クローンを生み出す価値と倫理を問う - 放課後のカリスマの感想

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放課後のカリスマ

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画力
4.50
ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
3.75
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クローンを生み出す価値と倫理を問う

4.04.0
画力
4.0
ストーリー
3.5
キャラクター
4.0
設定
4.5
演出
3.0

目次

同じ遺伝子を持てば同じ道を歩むのか

この漫画は、けっこうエグイところを描いているよね。時代の違う人たちの遺伝子をどうやって集めたのかが謎だけど…子孫たちから拝借したDNAからどうにかして抽出できるとかなのかな。神矢先生の技術に関しては漫画の中ではあまり触れられてなくて、主にすでに生まれたクローンたちの生きる道について描いた物語だ。

偉人たちとまったく同じ遺伝子を持つクローンをつくる。見た目もそっくりで、自分たちが偉人たちのクローンであることもこの学園の中で自覚させる。そして、クローンとして偉人達が成しえたことの続きを作り上げてほしいと作った人間たちから頼まれるのである。というか、子どものころからそうなるべきとして育てられるので、疑問を持つことはほとんどなく、卒業までを過ごす…このエグさがすごい。はじめから道を決められて生まれてくる命。自然に生まれたわけではない命なら、こんな簡単に扱っていいのだろうか…自分たちは確かに、ブタとか牛とか鶏とかの肉を食べるし、たくさん食べたいから食べるために命をつくる。そうやって雑食文化が育ってきたからこそ、人間は長く生きれるようになったことも確かだ。でもそれを同じ種類の人間でやるってことが…非常に悩ませてくれる問題だ。優れた人間を何度でも蘇らせて、そいつらにもっともっと文明を発展させてもらおうとするのって、オリジナルでは決して優れた人間は生まれないってこと?優れた人間からは必ず優れた人間が生まれるってこと?努力しなくなる人間に、価値はないと思うんだけどね…。

また、文明を発展させてもらおうってならまだ気持ちがわからなくもないとして、その命をお金で買ったり売ったりするうえ、何らかの意にそぐわない部分が出てきたら殺してもいいなんていう…そこは否定してあげなきゃ、人間はもう人間ではない気がしてくる。それなら障害を持って生まれた子供は殺してもいいですってことなの?

クローンの因果を断ち切ろうとする

卒業していった同じ遺伝子を持つクローンたち。彼らだって同じ教育を受け、その力を発揮することを望まれて卒業したし、自分たちだって多少の生きにくさを感じつつも、望まれることの喜びを胸に抱いていた。それが、就職先という名の欲にまみれたお金持ちのもとで飾りになり、志とは程遠い働きをさせられ、偉人達の素晴らしい能力ばかり期待され、それ以外の個性を何一つ見てもらえない…これ、オリジナルの人間たちでやったら絶対だめでしょ。同じ人であるにもかかわらず、自然に生まれた者ではないクローンを、物として扱うこの所業。怖すぎる。

すでにネズミ、ブタ、牛、鶏、その他いろいろな昆虫たちも含めて殺したり生まれさせたりしているわけだけれど、それが人に当てはめた瞬間に一気に恐ろしい事として認識するっていうのは、それもまた悪い気もして、この物語は非常に複雑な気持ちにさせてくれるね。とりあえず、この学園はぶっ壊れるべきだなとは思う。勝手に誕生させ、使うだけ使って、うまくいかなきゃ次の同じクローンを買うという因果…これは確かに断ち切られるべきなんだ。

でもさ、その殺すのを、同じ遺伝子を持ち見た目もまったく同じクローンがやるっていうこのせつなさ。結局は、自分たちが助かりたいからやっている。金持ちたちも、先に生まれるのが早かっただけのクローン達でさえも、やっぱり一人一人の個体に意思があるし、誰もが人のために生きることに喜びを見出せるほど、神様みたいな存在じゃない。それでいて、物でもない。

