女の騎士が若干強すぎる
定められた運命を変えてやる
この漫画は、「GAME~スーツの隙間~」を絶賛連載中の西形まいさんが描いた作品。GAMEではがっつり大人のエロを描いているわけだが、こちらは硬派すぎるくらいに清い漫画だ。セイがまさにGAMEの中のヒロインと見た目がそっくりで、全然対照的なキャラクターなのがちょっと違和感あるけれど、美しい女性のイメージってやっぱり髪の毛ロング・少し切れ長の目・微笑が素敵っていうあたりだから、自然と方向性が似るんだと思う。
とんでもないお金持ちしか通うことのできないお嬢様学校で繰り広げられる骨肉の争い。世界を牛耳るほどの財力を持つという大鳥家において、次期当主とされているセイ。そしてセイを守る役目を持つファーストナイトのラン。2人は常に次期当主・そのナイトとしてふさわしいかを試され、監視されている存在。常に成績のトップを走り、容姿端麗で、スポーツにも長け、あらゆる知識・作法を持っていなければならないという…かわいそうなくらい窮屈な生き方を強いられている2人。果たして学校生活の中でぼろを出さず、このまま当主として認められることとなるのか…?
セイもそりゃー大変だけれど、セイに巻き起こるすべての困難を取り払う役目を持つ、ランがとにかく大変。セイを平気で殺そうとする奴らがいて、そいつらから守ってやらなくてはならないし、ファーストナイトとして正式に申し込まれるデュエルにおいては、真剣を用いた勝負で勝利しなければならない。あ…危なすぎる。大鳥家自体にも仲間がいる様子はなく、セイとランのたった2人で闘っていく…当然そんなのは辛すぎるわけで、だんだんイバラ、サイキ、リン…と仲間ができ、少しずつこの制度自体への問いへと広がっていく。のし上がるよりぶっ壊す方向へと方向転換されるのだ。
強すぎるナイト
ランは…もはや男と言うほかなく、できることが多すぎて、他の男たちは全然太刀打ちできない。長身で、肩パット入れてるんじゃないの?ってくらい肩幅が広くて、デュエルは絶対勝利するし、乗馬も体育もなんでも…不得意なことが一切ない。最後の最後まで、ランはかわいげがなかったし、色気がなくて、イバラとは奇跡的にうまくいっただけだと思うわ。イバラの面白いもの好きにヒットしたって感じ。それに、あまりにも物語が硬派にまとまりすぎて、ラブラブ―とかキラキラーとか全然ない。恋でも大鳥家の試練でも自分の家族のことも。すべて真剣勝負で勝ち取ってきたラン。イケメンすぎかよ。
ランの女の子の部分はイバラによって開拓されていくのだけれど、両想いになった実感が全然ないんだよなー。大鳥家を解体することが決まり、イバラとセイの婚約もなくなり、晴れて両想いでラブラブすることになるんだけど…イバラはランを全然甘やかさないし、ランだってイバラにどこを頼っているんだかわからないし、物足りなすぎる。せっかくレイが生きていましたってことでランが女の子に戻るチャンスを得たっていうのに、なんで普通にならないの!しかも、ファーストナイトとしての毎日に加えて、番外編もきっちり語ってくれないと寂しすぎる。何のために大鳥家解体したんだって話。
短くまとめられて若干切ない
ファーストナイトに関しては、12人も候補がいるとのことで、サイキの登場タイミングを考えてみても、長い話になる予定だったんじゃないかな…実際には、お友達になれたサイキが一番微笑ましくて、後はゲスいやつと、兄のレイと…他のメンツはいったいどうした?ってなった。ラストでレイと戦わなくてはならなくなったラン。しかも、ランはレイが家を出ていってしまった本当の理由を頭から消し去っていたわけで。ランの中での兄は、そんなに美化されていたんだなーとびっくり。それを平然と何事もなかったかのように隠していたセイにもびっくり。最後までレイが出てこなくても良かったと言えばそうだが、普通にファーストナイト12人と漫然とバトルしていくよりは、波のある展開になったと思う。
しかし5巻で終了だからね…敵も味方も少ないと思う。ランはあれほど男っぽいのにモテモテで、それならラブシーンをちょいちょい入れてほしいし、セイと結ばれそうな百川とのことだって、まだまだ足りないよね。デュエルしてるか、イバラと少しメモリあってるかくらいしかなかったと思う。それに、大鳥家のことをすげー悪く表現しているのに、肝心の大鳥家の幹部的な人や、牛耳っている親玉のことには一切触れないし、いったいどこをどう解体したんだろう?というくらい大人たちは登場しない。セイとランのデュエル生活だけ描いてそのまま終わっちゃったのである。お父さんがどうとか、お母さんがどうとか、セイとランのつながりがどうとか…もう少しあってもそんなに物語はダラダラしなかったと思う。
もはや考えすぎておかしい方向へ進んだレイ
レイに関しては本当によくわからない。死んだってことになってたのが生きていた!というのは嬉しいし、実は味方だった!っていうのも嬉しいことなんだが、レイが選んだランとセイを守る方法がおかしすぎる。わざわざ自分が嫌われるようなことをして、大鳥家を出てまで、ランとセイを救いたかったと言っていたけれど、党首の座にどうでもいい当て馬かませるほうが絶対危ないと思うんだよね。それこそセイが大鳥家を追われることになると思うし、ランなんて居場所失うでしょ。
実際、セイが当主になり、大鳥家を解体すると決めた、そっちのほうがまっとうでクリーンだろう。だったらレイがそれを支えてやればよかったし、わざわざランに危険なファーストナイトの道を歩ませる必要だってなかったはず。彼は頭が良すぎて、3周くらい回っておかしいい方向に思考を巡らせてしまったんだろうか。セイを襲うという、最も気持ち悪い手段に出たレイが本当に哀れで、そしてどうでもいいやと選んだ当て馬に刺されることになって、さらに哀れ。生きて帰ってきてくれたことは素直に喜びたいところだが、実はあんたのことはどうでもよかったと告白された当て馬くんの気持ちになってみようや。そりゃー信じた相手に裏切られる気持ち、最悪だろう?大切な人を傷つけないために、どうでもいい人を傷つけた彼は、自己中であったというほかないだろうね。
誰かのために生きる潔さ
あの「机の引き出しの鍵探しましょう」の回。あれを見たら、セイはランに恋してたって思ってもしょうがないよね。セイはランに恋しちゃっていたのかもしれないし、単純に心を傷めて記憶を失ったランを、友達としてずっと守るために選んだ道だったのかもしれない。どちらでも美しいと思うし、最後までその気持ちを告げることはなくて、ただランのそばにいてくれて…結局セイだって男前だよね。
イバラだって、セイを大事に想うランのこと、最後まで見守ってきたし、余計なことには手を出さず、大事なところだけ支えてくれた。ラブだけど、ライクもあって、すっごくクリーンで。飛び出していきたい気持ちを抑えたり、ランがあまりにも恋に疎いから、身を引く覚悟も持ち合わせていたり…イバラは本当に男だわ。
ランは身体能力と覚悟が完全に男。セイのためにとイバラへの恋心を封印して、後悔もしない感じで。イバラ、ラン、セイは、誰かのために自分を犠牲にする、そういうタイプの人間だった。みんながみんな、大事な人を縛り付けることなく見守っている関係性というか。…男前だよね、本当に。「GAME~スーツの隙間~」の欲望丸出しとは全然違う、爽やかさと潔さが魅力だ。
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