくり。純だったのね。2人は兄妹だったっていうオチ。それなら結婚はできないよねって納得する形でおひらきとなった。
ずっとバラの香りは嫌いなんだ言ってきたけど、むしろ花の香りが望さんを連想させて恋心が揺れるからだと思ってたんだよね。なのに、もっと昔の、出生に関わる部分でキーワードになっていたとは。個人的にはけっこう驚いた。
純と望の関係は、別にこんな幕引きじゃなくても、望がおかしくなるか死ぬかするエンドもあっただろうし、和解するエンドもあっただろうし、蒼一郎と純で海外へ行くエンドも普通にアリだったと思う。だから、兄と妹だから絶対無理、という結論で結ぶとは思わなかったんだよね。
最終的に、望は純が妹であろうと関係なく、結婚しようとしたわけで、十分イカレ野郎だったわけだけど、かわいそうではある。ずっと窮屈に生きてきた彼が、見つけた唯一の自由が純だったと思うからね。ただ、そんな悩みは純にとっては全然つらくないこと。蒼一郎の子どものころの話・親がいないからこそ素直になれないことのほうが、ずっと純の心を締め付ける。出会いが最悪でも、なんだかんだベストカップルだったんだよなー。
美しく気高き女性に惚れた男二人
結果、成長した純はもうすげー美人で。しかも血筋的にも申し分なかったわけよ。レディとしての知識とふるまいも身につけたし、結果的に純の恋物語は、シンデレラストーリーだった。
ドロドロしてはいたけど、庶民が実はお姫様だったということで、ハッピーエンドを飾った。一番好きなのは、純が将棋一つで蒼一郎を導いたこと。誰にでも才能ってあるんだよなーって思ったし、どんな方法が成功につながるかわからないって気持ちにさせてくれた。そういう意味でも、女の人を応援する漫画になっていると思う。
望と同じように愛に狂った美卯さんが非常に心配ではある。お金はあるから、立ち直ってくれることを願うばかり。箱入りだからといって、こんなに愛に幻想を抱く人ばかりじゃないと思うし、若干貧乏人のひがみも入ってる気がする…。純粋な主人公を立てた場合、どうしても対照的などす黒い存在がないと、ストーリーの盛り上がりをつくるのが大変だろうが、ちょっとね…。
純が関わったことで、非常に多くの人間がいろいろな目にあったわけだが、ハッピーエンドでおさめてくれて、読者としては満足だ。
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