濃さ抜群の複雑な心の描写が好き
生々しい感情表現と言葉が秀逸すぎる
ジョージさん、マジでうますぎです…そう言わずにはいられないくらい、言葉が心にグサッと刺さりまくる。有名な「溺れるナイフ」だけではなく、「ピースオブケイク」もまたドロッとしているのにその正直さが共感を呼びまくる作品だ。ジョージさんと、いくえみ綾さんは作品のタイプが似ているなーと常日頃思う。包み隠さずそのままを見せてくれるからね。逆に信用できるんだよ。
この作品の主人公である志乃。彼女は優柔不断な性格というよりは、はっきりできるほどの意志や、狂ってしまいそうなくらいの激情を持てたことがない、お子様だった。自分でも、なんで好きでもない相手と付き合っているんだろうとか、適当に二股状態になってるんだろうとか…しつこく迫ってくる相手なのに、それすら愛してもいるから離れられない。はっきりできない自分を責めながらも、動けずにいる心…そういう複雑さがすごく理解できるんだ。自分だって嫌なんだよこんな状況。それでも、何も変化させようとできない…弱い自分がそこにいた。そんな志乃のこと、何度読んでもやっぱり嫌いにはなれないなーって思う。自分を見ているようだ…と思ってしまった女子も多いことだろう。結局別れすらも嫌いだと思っていた相手から告げさせてしまった。彼女のみじめな気持ちと、頭で考えていただけで何もできていなかったという後悔が、ものすごく心に沁みてくる。
女ってさ。とことんめんどくさいんだわ。
京ちゃんの言葉もまた、生々しいんだよね。あかりが本当はいいやつだってこと、ちゃんと俺が分かってる。うまく伝えられないところも、全部含めて、あかりを好きでいてくれている。その気持ち、リアルそのもの。誰かと付き合うって、きっとそういうこと。
女は常に失敗を繰り返す
志乃にとってはどうでもいい男だったはずの正輝。でも志乃が京ちゃんにぞっこんラブになってから、正輝の気持ちが痛いほどわかるようになる。本気で誰かを好きになるということは、きっとこういうこと。本気ですべてがほしいと願い、そばにいてくれないことに嘆き、常に大切にしたいと思う…今まで好きだと言われれば付き合ってきた。だけど自分から好きになったことはきっとなかった。一生懸命好きだと思える相手ができて、好きなら叶うわけではないことを知っていく志乃。…成長やね。
暑すぎるあの夏の夜に、京ちゃんと出会った。もう、一発目で好きになっていた。彼女がいるってわかっている。だけど、好きな気持ちは止まらないものなんだね。がんばったら報われるものではないとしても、初めての大好きな気持ちを大切にしようとする志乃。本気の好意を向けられて、困ってしまう京ちゃん。でもちゃんと京ちゃんはあかりを想って線を引いてた。
だから、失敗してしまったのはあかりなんだよ。京ちゃんが自分から離れていく…そんな焦りから、志乃をけん制せずにはいられない。大好きな人が、別の人のほうを向き始める…この焦りと不安、つらいよね。傷つく前に離れたい。24歳だと偽り、19歳のくせに背伸びして、でも自分のありのままを好きになってくれた京ちゃん。そばにおいてくれた京ちゃん…ちゃんと自信を持つべきだった。そばにいてもいいんだと確認するべきだった。それができなかったあかりに、同情せずにはいられない。一度離れて、もう一度向き合おうと勇気振り絞って戻ってきたときには、すでにあかりの入り込める隙間はなくなっていた。そりゃそうだ、嘘だらけの自分を、どうやってもう一度信じてほしいと言えばいいのかわからないよね。捨てた時間はもう二度と戻ってこないんだ。
頭の中で何度も戻ってくる男
好きだと言われると好きになれる気がする。そんな志乃を好きになった正輝は…大変だったね。どうにかして振り向いてもらいたいのに、いつの間にか別の方向を向かれて気に食わない。でも終わっちゃうのが怖くて本心を言えなくて、でもどうにかしたくて言葉で傷つけたり、束縛しまくったりする。苦しいくらいに、好きだったんだなって思うよ。
