二つの世界に愛された少年
多彩なキャラクター
『ワタル』の最大の魅力はその多彩なキャラクター達ではないでしょうか。主人公の戦部ワタルはかなり現実的な男の子だったと私は思います。普通だったら異世界に飛ばされ、救世主と呼ばれれば正義感に燃え、敵までまっしぐらというのがいままでの主人公ですが、ワタルは弱音を吐くし、時にはズルもする。そんなワタルだからこの作品はおもしろくなったんだと思います。それとワタルには仲間が増えていきます。底抜けに明るいくの一のヒミコ。顔の大きさだけは誰にも負けないシバラク先生。最初は敵だったクラマ。彼らがいたからこそこの作品は長く愛されているんだと思います。
本当の友情
ワタルには最大のライバルがいました。ドアクダーの子である虎王です。ヒミコを嫁にすると宣言したり、部下のドンゴロを困らせたりとまさに『オレ様』なキャラクターでしたが、本当の姿は孤独を抱えた少年で、初めて出来た友達に喜ぶ姿は微笑ましくて、きっとワタルの仲間になってくれると思っていました。まさか、父親であるドアクダーに立ち向かい倒れるなんて想像も出来ませんでした。弱々しく微笑みながら、ワタルとの友情を確認する虎王に涙が止まりませんでした。
ドアクダーを倒して平和を取り戻した創界山で、虎王は本来の姿である翔龍子に戻った虎王に、もうワタルとの記憶はありませんでした。自分の事を忘れられたワタルは本当はきっと哀しかったと思います。でも虎王の真の幸せを願うワタルがグッとこらえる姿に、本当の友情とはこういう事なのかとも思いました。どんな関係であれ相手の幸せを願うという事は、自分の気持ちを押し付けるのではないんだとワタルは教えてくれたのです。例え翔龍子に虎王の記憶はなくても、ワタルは虎王を忘れたりしないし、それで良いのだと教えてくました。
二つの世界
ワタルには二つの世界が存在します。一つはワタルが暮らす現実の世界。友達や家族に囲まれて普通に過ごしていた世界。もう一つは創界山の世界。戦いを共にしてきた仲間との世界。この二つの世界に愛されたワタルは本当に幸せ者だと思います。その二つの世界の架け橋となったのがワタルの魔神である龍神丸です。この龍神丸の存在こそ他のロボットアニメとは違う所です。今までのロボットはパイロットの操縦するがまま敵を倒すというのがお決まりでした。でも『ワタル』は違います。龍神丸は時に優しく、時に厳しく接したりとその姿はまるで父親のようでした。龍神丸のおかげでワタルは二つの世界に愛される少年になれたのです。最終回でビデオレターで創界山の仲間がワタルにエールを贈る声に、ワタルはきっと愛されている事を実感したのだと思います。放映当時、時代的に子ども達は塾や習い事に忙しく、家族との会話も減った時代でした。ワタルのような冒険心を、龍神丸のような包み込むような父親の愛情を伝えたかったのだと思います。
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