シロウが真実を知り問うもの

この因果を断ち切るために、どうするべきなのか?シロウは、つかの間だったけれど、すべてと関わりを絶って穏やかな日々を過ごす。クローンでさえなければ、それに関わるオリジナルだけの人間であれば、幸せ…?オリジナルだろうと、クローンだろうと、何を選び、どう生きていくかはその時代がどういう時代なのかってことが大事。そこからさらなる飛躍を期待されても、無理な話だろうと個人的には思う。火刑に処されたジャンヌなんて、もはや戦争が限りなく少なくなっているし、魔女として殺されただけで、魔女だったわけじゃない。なのに英雄とか、英雄として活躍できるであろう素質を見込まれてもお門違いだろう。ナポレオンだって、一休だって、その時代で先駆けただけで、それ以降への適応なんて絶対ないのにさ…これこそ、有名な人の二世だから金払ってやってんだぜ、っていう思考にすごく近いよね。

学園の存在意義、そして自分自身の存在についての真実を知ったシロウ。すべてを知った上で学園へ戻り、クローンたちを守ろうとする。彼にとっては、彼らは確かに友だちで、かけがえのない存在だ。同じ顔で、同じ遺伝子でも、先に生まれた人間や後に生まれた人間は、同じ人間とは言えないと判断した。それが彼なりの答え。同調する人間は多いだろうが、反対意見がないとは限らない。終盤展開が非常にわかりにくくなってしまったのは、どこまでいっても答えが明確にならないことへの戸惑い、悩みがあったんじゃないかなーと思っている。

ヒトラーの皮肉

ヒトラーに関しては、本当に皮肉たっぷり…たとえ独裁者でも、彼が子どもだったときがあるわけで、子どもの時から独裁者的な思考を持っていたのかどうかと考えると、決してそうではないだろう。

ヒトラーは、まさしく悪行を成してしまった男のクローンであり、小さなころからまともには扱ってもらえなかった。きっと本物のヒトラーにも、そういうところがあったんじゃないのかな。そんな彼が、唯一心を許したのがシロウ。友だちだと思っていたし、シロウだって彼を大事にしていたことに変わりはない。そして、信仰によって罪から救われると信じたことも、小さなころから受けてきた差別のあつかいから考えたら、至極悪い事じゃないって思えてくる。

それが崩れた時の反動。信じたものがダメだったときに残酷に変化する気持ち…決して他人事なんかじゃない。ヒトラーだってもしかしたら、やりたくてアウシュヴィッツ収容所の大虐殺をやったわけじゃないかもしれない。改めて、歴史的事実に対しての受け止め方、その人間自身に思いをはせることっていうのは、うわべだけで人を判断しないことにつながっている大事なことだと思うね。こういうふうに漫画を通して考えさせてくれるのって、なかなかないと思う。

尻切れトンボ

とても残念なのは、どうにも終わり方が腑に落ちないこと。何が幸せか。彼らの生きていく道に光はあるか。答えが簡単には出せないことはわかるけど、どうにも…何の解決策も得られなかったなーって思う。え?これで終わり?みたいな終わり方じゃなくて、もっとこう…お互いに歩み寄る部分が欲しい。そして、クローン同士のたたかいにフォーカスがいって、結局はオリジナルの金持ちたちには何ら鉄槌が下されない。せめて偽善でも、命を守る何かが明確になってほしかった。クローン保護法とかじゃなくて、彼らの生きる道が確かなものになってほしかったなーと思って残念である。

この漫画は、クローンについて非常に深く考えさせてくれるし、偉人達にだって子どもだったときがあって、悩んだときがあるんだよなーっていうことも教えてくれる。クローンだろうとそうでなかろうと、せっかく生まれた命、どう生きるかは自由にさせてあげたいもの。もしかしたら、未来にはクローンとか人工授精以外に人が生まれる方法がなくなっちゃう未来もあるかもしれないよね。もっと機械的で、数字的なものを、受け入れなくてはならないじゃん?今正しいことが、未来では正しくないかもしれない。人生の儚さすら感じさせる物語だ。

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4.54.5
  • はたたはたた
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