漫画だけの絵空事の世界じゃないと、そう思える説得力がある。 - 生徒諸君!の感想

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生徒諸君!

4.254.25
画力
4.00
ストーリー
4.75
キャラクター
4.50
設定
4.75
演出
4.25
感想数
2
読んだ人
3

漫画だけの絵空事の世界じゃないと、そう思える説得力がある。

5.05.0
画力
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
5.0

目次

スクールカースト

この夏、久しぶりに幼い頃に読んでいた生徒諸君を読み返したくなり、大人買いしました。改めて調べてみると、連載時期は1977-1985年で。70年代から80年代にかけてで、当時、私は小学生~中学生でした。今回読み返してみて思ったのは、「ああ、この時代から、今言われるスクールカーストってあったよな・・・。」という事。体育会系でルックスが良い、目立つ子達のいるグループとそうでないグループというのは何時の時代にもあり、スクールカーストという名前は無かったけれど、今とそう生徒のヒエラルキーというか、縮図はそう変わらなかったと思う。

そこでこの「生徒諸君」です。この生徒諸君の面白いところは、この「悪たれ団」を構成している6人がそのスクールカーストの色んな段階から混じってるところ。今、読み返すと、非常に興味深いです。当時読んでた時よりも、この悪たれ団の5人は実にそれぞれのキャラクターとかクラスでの立ち位置が絶対仲良しグループにはならないタイプの生徒が集まっていることが如実に分かります。

勿論、主人公のナッキーは、自分たちはただの仲良しグループでは無いと作中公言していますが、それでも普通だったら、絶対あり得ないと思います。でも、その中で他のメンバーに対してコンプレックスを抱えている子がいたり、決してベタベタした関係ではないところにリアリティを設けてると思います。で、この物語のさらに面白いところは、悪たれ団以外の生徒がその存在を許容し、一目置くけれども、それ以外の生徒もまた、それぞれに悪たれ団である事。悪たれ団も必要以上に自分たちを特別だと誇示せず、周りと強調している部分。これに関しては、悪たれ団に特別意識を知らず知らず持っていたメンバーがそれを反省する部分があります。

こんな世界は漫画だけ

これは理想だ。と思う人も多いと思います。でも、今回読み返してみて、実によくできた漫画だな・・・と思いました。私が学生の頃はスクールカーストという名前は無かったものの、それなりにしんどい中学・高校生活を送りましたから、現実は分かっているつもりでも、この漫画にはその現実に対して凄く説得力がある。随分昔の漫画だけれど、あまり古臭いと感じないのは、今も昔も実は学校生活にそう変わりは無いからだろうと思います。学校生活って今考えると凄く閉鎖された世界ですよね、昔も、多分も今もそうだろうと思います。漫画だけ・・・と思う理想の部分は、こんな学生生活を送れたらどんなに楽しかっただろう?と思う部分で、けれど、そういう学生生活を送った人も無きにしろあらずだとも思います。

イジメ

残念ながら、この漫画ではイジメは取り上げてないんですが、この後の教師編ではそういった事も取り上げられているでしょうから、読んでみたい気がします。(続編があった事を最近知りました!)昔とネット社会の今とではいじめ方が違うけど、イジメは今も昔も存在しますしね。イジメを題材にした部分があったなら、主人公のナッキーがイジメをどう対処して解決したのだろうか?ととても興味深い。教師編でもし、そういう題材があったなら、やはり納得いく解決を見せてくれそうな気がします。

ただ、私には18歳の息子がいて、イギリスに住んでいますが、息子の学校では一度も日本であるようなイジメはありませんでした。イギリスでもイジメはあるんでしょうし、実際、イジメにあって学校に行かせてないという子どもの親と子供に会った事もあります。(こちらでは、義務教育なのに、「もう学校に行かせない」で済むのかな・・・と疑問に思いましたが。)だから、現実的にイジメの無い学校生活はあるのだから、不可能では無いんでしょうね。

