女性が自分らしく生きたいと思うようになる移行期の時代を描く - チ・カ・ラの感想

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チ・カ・ラ

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画力
3.75
ストーリー
3.00
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女性が自分らしく生きたいと思うようになる移行期の時代を描く

3.53.5
画力
4.0
ストーリー
2.5
キャラクター
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目次

新聞記者の家で育てられたチカラ

言論の自由を掲げ、政府の汚職に立ち向かう強い集英日報。その一人娘として育てられたチカラは、小さなころからお転婆で元気いっぱいの女の子。女学校に通いながら、将来は父の会社を継いで新聞記者として働きたいという夢を持っていました。

スタートの時点で、なんか難しい話ばっかりになりそうだなーって心配でしたが、読み進めていけば、恋物語でしたね。お互い自由に伴侶を選べない時代。これからは自由恋愛の時代だと分かってはいても、家柄や世間体・体裁を考えて堂々と口にはできない。こんな歯がゆい時代があったんだなーって思うとせつないね。まー今の時代よりも離婚率は絶対低いだろうけど。何せ財産のかかった結婚だからね。今は自由に恋愛ができ、自由に結婚ができ、恋愛しないこともでき、そして自由に離婚ができる。人と人とのつながりは果たして縛られていたほうがよかったのか、それとも自由であるべきだったのか…そんなことを言うおじいちゃんがいそうだな~…と思いながら読んでいました。自由であることは絶対に譲れないね。今となっては。

まず「新聞記者」というチョイスがすごい。まずこの時代の女性なら絶対に志せない領域でしょう。まさに男の園・気力体力精神力でスクープをぶち抜き、出世街道を走る。新聞記者ってそういうイメージです。その背中を見て育ってきたチカラは、自然とその道にあこがれを持ちます。両親がいい人だったんでしょうね。時代の流れを読み、チカラを自由に育てた。裁縫はいまいちでも、心を強く、志を高く、家族想いの優しいチカラ。素敵な両親だったからこそ、チカラは集英日報のために結婚を受けようと決めます。うーん、泣けるね。

政略結婚と初恋の狭間

しかし、頭では集英日報のため、大切に自分を育ててくれた両親のため、嫁ぐことが正しいとわかっているのに…心が達道を呼んでしまう。明確に「好き」とか「愛してる」とか言わずに、恥じらいとか見つめあうときのドキドキとかをお互いが感じ取って、惹かれあう感じが初々しかったです。はっきり言わないのが「時代だな~」って感じ。結局、達道と結ばれてしまいますからね…こういうとき、ほんとチカラは行動派だなーと思う。今の時代に限りなく近い、自由に生きている女性の強さを感じますよ。「抱いてください」って言えるってすごいよね。つい最近まで初恋の何たるかも知らなかったのに、早いものです。

政略結婚の相手、央は完全に脅しから入っていたのでイメージが相当悪くなってしまいました。いい人から取り入っていったらわからなかったと思うんですけどね。しかもお艶さんとの関係もばれている。まさにマイナスからのスタート。新聞記者としての確かな能力があることは間違いないけれど、チカラが欲しいのはそういうんじゃないんですよね。チカラ自身が、新聞記者としての能力が欲しいと思っているわけで、決して誰かに頼りたいなんて思ってないんです。自分の力で集英日報を救いたい。両親の役に立ちたい。まっすぐで、貪欲で、ヒーローかってくらいです。だけど、頭のいい彼女は、自分に力が足りないこと・女性であるがゆえに大きなハンデを背負っているということをわかっていて、央を選ぼうとする。能力のある人間ってやつは、ずるいなーと思うね。そしてそれ1つで人を動かすこともできるわけですよ。

自由

女性は女学校で良妻賢母になるための勉強・実技練習を重ねる。男性は男らしく、家庭を守るために勉強し働いていく。そんな固定概念は、今も息づいていますよね。どちらかと言えば、そのほうが都合がいいことが多い。「これからは女性の時代」そう言い続けていったい何年経つんだよ…ってぐらい、ずっと言ってます。政界に女性もいるし、テレビにオネエだって出るし、ジェンダーフリーは確実に理解され、自然なことのように扱われているのに、「男なら泣くな強くなれ」「女なら優しく謙虚であれ」ということを何となくそうだな~って理解できてしまう。そしてそのほうがいいよねって言えてしまう。怖いですよね。いざってときはその呪縛からきっと逃れられない気すらしてきます。こうあるべき、とか、理想とする姿って、どうしても両親やそのまた両親、脈々と続いてきたものを継承してしまいがちです。だから「自由」って難しいなーって思います。

