挫折からの復活と2つの愛情を描く - ぴんとこなの感想

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ぴんとこな

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挫折からの復活と2つの愛情を描く

5.05.0
画力
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目次

苦労人の主人公が2人いる

歌舞伎の世界を舞台にして、そこで繰り広げられる色恋、歌舞伎への情熱が胸を打つ、非常に人気の物語。ドラマはなんだこれ?って思ったのに、原作マンガを読んだらもう虜!びっくりするほど面白く、男たちの妖艶な瞳にノックアウトされる。

メインの主人公は恭之助(本名は河村猛)。歌舞伎界の名門である木嶋屋に生まれ、幼いころから芸を叩きこまれてきたけれど、最近はめっきり真面目に取り組まないメンタル劇弱の男である。子役のころはそれはもう努力家で、血筋の成せる業とも言うべき、御曹司としてのオーラを放っていた恭之助。すべては大好きな父に認められたかったから。なのに、どんなにがんばっても褒めてもらえなくて、どれほどがんばっても遂げられないものがあるのだと思い込んだ彼は、歌舞伎に打ち込むことを放棄していた。

そしてもう一人の主人公一弥(本名本郷弘樹)。小さなころからずっと努力家で、なんでも人一倍努力して、自分が何か一つでも劣っているのが嫌だという性格。そんな彼があやめと出会い、歌舞伎を知り、あやめに喜んでもらいたい想いで歌舞伎をずっと続けてきた人間。何の血筋も持たない自分でも、歌舞伎界で実力でのし上がりたいと考えていた。

そんな2人があやめを通して知り合うことで、この化学変化がすごい。共通しているのは、2人とも歌舞伎が大好きなんだってこと。恭之助にとっては、それが生まれたころから期待されたものであり、相当なプレッシャーになっていたことだろう。だけど、それはもう体にも意識にも染みついていて、手放すなんてできないもの。真面目になった恭之助に、怖いものなんてない。そのきっかけをくれたのが一弥だ。一弥にとっても、初めて見に行った歌舞伎で子役ながらオーラを放っていた恭之助を見て、嫉妬したのが始まり。でもそれは嫉妬というよりも、憧れや感動、期待、追いつきたいという気持ちだったということに気づかされていく。あやめを失ったとしても、歌舞伎だけは手放したくないと決めた一弥には、本当に胸が打たれっぱなしだ。

人間に恋して才能に恋する

恭之助は、あやめに出会い、歌舞伎への情熱を取り戻した。でも歌舞伎を続けていくうえでの相棒は一弥だけ。一弥と演技する時に一番昂るし、楽しいと感じていた。ここは非常に納得できる。爽やかさがあるよね。

逆に、一弥の恭之助への愛情がハンパなくて、読者の皆さんが口をそろえて言っているが、「一弥は恭之助に恋してた」という意見に自分も反対はない。恭之助を引き上げてくれたのは間違いなく一弥で、それでもまだ一弥は恭之助に追いついた気がしない。いつの間にか、あやめを抜きにしても、一緒に舞台に立ちたい・恭之助が辛いときに支えたいと思うようになっていく一弥がもうね…恋する顔なのだ。恭之助がいい演技をすると心が揺さぶられ、どうしようもなく感動してしまう。それが血筋だからなのか?オーラなのか?人間として?…恭之助は、「一弥が必要だ」と言ってくれる唯一の人だったんだと思うよ。何の家柄もない、自分の努力だけでのし上がろうとしてダメで、気持ちもないのに澤村家に婿入りしようとして失敗して、何もかも失って自殺を図った…そんな失意の状況でも、恭之助はお前じゃなきゃダメなんだと言ってくれる。こんな感動的なことってない。そりゃーもう恋だわ。

さらには、優奈が身ごもってしまった門閥外の役者梢六との子どもに関してもそう。梢六が河村樹藤の落とし胤であることがわかって、それなら優奈の子どもは大好きな恭之助と同じ木嶋屋の血筋ということに。思いっきりしごいて、思いっきり愛して、歌舞伎役者として育てるのだろうと思うと、完全に一弥は女だわ。

