「パリ、ジュテーム」は、パリのいろんな面を見せてくれる映画
目次
「パリ、ジュテーム」の映画全体の特徴
パリは花の都、と呼ばれていますが、区ごとにカラーが異なっています。
「パリ、ジュテーム」の中には20区中18区が登場。いろんな国の監督が1区ずつ担当しています。
以前、「パリ、ところどころ」という映画を見たことがあり、いろんな名所を取り上げている点がこの映画と似ている、と思いました。
しかし、「パリ、ところどころ」はフランス人の監督オンリーだったのですが、「パリ、ジュテーム」は外国人目線の作品が多く、話に広がりがある気がします。
この映画では、ジュテーム(フランス語で「わたしはあなたを愛している」の意味)とタイトルにつくように、いろんな愛の形が登場。
多民族な町であるパリのいろんな魅力が描かれています。
「パリ、ジュテーム」の中で、わたしが特に気に入った作品をピックアップしてみました。
「チュイルリー」は、外国人観光客に起こるかもしれないシチュエーションを描いたコメディ
コーエン兄弟による、地下鉄チュイルリー駅での旅行者の悲劇(?)。
本当にパリでは起こりそうなシチュエーションだなと思いました。
わたしの場合、直接こういう場面に遭遇はしなかったのですが、夜の地下鉄の改札で酔っぱらった乗客が無賃乗車しようと改札を乗り越えようとして、駅員さんに止められ、大声で叫んでる場面に遭遇しました。
わたしもこの作品の主人公と同じく1人旅だったので、ちょっとびくびくしていたところがあります。
そのため、スティーブ・ブシェミの心細い感じがよく理解できました。ちょっとオーバー・アクションな感じもしますが。
スティーブ・ブシェミの眼の大きさも、この作品の重要な要素だと思います。あの眼で見られたら、ただ普通に見ただけでも、かなりのインパクトを受けそうなので。
誘惑してる、またはガンをつけていると勘違いされやすい眼だなと思いました。
カップルについては、フランス人(特にパリの人)の機嫌の良い時と悪い時の感情の波の激しさの表現が、なんかこういう人達いそうだな、とリアルに感じました。
子どもに関しても、気の弱そうな何も言い返せないような人に、わざと嫌なことをする子もいます。
海外慣れしてからはそういうことはありませんでしたが、パリに向かう列車内の売店に並んでいた時、友人とわたしの間に子どもが割り込んできて、何食わぬ顔をしていたことがありました。
友人には「なぜ注意しないの?」とその場で言われましたが、丸く収めたかったわたしは、何も言わずにそのままにしました。
そういう言い返せない人には何をやっても許される的な考えを持っている子どもは、確かにいます。
ちなみに、パリの人でも親切でフレンドリーな人はいますし(この作品の子どものおばあさんのように礼儀正しい人も)、人によって様々、ということはパリの名誉のために書いておきたいと思います。
魅力的な場所もいっぱいあるので、わたしはリピートしてしまいました。
ラテン系の国ということもあって、自分の感情に正直で、楽しいことが好きで、熱くなりやすい人が多いかも。
主人公にとっては理不尽な出来事だらけですが、笑えてしまう作品です。
「ヴィクトワール広場」は、現実と幻想が交錯する作品です
諏訪敦彦監督が、日本人唯一の監督として参加しています。
ジュリエット・ビノシュが、子供に再び出会って別れるつらさが良く出ていました。
深い親子の愛情が描かれた作品です。
パリで馬は見たことがないのですが、石畳の町には馬が良く合います。
幻想的なストーリーが、パリの町にマッチしてました。
外国人が憧れるような、魅力的なパリの一面が表現された作品です。
それは、ウディ・アレン監督が撮った「ミッドナイト・イン・パリ」にも似た雰囲気。
レトロなパッサージュであるギャルリー・ヴィヴィエンヌもさりげなく登場しています。
この作品には、パリの上流に近い中流階級の家庭が描かれています。
上流階級は、「16区から遠く離れて」のようにお手伝いさんを頼むような階級です。
16区は日本人の駐在員が多く住んでいる地域で、高級住宅地として知られています。
日本人観光客は境界線(階級意識)をあまり持っていないため、パリのいろんな町を訪れることが多いと思いますが、フランスは階級社会なので、上流階級の人が下層階級の地区に足を踏み入れるということは全くないか、ほぼないと思います。
