自分らしく生きていきたいといつの世代も思っていたと知る
親の背中を見て志した夢
チカラは女学校に通う女性。政府の汚職をすっぱ抜いて毅然と立ち向かう、集英日報の一人娘である。言論の自由が叫ばれるようになった時代で、女の人だって働きたいと思い始めたちょうどそのあたりを描いている。チカラは圧力に負けずに真実を伝えようとする父親の新聞社を誇りに思っていたし、自分も新聞記者になって働きたいという夢を持っていた。ちょうど時代を表現しているというか、そういう人だった。
初っ端がすごーく堅苦しい印象で、こりゃー伝記にでもするんだろうか?と思う始まりだった。ところが内容は言論の自由よりも恋愛の自由を描いている物語だったというオチ。男も女も自由に伴侶を選べるわけではなかったときに、それでも好きな人と一緒になりたいという気持ちはあったわけで、いつの時代も恋って大変だったんだなーと感じるお話だ。あれ?親の背中を見て志した夢は…どうした?と思ったりもするが、この短さでどう仕上げるかと考えたら、やはり恋物語の方向に偏るよね。そうでなければ読まないもの。
家柄とか、世間体とか、歯がゆいものがより強固にあったときで、切なさもまた倍増する。財産・これからさき親戚一同安泰に暮らせるかどうかすらもかかった運命の結婚。そりゃー離婚なんて考えないよね。今は自由に恋愛して、自由に結婚相手を選んで、自由に離婚するからね。もはやバツ1くらいはステータスとしてセーフなんじゃないかってレベルになっている気がする。誰かにつくられた関係しかないって言われれば、その中でどうにかがんばって、小さな幸せを見つけるだろう。選択肢が多くあると思えば、最もいいものを選びたくなるから次々乗り換えてもいいような気がするだろう。…はたしてどっちがいいんだろうね?って思うと、どっちがいいとも言えないよね~…メリットとデメリットはどちらにも存在するのだから。
誰かに決められた結婚と自分の求める結婚
集英日報を継ぎたいという志は、はっきり言って途中から消え失せるんだよね。というか、自分自身が新聞記者になりたいって言っているのに、婿をとってその人に継いでもらって…って勝手に進められるのは癪だろう。もちろん、お金を融資してくれるという話があるのだし、親のために結婚を成功させることが正しいと頭ではわかっている。でも、達道をみてときめかずにはいられない。想いを明確な言葉で伝え合った関係ではないけれど、確実に両想いだと確信していて…恥ずかしさとドキドキがかわいい感じ。
いろいろ悩みまくったのち、心が叫ぶほうの達道を選ぶことにしたチカラ。もはや志はどこへ行ったか…と思われても仕方がないくらい、恋に首ったけなのであった。どうにでもなれという思い切りの良さは尊敬できるものがあるが、抱いてほしいと自ら突撃した彼女は相当行動派だと言えるだろう。自由に生きようとする力強さを感じるとともに、そのスピーディーな決断には驚きを隠せない。
結婚させられそうになっていた央に関しては、お艶との営みを楽しみつつ、形だけ結婚を受け入れようとしていた悪そうな男と言える。あくまでもワルそうなだけで、心底腐った奴ではない。新聞記者として高い能力、お家柄、お金、恵まれた容姿、そして確かにチカラを妻とする覚悟も持ち合わせていた。気が強く色気の少ないチカラをただの道具としながらも、そういう覚悟ってなかなかできることじゃないっていうか。逆においしいと思って楽しんでしまう男もいるのだろうけど、央はまだいい人だったと感じるよ。
仮面夫婦となろうとも、男はいいよねー他に女を作ろうと、責められることってあんまりない。女は他に男を作ったらマジで殺される勢いだっていうのに。
自由に生きたい
女は女らしく、女学校で良妻賢母になるための授業を受ける。一方の男は男らしく、家庭を守ってお金を稼ぐために働いていく。この形はなかなか揺らぎようがない部分。女が子どもを産んで育て始めたら、男ではできない仕事があるのもまた確かだからね。だからと言ってすべてを女が行うのは不公平だと、今では声を大にして言う人が増えた。
女性の時代がやってくると誰かが世に言い始めて、いったいどれくらいの年数が経過しただろうか?たくさんの女性が当たり前のように働く時代になったけれど、家庭の事に関しては女が引かなくてはならない場合も多くて、まだまだ日本人女性は奥ゆかしい。どんどん変わっていっているのだろうけど、いざという時は脈々と受け継がれてきたものに従って行動してしまっているような気がしてくる。自由に生きていくということは、とても難しいことなんだよね。
この漫画はたった2巻しか出されなくて、作者の和田さんもまだまだ準備しておいた展開はあった様子。新聞社のことよりも恋物語のほうが前面に出ちゃったのは、紙面が足りなかったせいなんだね。新聞社のこと、チカラ自身の恋と成長、関東大震災という災害を前にしてなお強くあろうと決めた女たち。この物語の女性たちは、自由に生きたいと誰もが願っていて、それを叶える人もちらほらと出てきたとき。彼女の生きざまってことで語れば長くなっただろうに。
妄想の中では央推し
達道であれば、好きだから一生懸命がんばって共に生きようとしただろう。本当に好きで、そばにいたいと願った相手なのだから。愛さえあれば幸せで、お金はなくても日々の小さな幸せを感じて生きていったことだろう。
央であれば、絶対に嫌いだ!と言い切っているところからスタートして、央のいいところを見つけてしまったり、きゅんとする出来事に出くわして不意打ちをくらったり…ときめくシーンがいくらでも思いつく。お艶じゃなくてチカラを選んだシーンもあり、愛も着実に育まれていったことだろう。お金もあるから、物がなくて苦しい思いはしなくて済むし、子どもだって不幸にならない。だから女って、経済力のある男を最終的に選びたくなるんだなー…。嫌われてもそばにおくと決めてくれる。苦が少ない方が幸せだと思える。そんな結婚もあったんだよ昔は。
妄想の中では確実に央を選ぶよね、まず。だってそのほうが、お互いの知らないところを知って、かわいいところを知ることができたときの喜びがハンパないもの。まだまだ彼らの動向に関しては語るポイントが大量にあったはず。2巻だけじゃその漫画の良さって絶対伝わらないと思うんだよ。
じっくり回想を入れて5巻くらいまで
過去編、親の恋物語、チカラの葛藤…まだ語ってほしい話題は多くあった。チカラと親の間に実は血のつながりがないってことや、家族とチカラの関係性がつくられていった過程とか、気になりすぎる。そして友だちの静枝さん!彼女の行く末だって教えてほしかった。親みたいな相手との結婚を何とかなしにして、次はどんな相手にときめくのか…チカラ、達道、静枝、央といおう4人のぐちゃぐちゃ愛憎劇にも多少興味があった。新聞社を守って新聞記者になりたいと言っていた、チカラの夢の話も不十分だね。恋にドロッドロに溶けて、ドッカーんと自滅する可能性も考えられた。
チカラと静枝さんが、彼女たちなりに答えを探して飛びついて、離れたりくっついたり、友情を深めていくのも楽しそうではあった。自立してどんな女性として輝いたのか?彼女たちの行く末は今も気になっている。いつかどこかのタイミングでこそっとお知らせしてくれたら嬉しいなーと思う。
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