クソお嬢様

優奈がもうクソとしか言えない。一弥が好きだから、カラダもあげるし、婿としてのポジションもあげる。だからどうかそばにいてほしい…。それくらいだったらかわいいなーって思うのだが、とにかく一弥を振り向かせようと行動する方法がものすごくえげつない。具合が悪ければ必ず一弥は来てくれるから、仮病を使いまくり。一弥を舞台に出させたいから親に頭下げて自分のポジション使いまくって勝ち取る。それでも一弥は自分を見てくれない…とかなんとか。そりゃー無理だって。下心マックスの女に一弥は無理だって。

あやめとの関係が終わっても、歌舞伎と一弥の関係が終わるわけじゃない。一弥は恭之助に恋しちゃってるからね。より一層、一弥は遠い人に。そして寂しくなっちゃって梢六と体の関係を持ち、妊娠…どこまでいっても最低な女。それを一弥が自分の子どもとして育てると言ったことをいいことに、そうしちゃおうとするこの女、まじでいっぺん消えたほうがいい。

一弥が好きなら、歌舞伎のことを知ろうともっと努力するべきで、いつまでも被害者面でいなければいいのにさ。そしたらこの子だってがんばってる!って言ってあげることもできたのに。全然みじんも勉強しない・興味があるのは一弥だけみたいなお嬢様に、梨園の妻なんぞ務まるか!と腹立たしい気持ちにさせられた。あやめはお嬢様だったことなんて捨てて、バイトで一生懸命お金稼いで生きているし、歌舞伎への愛情だって忘れてない。何の努力もせずに、努力家の一弥をゲットしようなんていう腹が本当にいらついて…救いようがなかったよ。でも、あんたの子どもは一弥が大切に育ててくれるよ!だって恭之助と同じ血が流れているんだからね!!

父と子

終盤は、なぜ恭之助の父・世左衛門は恭之助に厳しかったのか、という謎に迫った。まぁ、お父さんも苦労したんだよ。早くに父を亡くして、自分一人で木嶋屋を背負い、芸を磨かなくてはならなかったプレッシャー。そんな自分の子である恭之助を、早く一人前に育て上げたいという焦り。父は子を、最高の歌舞伎役者にしたいからこそ、褒めることができなかったんだよね。でもそれが、子どもを苦しめることになった。愛がないと思われてしまった。そこで歩み寄ることもできず、自分のことにも、息子のことにも、身動き取れない状況が続いたこと、本当に心苦しい。

病気になって、恭之助の最高の演技を見てから天国へ旅立ったことは、せめてもの、安らぎだったかな。結局恭之助にも自分と同じような運命を背負わせてしまうことになったけれど、恭之助にはたくさんの支えてくれる人がいるから、きっと大丈夫だと思うんだ。世左衛門さんの奥さんだって、あやめだって、一弥だって。みんなが恭之助を最高の役者にしてくれるし、自分自身で努力することも、決して忘れないと思うよ!

2世であることの連鎖

2世タレントって、すっごい騒がれるよね。そして親と比べられる。それが好転する場合もあれば、悪い影響を及ぼすことだってきっとあるだろう。最近では悪い影響のほうが多いのかもしれないけど…

歌舞伎の世界では、そのへんがきっちりしているよね。子どもたちを間違いなく歌舞伎役者として育て上げている気がする。あんまり詳しくないから、誰がうまいとか下手とか、才能がどうとかわからないのだけれど、きちんとその道を歩み、色恋を芸の肥やしにして、歌舞伎役者であることから離れず生きている気がする。流行ったタレントの2世とかじゃなく、脈々と2世を生み出し続けて、歴史をつむいできた伝統芸能の厚みって、すごいね。伝え続けるって、いかに難しいことなんだろうとしみじみ考えてしまった。

漫画の中では歌舞伎のこともすごく詳しいし、勉強になる。こんなふうにドラマを重ねて舞台が作られているんだろうかと思うと、歌舞伎座に足を運びたくなってしまう、絶妙な作品である。

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