だから、これも漫画だけの世界じゃないかもしれません。

今の教師と昔の教師と親との関係

これは今の学校生活において、昔と決定的に一つ違うところかもしれません。漫画だけの世界と思われるのはその部分だけかも。何かというと、ハラスメントで、モンスターペアレンツが一杯いて、教師は何もできないような気がします。ま、それほど信頼できる教師が今はいないんだと言われればそれまでですが・・・。昔は親がもっと先生を信頼して任せていた部分があったと思う。だから、この漫画は当時はあり得た。今はその部分はどうかな・・・と思う。昔は良い先生が多かったと思うけど、でも今だって、信頼に値する良い先生は沢山いるかもしれません。悪い部分だけが浮き彫りにされてるだけで、良い部分を消し去ってしまってるだけかもしれません。

とてもヘビーな題材が一杯

この漫画は超重量級にヘビーな題材が入っています。悪たれ団の一人が暴行されたり、山で遭難死したり、その他、幾多の困難がそのかしこにあって、それを登場人物がそれぞれ乗り越えていくんですが、庄司陽子さんという漫画家さんはこれだけのお話をよく、これだけの画力と筆力でまとめあげたな・・・と思います。凄いです。当時も夢中で読んでましたが、大人になった今も最後まで寝る間も惜しんで読んでしまいました。全編凄く勢いがあり、それが何十年経った今も全く衰えていないのですから。

時代背景

あと、今回読み返して思ったのが、その時代背景。たった一つ、凄く時代を感じる言葉がありました。それは主人公のナッキーが教師になりたいと高校の担任教師に告げた時。ナッキーは「先生は教師になりたかったですか?」と聞き、それに対してその担任教師は、戦争の時代背景の中で教師になった為、夢は希望は無かった。今日は白でも明日は黒になる時代だったとナッキーに話します。

それを読んだ瞬間、ああ、戦争は遠くなったんだな・・・と。私自身、戦後20年後の生まれですから、戦争を全く知らない時代ですが、それでも、実家の商店街にはまだ傷痍軍人さんたちが路上に座って物乞いをしていた時代なんです。なので、まだ戦争の爪痕がかすかに残っていて、それを感じられる時代でした。当時は違和感なく読んでいたけれど、今読むとその部分が凄く引っかかりました。今も世界の各地のあちこちで戦争が起こっているにも関わらず、自国が戦争をしていたというのは遠く昔のように感じていたんだな・・・と。

それは登場人物、山で遭難死してしまう沖田成利くんの外伝(文庫版には最終巻に含まれています。も戦争時代の事が色濃く感じる内容で、沖田君の両親が二人とも戦争孤児であったという背景が描かれていました。実際、亡くなった私の父も戦争を知る時代の人だった訳ですが、読んでて物凄く日本がまだ貧しかった時代を昔に感じました。、今は若者に希望が無い格差社会と言われていますけれども・・・。

面白かったのは、作中、教師になっても職にあぶれるといったセリフがあり、そうなの!?と。あの頃って就職難だったのかなと驚きました。それから間もなくバブル期がやってきて、あっという間にはじけるのですが・・・。

高校生だけど、随分大人に描かれている

最後に、主人公を始め、生徒たちみんな凄く随分しっかりと大人に描かれていると、今読んで思いました。勿論、子どもっぽい事もしてるけれど、芯の部分が、脆いところも勿論あれど、軸がしっかりしてるというか・・・。当時はこれを読んでて、そうは思わなかったから、当時の高校生はもっと大人だったのかな・・・と思ったりしました。(自分自身は高校生じゃなかったので分かりません。)

時代背景は感じても、古臭いと感じないのは、良い音楽も良いものは昔の音楽でも古臭いと感じないのと同じ。この漫画が名作であり、秀作であるという事だと思います。

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3.53.5
  • コリアン青春コリアン青春
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