この映画の最後に、ジュリエット・ビノシュとジーナ・ローランズが目線をあわせて乾杯するシーンがありますが、2区と6区で過ごすような人だったら、こういう出会い方はあるのかな、と思います。
でも、ジュリエット・ビノシュと「お祭り広場」の主人公の男性が出会うようなことは、おそらく一生ないでしょう。
「お祭り広場」は、アフリカ系移民の悲劇を描いた作品
19区が舞台の作品です。19区はアフリカや中東からの移民が多い地域で、パリの中では18区から20区が特に治安が悪いと言われています。
「アメリ」で有名なモンマルトルは18区にあります。
サクレクール寺院の下ではアフリカ系のミサンガ売りが観光客をターゲットにしているのですが、そういう人に目線を合わさず、素早く颯爽と歩けば危ないことはありません。
パリの犯罪はスリやバイクからの強奪などが多いので、殺人などは少ない印象です。
しかし、19区ならば、こういことも起こり得るかもしれない、というリアリティがあります。
「蚊に刺された」と男性が言ったのは、意識が朦朧としてきて、ナイフで刺されたこともあやふやになってしまったからなのだと思いました。
好きになった女性に声をかけようとして、人を間違えたばっかりに起きた悲劇。
彼は、好きな人に見届けられたから、幸せな一生だったのかもしれません。
この内容で「お祭り広場」というタイトルはちょっと皮肉な気もしました。
監督は南アフリカ出身なので、アフリカ系の人々を中心に作品を撮影したのかなと思いました。
「14区」は、一人旅をしている中年女性の心の中で起こっていることを描いた作品
デンヴァーで郵便配達する女性が、パリに憧れて一人旅する話です。
一度デンヴァーにも行ったことがあるのですが、自然はいっぱいだけれど、刺激が足りない感じがしました。
そういう町に住んでいて、実直な仕事をしている女性が、華やかなパリに憧れる気持ちは、よく理解できます。
昔、「旅情」という映画に影響を受けヴェニスに行ったことがあるのですが、この作品の主人公は「旅情」のキャサリン・ヘップバーンの立場に似ていると思いました。
一人旅の面白さとちょっとした寂しさはどちらの作品にも感じるのですが、こちらの作品では主人公にあまり劇的なことは起こらないし、一人で完結している感じがします。
でも、実際に人と触れ合ってなくても、ふだん感じない人生について考えるひとときが持てたりするのも、旅の醍醐味の一つなのかな、と思いました。
パリ症候群ではないと思いますが、理想のパリとは違う部分もあり、少しホームシックにもなっている。
でも、心の中にパリに愛されている、という思いが湧きあがったことで、彼女は一人旅でも決して孤独ではなかったのだと思います。
わたしはフランス語を三ヶ月習ったのですが、ほとんど話すことができなかったので、この主人公はかなりの努力家なんだなと感心しました。
「パリ、ジュテーム」の他のみどころ
「パリ、ジュテーム」は、有名な俳優・女優がさりげなく登場しているので、そこも見どころです。
「16区から遠く離れて」の主人公が、「そして、ひと粒のひかり」の主人公だったということは、後から情報を見て知りました。
見ている時は、ナタリー・ポートマンやジーナ・ローランズも、まったく気付かなかったです。それだけ作品にのめりこめたということなのかもしれません。
ガス・ヴァン・サント監督がゲイの多いマレ地区を舞台にしたように、多くの作品では監督が脚本も手がけ、自分の興味のある分野を描いているのも興味深いです。
わたしは「CUBE」が嫌いで、映画の最中に目をつぶることもあったのですが、「マドレーヌ界隈」はホラーとは言ってもマイルドに描かれているので、そんなに悪い印象を持ちませんでした。
モノクロのような画面に、ちょっとくすんだ人工的な血が登場するので(「シンドラーのリスト」の中の少女の服のように)、リアルな感じはせず、ファンタジー作品のような印象を持ちました。
ヴィンチェンゾ・ナタリ監督の作品に良い印象を持てたのは、思わぬ発見でした。
すべての作品を見た後は、1本が5分くらいと短いので、気に入ったエピソードだけつまみ食いしてリピートするのもありかもしれません。(動画配信やDVDの場合)
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