友情と笑いと涙の、魔神英雄伝ワタル
目次
型破りな「おもしろカッコいい」アニメ
魔神英雄伝ワタルは、一般的なロボットアニメと比べるとかなり型破りなアニメです。
同時期に放送されていた他のアニメは「聖闘士星矢」や、「サムライトルーパー」など、シリアスなストーリーで八頭身のキャラクターなどが流行っていました。
魔神英雄伝ワタルは、明るく元気でギャグタッチで、情緒豊かな、純粋に子どもが楽しめるアニメです。
当時の流れの中では、「ワタル」は真逆で、独自の作風と言えます。
だからこそ流行の中でも、「ワタル」は異彩を放っていて、その後30年近くも人々に愛されるアニメになったのではないでしょうか。
とりわけ秀逸なのが、魔神たちのデザインです。
普通のロボットのようにシャープなフォルムではなく、子どもに親しみやすい、三頭身で丸っこいデザインです。
ですが、和風なテイストで、龍や虎や鳥などを取り入れていて、アクションシーンではとても格好よく見えます。
この特徴的なデザインは、当時流行っていたビックリマンシールを参考にしたんだとか。
基本的にストーリーはコミカルで、人は亡くならず、熱い友情やキャラクターの生き生きした掛け合いを押し出した「ワタル」は視聴者の心をとらえ、その後も何回も続編が作られました。
最近では映画の「キンプリ」の続編「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-」などにワタルのネタが登場したりするなど、いまだに根強い人気があります。
ちなみに原作者の名前の「矢立肇(やたてはじめ)」は、実在の人物ではなくサンライズの共同ペンネームです。
主に版権管理のための名前で、オリジナルアニメを作る際には、この名前を表記したそうです。
同じように東映アニメーションなどでは「東堂いづみ」という共同ペンネームを使っているといいます。
また、音楽担当の田中公平氏の、華麗で重厚なBGMも作品に華を添えています。
魔神たちの登場シーンや変形シーンにはそれぞれ専用のBGMがあり、子ども向けアニメとは思えないほどのクオリティの高さです。
今聞いても唸るほど素晴らしいBGMで、どれだけこのアニメに力が入っていたのかがわかります。
主題歌のa・chi-a・chiのOPも、聞くたびに胸が熱くなる名曲です。
他とは一線を画した、個性豊かなキャラクターたち
明るくお調子者で正義感の強いワタル、忍部一族のお頭様の無邪気なヒミコ、頼りになるシバラク先生、ワガママで負けず嫌いな魔界皇子の虎王、鳥の姿にされてしまったクラマなど、「ワタル」のキャラクターは皆見た目も性格も個性豊かです。
特に、デザインの秀逸さは、ひとえにキャラクターデザインの芦田豊雄氏の功績が大きいでしょう。
もともと、魔神英雄伝ワタルは、芦田氏がアニメ雑誌の表紙に描き下ろしたオリジナルキャラクターを見て、サンライズがスカウトしたところから企画が始まっています。
魔神英雄伝ワタルは、芦田氏がいてこそ動き出したアニメなのです。
芦田氏はアニメーターですが、演出家なども経験しており、後にアニメスタジオの「スタジオ・ライブ」を設立して代表取締役になるほどのやり手です。
スタジオ・ライブは、「ワタル」をシリーズ通してほぼ全て作画を手がけています。
今も活躍する優秀なアニメーターを多数輩出した有名スタジオです。
「美形で八頭身のキャラクターばかりではつまらない。三頭身だったり三枚目のキャラクターがあってこそ個性豊かになり、面白くなる」旨の発言をしており、その言葉通り、芦田氏の描く三頭身キャラ(特にゲストキャラなど)は人間味にあふれ、個性のオンパレードのようなキャラクターとなっています。
三頭身なのにかっこいい、秀逸な魔神デザイン
ロボットアニメとしては異色の、三頭身の丸っこいデザインの魔神たちですが、当時に発売された男児向け玩具「プラクション」シリーズは爆発的に売れました。
龍神丸、戦神丸、邪虎丸などの代表的な魔神から、毎週変わるゲストロボットや、ブリキントンなどの脇役に至るまで、皆どこか人間味があり生き生きしています。
ストーリーの中で傷つくたびに竜王丸などの新しい魔神に生まれ変わり、格好よく活躍しました。
コックピットも機械と言うよりは、龍の背に乗っていたり、和室っぽかったりと、当時で考えてもかなり斬新なデザインであると言えます。
いつか魔神に乗ってみたいと思った視聴者もたくさんいるでしょう。
当時の流行や世相をふんだんに取り入れている
まずはワタルが履いているローラースケートは、当時飛ぶ鳥を落とす勢いで流行っていた「光GENJI」が元ネタですね。
第一話で、オババが救世主のワタルを召還する時に叩いている三連の太鼓も、志村けんがバラエティ番組でよく使っていたものが元ネタです。
創界山の階層を一層ずつクリアして行ったり、不思議なアイテムが行く先々で手に入るのも、流行っていたRPGゲームの要素を豊富に取り入れていたりします。
ちなみに、創界山がある世界は「神部界」と言い、暮らす人々は、全員が神様であるという裏設定があります。
ヒミコも、オジジもオババも、クラマも実は全員神様なのです。
トモダチの大切さ、人として大切なことを教えてくれる
ワタルの回りにいるたくさんの魅力的なキャラクターとの、友情や絆のドラマも、見ていて心を打たれるポイントですね。
ヒロインのヒミコとのドタバタ漫才、シバラク先生との熱くコミカルな師弟関係、ライバルで親友の虎王との友情。
ワタルに出てくる重要キャラクターの中の、特にキーパーソンと言えば虎王です。
ワタルに対する「オレ様とワタルは友達だ!」というセリフや、ヒミコに対する「オレ様のヨメになれ!」など、奔放な名セリフが印象的です。
「ワタル」の演出や脚本を手がけたプロデューサー、井内 秀治氏は虎王がいたく気に入っていたようです。
その後の外伝の「虎王伝説」シリーズで、小説やドラマCDなどを何本も制作しています。
ライバルであり親友の、ワタルとの因縁が存分に語られていました。
元の姿の翔龍子になるとワタルとの冒険を忘れてしまいますが、大事な時に虎王としての記憶を思い出すシーンは、胸が熱くなりますね。
魔神英雄伝ワタルは、笑って泣いて、人として大切なものを思い出させてくれる、名作中の名作と言えるでしょう。
これからもずっと未来に語り継いで行きたい、子どもにも見せたい名作アニメです。
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