25歳という年齢になるまで、人を好きになったことがなかった志乃。わからない人にはわからないかもしれないけど、志乃みたいな女は実に多いと思う。情熱がなくても愛の言葉をもらえちゃう部類の人もね。
だから、そんな状況に陥ってしまった正輝という人間を最後まで憎むことはできなかった。しばりつけておきたいくらい、愛しちゃってたんだと思うよ。それを包み隠さず、お互いが気持ちを伝え合えていたら、もっと違った結果になっていたのかもしれない。志乃だって、正輝の嫌な所たくさん知っていたけど、それがまた好きなポイントでもあったという。正輝って…タイミングが悪い男よね。
志乃みたいな思考になっちゃう人は、大切な人に想いを告げられなかったり、ため込みすぎて何もいえなくなっちゃったり、付き合うにはめんどくさい女。…の部類に入るのだろう。この恋愛は簡単に略奪愛という言葉で片づけられるほど、思考の浅い物語ではないからね。志乃も、あかりも、京ちゃんも、みんなが人間で、あいまいで、複雑。動けなくて立ち止まって、どうしたらいいだろうって一生懸命答えを探して、どうにかこうにか次に進んでいるのである。正輝に関しては、彼が志乃との恋愛から学習し、もう一度誰かを好きになることができてほしいと、願ってやまない。
何度でも君と
志乃と京ちゃんが付き合い始めて、またあかりがチラチラと動き始める。だって、あかりは京ちゃんを嫌いで離れたんじゃない。大好きだから逃げたくなったのである。覚悟をして、京ちゃんを取り返したいと願って、それでも京ちゃんだって志乃を裏切りたくないから何もできなくて…今更、伝えられる気持ちが本当なのかって信じられない。確かにあの時まで、俺はあかりのことを愛していた。だけどあかりはそうじゃなかったんだろう?今は寂しくなったから来ているだけなんだろう?そう思いつつ、突き放せない自分がいることにも驚いている京ちゃん…。複雑やね。また元さやに戻る気なんてないのに、心がぐるぐるするね。
だから、京ちゃんと志乃が離れなくてはならなかったとき、志乃もつらかったかもしれないけど、京ちゃんだってつらかったんだよ。正直に気持ちを伝えてあげることができなかったし、全部かなぐり捨てられるほど心が強いわけじゃなかった。でも京ちゃんだって、志乃を好きな気持ちは絶対に捨てたくないと思っていた。だからこそクワイズモを育てて、ちゃんと大きくして、待っていたんだろう。志乃が何度も枯らしてしまったクワイズモを、京ちゃんは上手に育ててくれていた。クワイズモが育つ分だけ、君への気持ちも大きくなっているよ。もうそれを知ることができただけでも感動なのに、あの強烈な再会シーン…最強。
難しいことなんてない
頭で考えすぎているんだよね。とにかくやってみればよかったんだよ。志乃、京ちゃん、あかりはみんながみんな曖昧な部分を持っていた。まず志乃が前向きに一生懸命京ちゃんを好きでいてくれる方向へと変わり、次にあかりが本来の自分から逃げないことを決め、ラストは京ちゃん自身がでかくなって帰ってきてくれた。みんながちょっとずつ成長していく物語だったね。ドロドロした気持ちはだれもが持っている。それを完全に清算することはできなくて、どうにかしたいと思っていて、回り道ばっかりしている。特に女はそういう生き物で、常に何かを探しているし、ぴたっとはまるひとかけらを探しているのだ。5巻しかなかったの?っていうくらい濃く、深く、いろいろな気持ちを表現してくれている漫画だなーと感心するね。
大事なことは、想いを伝えることだし、壊れてしまわないように努力して、勇気を出すこと。それしかないんだろうね。単純な答えに至るまでが本当に大変ってことだ。
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