この「チ・カ・ラ」は、女性が女性らしく生きていってもいいじゃないって言いたくても言えなかった人が、成長していって言えるようになるところを描いてくれるんじゃないかなって期待もありました。作者の和田先生も、まだまだ続きの要素は考えていたみたいですしね。でも、2巻という短さで終わってしまったので、恋物語がずいぶんと強く表現されてしまいました。そこはすごく残念です。関東大震災に想いを馳せる意味も含めて、いろいろな女性の気持ちを込めて描いていた作品らしかったので、まだまだチカラの成長したあとの物語だって語れたと思うし、「自由」について考えを深めてくれそうでしたしね。

央か達道か

どちらと結婚しても、それぞれにいい未来があったと思いますね。達道だったら、それこそ好きな人だからこそ、ずっと添い遂げようと思えるでしょう。最初からお互いを好きな状態ですから、どれだけ貧しかろうが、足りないものがあろうが、愛さえあればいいという夫婦でしょうね。

一方の央であれば、はじめは絶対仲良くできないけれど、央の不器用な愛に少しずつ気づいていって、幸せになれた気がします。お艶を放っておいてチカラを追いかけた時、その片鱗を見たように思います。実は二人ともお互いの生まれに関して関係があり、ずっと君を探していたんだよ…的な。嫌われてもいい。君をそばにおけるのなら。そんな不器用ラブがすぐにでも始まりそうな予感しかなかったです。達道の実家は賄賂疑惑もあり、絶対に不利な立場になる。そうまでして付き合い続けるよりも、央との結婚が絶対にいい。心に従うか、立場に従うか…昔も今も、こういうのは究極の選択ですね。どちらを選ぼうが、デメリットがあるとわかっているし、メリットもある。強く生き続けるチカラであれば、央を選択したっておかしくないし、強いがゆえの弱さの部分を補う達道を選んでもしっくりくる。あと3巻くらい続けてもらって焦らされたかったなーと思います。

あと2ひねりくらいありそうだった

達道はいいとして、やっぱり央ですよね。過去編をじっくりと回想してもらいたかったです。チカラが引き取られた子供であるというエピソードもあっさりと展開され、反抗期になることもなくすんなりと受け入れてしまったところもちょっと物足りないしね。母親のナイスフォローのおかげでチカラは両親にさらに感謝し、もっと恩義を感じ、央を選ぼうとしていた。もはや策略…?

央の過去、チカラの過去、達道の愛の語らい、そして大切な友だち静枝さんの行く末もまだまだ教えてもらいたかったですね。親の歳ほど離れた相手との政略結婚を免れ、どんな恋に走っていく予定だったのか。もしかしたら央…?という気もしなくもないけれど、そしたらあまりにもドロドロしすぎて手が付けられなくなり、新聞社のことがもはやどうでも良くなってしまいそう。できればその辺の喫茶店とかで働く若くてかわいい系の男の人をゲットしてくれると、イメージにぴったりはまるんですけどね~。そして、自立したチカラと静枝さんが見てみたかったです。

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自分らしく生きていきたいといつの世代も思っていたと知る

親の背中を見て志した夢チカラは女学校に通う女性。政府の汚職をすっぱ抜いて毅然と立ち向かう、集英日報の一人娘である。言論の自由が叫ばれるようになった時代で、女の人だって働きたいと思い始めたちょうどそのあたりを描いている。チカラは圧力に負けずに真実を伝えようとする父親の新聞社を誇りに思っていたし、自分も新聞記者になって働きたいという夢を持っていた。ちょうど時代を表現しているというか、そういう人だった。初っ端がすごーく堅苦しい印象で、こりゃー伝記にでもするんだろうか?と思う始まりだった。ところが内容は言論の自由よりも恋愛の自由を描いている物語だったというオチ。男も女も自由に伴侶を選べるわけではなかったときに、それでも好きな人と一緒になりたいという気持ちはあったわけで、いつの時代も恋って大変だったんだなーと感じるお話だ。あれ?親の背中を見て志した夢は…どうした?と思ったりもするが、この短さでど...この感想を読む

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