いじめと向き合うのに大事なのは素直な心と知る - 学園王子の感想

だんだんわかってくるうまさ

沖津リセは地味だが文武両道で生きている女の子。彼女なりの目立ってはいけない理由があり，彼女はずっと人と関わることを恐れて生きていた。そこにいきなり転校してきた男子・水谷梓。お互いにこのジョシ高のルールを知らなかったが，水谷があまりにもイケメンであったことが影響して，２人の日常はどんどん狂い始める。

物語の舞台がまず女子が最強の学校。女子率の高い学校では男子の立場が弱くなるものだが，そういうたぐいの花園に君臨できる男はやはりフェイスとボディのイケている男なんだろうね。作者はもはやお嬢様ってものに恨みがあるんじゃないかなーというくらい，お金と権力を持て余す女たちが怖すぎた。一人の男を洗礼だと言って袋たたきならぬ袋剥きをするお嬢様。そして，そんないじめまがいの行為をどうしても見て見ぬふりできないリセ…自分がいじめにあっていたからこそ，助けたいと願う彼女の行動は，全然あざとくなんかない。彼女のやさしさ，正義感は，決して恩を売りたいから生まれるものじゃない。だけど，やっぱり女の花園では，１人だけちやほやされることは許されない。日々，強烈すぎるいじめにあう中で，それでも水谷を守るために行動に出るリセは，本当に強くて，いい子なんだよね。

最初に読み始めた時は，リセの変顔とか，ジョシ高の異常な性的いじめ，リセのハーレム状態がなんか鼻に付いたし，あまりにも現実離れしているように感じられた。しかし，徐々に良さがわかってくるよね。少し誇張しているだけで，これってどこにでもあるなーと気づくし，水谷が気遣いを覚えたがゆえにリセとすれ違っていく切なさもまた絶妙だ。誰よりも人を大事に想うリセ，小野寺郁，宗近などなど，やさしさ溢れる人たちには癒される。そして，変顔のインパクトが強すぎて忘れそうだが，やっぱり絵は相当うまい。フェロモンにやられる。

愛を知らないからこそ傷つけてしまう

水谷のキャラクターは本当に難しいところ。極上のイケメンでありながら，頭が本当に悪い。そのうえ家族環境が影響して性格にも難があり，自分の体を使って毎日の食事を手に入れているあたり，本当にゲスい。でもそれが悪いことだとか，付き合う人間を傷つけることだとまったく気づいていないところがものすごく終わっている人間で，さすがにこれはリセと赤丸がキレてもしょうがないというか…父親の影響が強いんだろうけど，あのままだったら絶対リセとは付き合えなかったよね。

いつもリセに助けられてばかりで，そのくせ自分はリセを傷つけてばかりだった。だから，今度は俺が，こんな学校変えてやる。そう誓って生徒会に入ってからの水谷はもうただのイケメン・そしていい人。リセを失って…というか，赤丸とデキてると思い込んでわざと嫌われることを選んだ水谷のグレ具合はけっこう好きだったんだけどね。イケメンで，気が強くて，冷たい目をする男。どうしようもないやつなのに，やっぱり周りがほっとかない。そういうやつっているよね。助けてあげたくなるような，オーラが出ちゃっているんだろう。水谷は，バカだけど人を傷つけたりなんかしない。むしろ助けてくれる人間。助けてもらった分，君を助けてあげたいと思ってくれる人がいるんだよ。

リセも，水谷を救うことが，自分を救うことにもつながっていたと思うんだよね。あの時自分にはいなかった，助けてくれる人の存在。私が救いたいと願うなんて…最強にいい子じゃないか！

赤丸臣の偉大さ

しかし，赤丸臣のリセへの想いも相当切なくて，もはや結ばれてしまえばいいと思ったよ。自分がいじめられているときに，救ってくれた人。逆にリセがいじめられるようになって，一緒に逃げようとしてできなかった幼き日。後悔した分，幸せにしたいと思う赤丸がマジで気が狂いそうなほどイケメンで，優しくて，不器用だからこそリセに問い詰めたりできなくて。…愛しすぎる。

いつもリセがつらい時，助けてくれるのが赤丸くんだね。でも迷ったとき，光を示してくれるのは水谷なんだ。赤丸はどんな時も優しく守ってくれるけれど，動き出す勇気をくれるのはいつも水谷だね。どちらも大切な存在。だから，最終回で，生徒会に水谷，リセ，赤丸がみんないてくれて，今でも若干取り合ってるっぽい描写になってくれたことはちょっと嬉しかった。赤丸は確かにリセが好きで，どうしようもなく大好きで，誰よりも幸せを願っていた。リセが自分を選ばなくても，目の届くところで幸せでいてくれることを願う。…こんなに心強いことってない。水谷がバカやりそうなときは，これからも赤丸がちょうどよく手を出してくれて，仲直りができるんじゃないかな。赤丸は水谷のことなんて大嫌いだけれど，リセを幸せにしてくれる人を無下にすることはない気がする。

若干肩幅大きめなのが嫌だったけれど，あの儚げな瞳と空気感は抜群のフェロモン。どうせなら宗近とだったら…いいと思う。宗近なら，全部をわかって君を大事にしてくれると思うんだ…！

みんなが母親を求めて

この物語の中で，水谷も，赤丸も，王子も，さらには水谷の父親も。“母親”というものを求めていたと思う。みんな一度はリセにビンタとお説教をくらっているし，そのたび改心させられていた。リセは過去のトラウマから，極限まで手出しすまいとするのだけれど，いつも我慢できなくなって大爆発。やりすぎると超絶な変顔…そこもまた楽しい要素だ。

母親を失っていた水谷や王子にとってはそれこそかけがえのない存在だろうし，赤丸にとっては最低だった母親とは違うぬくもりをくれる人物，そして，水谷の父親もそういう気の強い女を妻に選んでいたようだった。強い女だと思っていたからこそ，かまってやることを忘れてしまったのかもしれないね。もしくは，母親のほうが，旦那のことを想ってわざと言わずに過ごした可能性だってある。幼い水谷梓には，分からない事実だって眠っていたかもしれない。まぁそれが表に出てきたことはないんだけれど，きっと，そうなんだと信じたい。

優しくて，かわいくて，包んでくれるだけの女じゃ満足できない。引っ張り上げて照らしてくれる人を選びたい。柚月純さんの作品って，女がすごく強いと思うんだよね。大事なところで，決断してくれるのはいつもヒロインの方。それが清々しいし，“母親”の像に結びつきやすい。

ラストは微妙

あれだけエロエロな展開をたくさん用意しておきながら，肝心の水谷梓とリセのラブラブシーンが全然ない…！これに関しては不満しかない。何のために赤丸は最後までいくことを我慢したんだよ！これだけふりをデカくしておいて，リセと水谷が協力して学校をよりよく改革していく方向にもっていって終わりなんて…学校内はそれでいいけど，プライベートは甘々だろう？それが見たくて12巻まで読み切ったのに…そこのところ，マジで納得できない。大事な女ほど手が出せないって？もう結婚するまでやらない気なのか！つまらなすぎるよ！

ジョシ高におけるいじめをなくすことが，リセのトラウマを無くすことであるのはよくわかるし，それができて初めて，みんながハッピーエンドにはなるよね。だから必要な展開なのは間違いない。とはいえ，主人公の肝心な愛の行為が見られずに終わってしまうなんて，期待が大きかっただけに辛すぎだった。いったいこの昂った気持ち，どうしたらいいの？キスマークの1つもつけてくれ。